「おんなコドモの風景」という本を読んでいる。
285ページぎっしりに文字が並んだ随筆集だが、決して世に出ているような難しい話ではなく、庶民の女のお母さんの家族の日々の出来事を綴ったものだ。
著者は干刈あがたという女性で、誰でもが知っているというほどの作家でもない。むしろその人のことを詳しくご存知の人はどちらかというと少ないと思う。
彼女は東京青梅市で生まれ、杉並区に9歳の時に越し、目黒区で27~8年くらい暮らしたのだろうか。39歳の時に文壇にデビューし、10年ほどの作家生活を送った。その間、芥川賞の候補に3度も上がったが、願いは叶わなかった。
ここで述べるのはそのことではない。
彼女の女性進出というか、家庭の崩壊、離婚、シングルマザー、子育てなどという、その彼女自身の生きざまを身近な社会問題としてとらえ、多くの共感を呼んだことである。
そしてわずか10年の作家活動にして、惜しまれてわずか49歳でその生涯を閉じている。
昭和18年生まれで、今もし生存されているなら80歳になったばかりなのだろうか。
彼女が作家として活動していた昭和60年頃はまだまだ女性の社会に対する地位は低かった。今でこそ男女共同参画とか騒がれているが、40年近く前はそれこそ女性の社会進出をメインテーマに書く作家は他にいなく、彼女一人だったと思う。
時が過ぎて今でこそ女性作家が女性の社会問題を書く事が増えてきているが、干刈さんがその先駆的役割を担ったといっても決して過言ではあるまい。
そういうことを胸にこめて、この「おんなコドモの風景」を読んでいる。小説を主として書いていた彼女の初めての随筆集ということもあり、文章の上手さよりも視点のとらえ方が鋭いなと私自身は思う。
もっと生きていて、たくさんの本を出してほしいと思う作家の一人である。その本では42歳の時に、このところ煙草の吸いすぎで胃が痛い。ホドホドにしないといけないなあと顔をしかめ胃を手で押さえながら郵便受はのぞくと・・・・と94ページ目に記している。49歳で胃ガンで亡くなったことから考えると、その時が彼女の胃の病気の前ぶれだったのだと思う。
続けて、私も健康に気をつけて、二十一世紀に五十七歳になるまで生きてみようかな。タバコをやめなくちゃ。とも書いている。
ちなみに彼女の故郷「青梅市」にそのお墓はあるが、今度時間を作って、ゆっくり訪ねたいと今は思っている。
「つれづれ(106)10年間を駆けぬけた人」