地域施設計画研究39 2021年7月 日本建築学会
建築計画委員会 施設計画運営委員会 地域施設計画小委員会
Regional Community Facilities Planning and Design, AIJ, Vol.39, Jul., 2021
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成長期の住まいにおける世代間差と住環境の評価 「振り返り」に基づいた住環境の有り様に関する研究(2) LIVING ENVIRONMENT AND DIFFERENCE BETWEEN GENERATIONS IN HOUSE OF A GROWING PERIOD Study on a Living Environment’s Role in the Human Growth Period Based on an "Inventory" of Adults (2) Keywords: Memories,House,Communication Of Family,Spatial Composition,Evaluation Structure 振り返り,住まい,家族のコミュニケーション,空間構成,評価構造 In this research, we investigated the relationships between spatial conditions, such as the spatial compositon in homes in the human growing period and the manner of living and family structure from the standpoint of children, based on a questionnaire and interviews and targeting adults. Also, the structure of the relationship between elements of homes and human development was evaluated. We found characteristic trends, For example, there is a difference depending on the dwelling form. In a detached house, elements of value intervening in communication were more diverse than in a custom house, and in a person’s own room in multifamily housing, and the ratio of "feeling of relaxation" as an evaluation choice was higher. ○山田あすか* ,高橋愛香** Asuka YAMADA and Aika TAKAHASHI 1.本研究の背景と目的と手順 1.1 研究の背景と目的 近年,核家族化や少子化,共働き親や片親世帯の増 加などの社会的要因と共に,こどもの成長期における 住まいでの家族とのコミュニケーション不足が指摘さ れることがある1)。また,成長期のこどもをもつ家族 の住まいについての既往研究の多くは,こどもからの 聞き取りやこども目線での分析によるものである。例 えば田中,植田ら2)3)は,小学生4~6年生とその保 護者を対象に,こども部屋に対する親の意識や親子間 のコミュニケーションの現状など,家庭環境のあり方 について論じている。また,江上4)5)は集合住宅で の家族間コミュニケーションはリビング,ダイニング キッチン,ダイニングで起きるとし,定行,小川ら6) は集合住宅では中高生が落ち着ける場やプライバシー 空間,間取りの広さが必要で,専用の自室などの居場 所が重要性だと述べた。また,森保,山田ら7)~9)は 会話に限らず視覚や聴覚での非言語接触を含め家族と 接触できる箇所を多く設けることが家族間のコミュニ ケーションにつながると指摘した。 これら既往研究の多くは子育て期の親の立場から, また非行や不登校等の問題を抱えたこどもへの聞き取 りやこども目線からの成長期の評価やニーズを明らか にしている。しかし,成長期のこども本人のニーズに 即した住まいであることが,健やかな成長・発達や家 族との関係を育む観点からみて必ずしも正しいとは限 らない。また,当時の住まいを改めて振り返り,評価 する,あるいはニーズを再考する研究はわずかである。 成長期の環境を,成人の振り返りによって評価する 手法として,仙田ら10)11)によるあそび環境に関する 研究や,山田ら12)13)の研究がある。また,既報14)では, 「子の立場」にある成人の振り返りによる,住まいの室 配置などの空間条件と,住まい方や家族との関係,成 長環境としての評価の構造を調べ,特徴的な知見とし * 東京電機大学未来科学部建築学科 教授・博士(工学) ** 東京電機大学未来科学部建築学科 修士課程(当時 * Professor, Dept. of Architecture, School of Science and Technology for Future Life, Tokyo Denki Univ. ** Former Student, Dept. of Architecture, Graduated School of Science and Technology for Future Life, Tokyo Denki Univ. − 17 − 地域施設計画研究39 2021年7月 日本建築学会 建築計画委員会 施設計画運営委員会 地域施設計画小委員会 Regional Community Facilities Planning and Design, AIJ, Vol.39, Jul., 2021 ては以下のような知見を得た。①対母親コミュニケー ション頻度において,中学生時期の廊下型で,[頻繁] の割合が高い(一般的な認識と逆)。②対父親コミュニ ケーション印象で,コミュニケーションを子側が選択 できない場合に[ポジティブ]の割合が低い。③住宅 内でよくいた場所は,小学生時期では戸建で団欒空間, 集合住宅では自室の割合が高い。④記憶に残る場面は, 小学生時期は戸建・集合住宅とも[遊び]場面が多く, 特に自室は[遊び]の場として想起された。また,戸 建の方がより多くの種類の活動や関わりの場として意 識されていた。⑤記憶に残る場面の評価語のうち,成 長への意識に最も近いと考えられる[達成・成長・発見] の割合は戸建の自室で最も高く,これは自室が勉強の 場として意識されていることに多分に起因する。なお, これらの知見は「子の立場」からの評価であり,親の 立場では異なる評価が得られることが予期された。 これらを踏まえ,本研究では,成人の振り返りによ る,成長期の住まいの住戸形態(戸建/集合住宅)や 室配置といった住まいの空間条件,子の立場からの家 族との関係(コミュニケーション頻度等),こどもの頃 の記憶に残っている印象深い場面から得られた価値に ついて,子育ての視点を持たない立場と,持つ立場の 2つの視点から調査する。さらに子育て視点からみる 住まいの取り組みについて調査し,成長期の住まいに ついての考察を深めることを目的とする。なお,環境 心理学の立場15)からは,評価者にとっては評価者自身 が感じ,意味づける環境(心理学的環境)が価値判断 や行動の基準になると言われる。そのため内的イメー ジとしての住まい像や家族との関係の振り返りによる 評価の研究は,成長期の住まいの多面的な理解に資す ると考える。また住まいの多面的な理解は,現在の多 様化・複雑化する家族形態への建築計画的アプローチ の一助となると考える。 1.2 研究の手順 既往研究14)では大学生を対象とし,成長期の住ま いに関する研究を行った。住戸形態ごとの自室と団欒 空間の特徴として,戸建の自室ではきょうだいと友 図1 自室/家族の寝室の室配置の分類とプラン例 A B 親の 寝室 C 私の 廊下 部屋 私の 部屋 私の 寝室 祖母 の寝室 弟の 親の 寝室 寝室 弟の 部屋 LDK DK L S=1/ 500 ▲ 玄関▲ 勝手口 1階 2階 L D 1 寝室アプローチ 寝室アプローチ 寝室アプローチ K 客間 土間・土足スペース B B B C A A A N N N b b b a a d A 2 B 3 C b ・L と家族の寝室兼用 ・玄関を私の部屋に改修 ・主にLから出入りする ・寝るのは弟の部屋 自室 寝室 父室母室浴室トイレ 8・0 12・0 (人) (人) 12・1 8・1 13・0 5・0 12・2 4・1 4・0 4・0 1・0 なし 2・0 4・0 3・1 2・0 2・0 2・0 3・0 3・1 2・0 2・0 2・0 6・0 13・2 1・0 4・0 1・0 3・0 22・1 5・1 2・4 16・1 2・0 4・0 3・0 1・0 1・0 8・0 3・1 2・0 2・0 2・0 1・0 8・0 4・1 2・0 2・0 2・0 1・0 12・1 12・1 1・0 3・0 21・2 5・0 0・4 4・4 1・0 1・0 2・0 寝 寝 寝L K D 寝 寝 寝L K D 寝 寝 L K D LDK 廊下 寝 寝 寝 寝 部屋 外部 / 廊下型 / / / 団欒空間 型 連続型 外部空間 型 説明 ダイアグラム B A C D 廊下型 団欒空間 型 混合型 空間構成 説明 ダイアグラム 空間構成 各家族の寝室へのアプローチ/ 水廻り(浴室とトイレ)へのアプローチ b a c d B A AB C D 家全体からみる家族の寝室へのアプローチ B B A A C C すべての寝室へ は廊下や通路と して用いる空間 からアクセスする 寝室へは廊下か らアクセスする 寝室へは下足に 履き替えてアク セスする ・複数のアクセス方法がある場合:廊下と団欒空間であれば廊下/団欒空間型( / 型 )と示す ・トイレが複数ある場合は浴室に近いトイレのみ示す ・家族の寝室へのアプローチをABCDで,水回りへのアプローチをabcdで示す 寝室へはLDK 以 外の他の部屋か らアクセスする 寝室へはLDK か らアクセスする すべての寝室へ はLDK からア クセスする 廊下とLDK か らアクセスする 寝室が混在 BC AC b d a d 表の数字:戸建・集合住宅(人数) 表の網掛けなし:小学生時期 表の網掛けあり:中学生時期 表の凡例 プラン例の凡例 コミュニケーションの発生の蓋然性に着目したアプローチの分類 収集したプラン例と集計 住戸形態別集計数 戸建 小中小中 33 (人) 2 30 2 15 9 18 6 (Ⅰ) (Ⅲ) 集合住宅 住まいについて ・部屋の意味付け:こどもの描いた成長期の住まいの配置兼平面図より、各部屋がど のように使われていたのか(水廻りを除く部屋について) ・部屋に対するこだわり:上記であげたように部屋を使用するのに取り組んだことや 必要なものは何か(家具や部屋の場所など) ・他者の招き入れの許可:各部屋は誰が使用してよいか(誰でも,家族のみ,など) こどもとのコミュニケーションについて ・コミュニケーション頻度:こどもとの会話の頻度について,よくしゃべった・用事 のある時だけしゃべった・しゃべらなかった・覚えていないから選択 ・コミュニケーションをとった場所と行為:こどもとよく会話をした場所でこどもと 何をしたか 表1 調査概要 調査人数 調査対象期間 調査人数 調査対象者:2013 年時の建築系大学生の親 [ 生まれ年:1950 ~ 1970 年] (Ⅰ)配布:父21・母24 名 回答:13・22 名 (Ⅱ)父5・母8名 ラダーリング全67 件 (Ⅲ)配布:父21・母24 名 回答:13・21 名 ①小学2~5年生 ②中学2年生 調査実施期間 2015年8月~10月調査人数 ラダーリングインタビュー(Ⅱ) 調査手順と項目 楽しい 友達と遊ぶ 広い場所 アンケート調査(Ⅰ) アンケート調査(Ⅲ) その場面 から得ら れた価値 インタビュー の起点とな る場面 その場面を 成立させる 環境条件 (Ⅰ)でたずねた「記憶に残っている場面や 行為」から得られた価値と、その場面や行為 を成立させる環境条件についてインタビュー 形式で詳しくうかがう 住まいの配置兼平面図の描写 ・各部屋の使い方:各部屋の専有者や家族の集まる場所(リビングダイニングなど) を確認する ・よくいた場所:回答者本人がよくいた場所と,当時同居していた家族構成員それぞ れのよくいた場所を確認する 住まいの概要について ・生活環境:生活環境の変化は経験あるか,ある場合その時期はいつか(家の住み替 え,増改築など) ・住まいの印象:住まいの居心地の評価(よかったかなど)や,平日(放課後)/休 日の過ごし方 ・家族との関わり方:生活の中で家族とどれくらいコミュニケーションをとっていた か(会話の頻度など)また,その人とコミュニケーションをとることをどのように 思っていたか(もっとしゃべりたかった,あまりしゃべりたくなかった,など) ・記憶に残っている場面や行為:図面で場所を示し,そこで誰と何をしていたのか 小学校時期,中学校時期について, 戸建・集合住宅合計で最大35 名。上 記は小学校時期は覚えていない,小 学校時期だけ答える,等の回答協力 状況により,分析対象とできた実数 − 18 − クラメールの 連関係数 V 住まいの空間条件 やや弱い関連(V=0.25~0.5) 住まい方とコミュニケーション やや強い関連(V=0.5 ~ 0.8) 対父親COM・頻度 対父親COM・印象 住まいの居心地 住戸形態 自室の有無 団欒空間の通行 自室へのアプローチ 父室へのアプローチ 寝室へのアプローチ 母室へのアプローチ 平日-休日の過ごし方 非常に強い関連(V=0.8 ~ 1.0) 0.2511 0.3062 0.5041 0.5017 0.8339 0.5000 0.4247 0.4938 0.5016 0.5580 0.2598 0.3688 0.2881 0.3294 0.3366 0.5073 0.4410 0.4410 0.5303 0.3536 1.0000 0.3632 0.4313 0.3478 0.3344 0.3780 0.3724 0.4122 0.2958 0.5270 0.5270 0.3227 0.4125 0.6208 0.5980 0.3953 0.4082 0.2618 よくいた場所 対父親COM・頻度 対父親COM・印象 住戸形態 自室の有無 団欒空間の通行 自室へのアプローチ 父室へのアプローチ 寝室へのアプローチ 母室へのアプローチ 平日-休日の過ごし方 0.2719 0.2948 0.3608 0.2731 0.3527 0.3646 0.3078 0.4330 0.3463 0.3463 0.5401 0.5401 0.5574 1.0000 0.3646 0.3721 0.3949 0.3766 0.3655 0.2996 0.4188 0.3604 0.3112 0.6023 0.4146 0.7202 0.4316 0.7202 0.4486 0.2881 0.3706 0.2928 0.6322 0.2692 よくいた場所 図2 時期ごとの項目間の関係 凡例 小学2~5年生の時期中学2年生の時期 ① ② ③ ④ *対母親コミュニケーション頻度と対母親コミュニケーションの印象は,両時期とも各項目への相関係数が低く,項目相互に関連ある項目として抽出されなかった。 達,団欒空間では家族という,自分と場面を共有する 相手による場所の差異がある。また,集合住宅の自室 では他者との行為の割合は自分の行為の割合よりも低 く,団欒空間では逆に他者との行為の割合が高いこと から,[人の存在]によって場所の認識を異にしている 傾向が得られた。本稿では,親世代である子育てとい う視点をもつ立場によると,大学生の振り返りとは異 なる知見が得られる可能性に着目した。また,大学生 が成長期の住まいで,得られた傾向について,親の視 点から子育て期の各部屋の意味付けや他者の招き入れ の許可の様子などを把握する。 2.調査概要 表1に調査概要を示す。既往研究14)で協力を得た大 学生の親を対象として,親自身が成長期にあった際の 住まいの概要を尋ねるアンケート調査( Ⅰ ) と,親目 線での住まい方やこどものとのコミュニケーションに ついてのアンケート調査(Ⅲ)を行った。さらに協力 を得られた場合に,記憶に残っている場面や行為から 得られた価値とその条件の構造についてのラダーリン グインタビュー調査( Ⅱ ) を行った。 振り返りの対象とする時期は,小学2~5年生(以 下,小学生時期)と,中学2年生(以下,中学生時期) を調査対象期間とした注1)注2)。また,当時の住戸形態 は戸建/集合住宅の双方に対して依頼した。集合住宅 の回答は少なく分析上は戸建住宅が主となるが,戸建 住宅のなかでの空間条件の差異(庭の有無,立地,構造, 面積等々)もあることから,比較対象としての価値も 加味してこれを分析と集計の対象に加えている。 3.住まいの空間条件とコミュニケーション 3.1 空間条件とコミュニケーションの分類 調査(Ⅰ)から,分析の意図に即して滞在空間と動 線の重複によるコミュニケーションの発生の蓋然性に 着目し,住まいの全ての寝室へのアプローチ構成と, 自室(個人の部屋・こども部屋)注4)・父室・母室(親 の部屋)注5)の各寝室へのアプローチ,水廻りへのア プローチ構成を分類した(図1)。例えば寝室へのアプ ローチタイプは,以下の通りである。その他の分類も 基本的にこの考え方に依拠する。 【寝室へのアプローチ】 *対父親と母親の合計事例数の差は,片親の単身赴任やひとり親世帯のケースによる 対 父親対 母親対 父親対 母親対 父親対 母親 回答者が対象の家族間 でコミュニケーション をとることを好ましく 思っている.もっと話 したかった,など 回答者と対象の家族間 でコミュニケーション について特に関心を抱 いておらず,満足して いる 回答者が対象の家族間 とコミュニケーション をとることを消極的に 思っている.あまり話 したくなかった,など 頻繁稀薄無 集合住宅 対 父親対 母親対 父親対 母親対 父親対 母親 戸建 回答者が対象の家族と 一緒に娯楽の時間を過ご したり,会話するなどの コミュニケーションを日 常的に取っていた 回答者が対象の家族と 用事など必要最低限の会 話やコミュニケーション しかなかった,または回 答者がしたくなかった 回答者が対象の家族と 会話などのコミュ二ケー ションを取っていなかっ た,もしくは回答者が関 わりを持ちたくなかった (小学校時・中学校時) 人数 人数 集合住宅 戸建 (小学校時・中学校時) ポジティブ(P) どちらでもないネガティブ(N) (8・3) (13・10) (0・1) (24・19) (2・1) (22・23) (2・1) (7・10) (0・1) (1・3) (0・0) (0・0) (0・0) (0・0) (20・18) (1・0) (17・17) (2・2) (12・11) (1・2) (2・2) (0・0) (0・0) (0・0) 表2 「私」と父親/母親とのコミュニケーションの分類 − 19 − A 廊下型:すべての寝室へは廊下や通路として用いる 空間からアクセスする B 団欒空間型:すべての寝室へはLDK からアクセス する C 混合型:廊下とLDK からアクセスする寝室が混在 している また,親とのコミュニケーション頻度(頻繁/稀薄 /無)と印象(ポジティブ/どちらでもない/ネガティ ブ)をそれぞれ3種類に,対父親・対母親について分 類した注3)(表2)。 3.2 空間条件とコミュニケーションの関係 空間条件やコミュニケーションの頻度と印象の相関 行列を作成し,このうち相関係数が上位の組み合わせ を抜き出し,図2に示した。 この図2より,小学生時期には,図中【❶】寝室へ のアプローチと,母室・父室・自室へのアプローチ・ 団欒空間の通行との間に[やや強い関係(0.500 ~ 0.598)]がみられる。一方,中学生時期には【❷】寝 室へのアプローチと[やや強い関連]をもつ組み合わ せは,母室へのアプローチ(0.557)のみであること が読み取れる。小学生時期には寝室へのアプローチと 各室へのアプローチに偏りがあるが,中学生時期には その関係が多様に分散し,各回答者において異なるこ とがわかる。 自室へのアプローチと父室・母室へのアプローチに は,小学生時期と中学生時期ともに[やや強い関連 (0.527 ~ 0.720)]がある。また,小学生時期には【❸】 自室へのアプローチと団欒空間の通行(0.834),住ま いの居心地(0.558),対父親コミュニケーション(図 中COM と表示)の印象(0.502)に[やや強い相関] がある注6)。また,自室アプローチが廊下である場合, 対父親コミュニケーション印象はネガティブである割 合が高い。また,廊下型では住まいの居心地が「良い」 とする割合が高い。これらは,当時の【父親】と子の 関係の表れとも理解できる。しかし,中学生時期【❹】 にはそうした関係は見られない。 また,中学生時期には【❺】平日- 休日の過ごし 方と父室・母室へのアプローチとの[やや強い関連 (0.540,0.557)]がみられたのも特徴的である。 4.記憶に残る場面と場所 4.1 記憶に残る場面と場所 記憶に残る場面とその場所を図3にまとめた。場所 の総数に着目すると,自室での記憶に残る場面のみ, 小学生時期よりも中学生時期に回答が多い。これは, 自室での[その他]の場面が小学生時期にはないのに 対し,中学生時期には回答があることが関係しており, ここでの[その他]の場面は,個人の部屋ができた(5 件),こども部屋に2段ベッドが設置された(2件), お気に入りのものがあった(1件)という内容の記述 であった。また,団欒空間での場面の回答の割合が最 も高く,その次に自室の回答の割合が高いことが読み 取れる。 4.2 自室での記憶に残る場面と評価構造 調査Ⅱで得られた,最も印象に残る場面のうち,自 室に関する場面を起点とする評価構造と,団欒空間に 関する場面を起点とする評価構造注7)について,戸建 /集合住宅の別に図4 に示す。住戸形態に共通する語 を図中に網掛けで示した。また,以下に示す()中の 該当数字は,特記ない場合,戸建と集合住宅で共通の 語がある場合はその合計である。 1)場面の評価構造 ■起点となる場面 自室が最も記憶に残る場面とし てあげられた数は,小学生時期には少なく,整理の対 象は小学生時期2件,中学生時期9件であった。心理 的成長の過程において,中学生時期に自室での活動が 大きな役割を果たしていたことを反映していると理解 できる。最も記憶に残る場面としては,自分の部屋が できる(小学生時期0件・中学生時期2件),音楽を聴 場所 自室 0 0 4 団欒空間 和室 家族の部屋 ベランダ ・庭 家の周辺 その他 凡例傍ら数字なし:1 円グラフと棒グラフの数字:回答人数 N=(戸建の回答人数・集合住宅の回答人数) N=(78・5) 小学校2~5年生 中学校2年生 場面 遊び生活勉強アクシ デントその他遊び生活勉強アクシ 集合住宅 デント その他 戸建 住戸形態 小 中 小 中 小 中 小 中 小 中 小 中 小 中 40 20 N=(64・4) ここで「団欒空間」と分類した場所には,図1のLDK を含む。また,当時家族の間で「リ ビング」とは呼ばれていなかったが,実態としていまでいうリビングに該当する部屋(茶 の間,「ごはんを食べる部屋」「家族が集まって過ごす部屋」「テレビの部屋」など)を含む。 5 5 8 5 5 5 7 2 2 2 2 2 2 2 2 3 3 3 13 13 34 3 4 8 8 3 2 16 34 4 4 6 4 3 17 33 2 2 24 10 30 20 11 15 17 10 図3 記憶に残る場面と場所 − 20 − 場面が回答者にとってどのような価値があったか 場面の成立に必要な条件 戸建 戸建 集合住宅 集合住宅 :順接(~だと…だ) ( )内の数:小学時期・中学時期より得られた語の数 :逆接(~でなければ…だ) インタビューの起点 (記憶に残る場面や行為) 「戸建」と「集合住宅」に共通して現れ た語(ほぼ同義と考えられる語を含む) 図4-1 自室に関する評価構造 図4-2 団欒空間に関する評価構造 場面が回答者にとってどのような価値があったか 起点 場面の成立に必要な条件 起点 3 3 3 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 3 2 2 2 2 2 集中できる(0・2) 狭い場所(0・1) 成績が上がる(1・1) 成功する(0・1) こたつがある(0・1) 気楽になれる(0・3) 勉強する(1・1) 親に背中をおされる (1・0) 学級委員長になれる (1・0) 勉強してる兄が いる(1・0) 褒められる(1・0) 人気者になる(1・0) 交換日記を書く (0・1) 好きな人がいる (0・1) 共有する(0・1) 気を遣える(0・1) 勇気がつく(0・1) 恥ずかしい(0・1) ラジカセがある (0・1) 知識がつく(0・1) 成長する(0・1) 流行の音楽が流れる (0・2) 楽しい(0・1) お気に入りの番組が ある(0・1) 裁縫する(0・1) 夢中になれる(0・1) ほしい物がある (0・1) 気分転換になる (0・1) 放し飼いする(0・1) ペットがいる(0・1) 仲良くなる(0・1) 元気になる(0・1) 世話をする(0・1) 自分の部屋ができる (0・2) 生活力がつく(0・1) 襖がある(0・1) 家具がある(0・1) 嬉しい(1・3) 自立する(0・2) 母がいる(0・1) 音楽を聴く(0・2) ひとりでいる(0・3) コミュニケーション がとれる(0・2) 居心地が良い(0・1) 2段ベッドが設置 夢が叶う(0・1) される(0・1) 自分の居場所(0・2) 2段ベッドの上 (0・1) 姉と使う(0・1) エアコンがある (0・1) 西日が入る(0・1) 暑い(0・1) 快適(0・1) 落ち着く(0・2) 録音できる(0・1) リビングがある (0・1) 自由にできる(0・1) 一部屋を二部屋に 仕切る(0・1) 食事する(1・3) 家具がある(0・2) 親戚や友達が集まる (0・2) 招きやすい(0・1) 友達がいる(0・1) 人の輪が広がる (1・1) 広い場所(0・1) 継続する(0・2) 自分の部屋がほしい (1・0) 机スペースがある (1・0) 優越感(1・0) 邪魔されない(1・0) 自分の居場所(1・0) 羨ましい(1・0) 他者の影響を受ける (2・0) 祖母が作った(0・1) 美味しい(0・1) 休日(0・2) 注意力がつく(1・0) ケンカで火傷(1・0) ストーブがある (1・0) テレビを観る(2・3) 距離が近い(1・0) 視力が落ちる(1・0) 怒られる(2・0) 夢中になれる(1・1) 話題にできる(1・2) 共有する(3・2) 感動する(1・0) 感情が豊かになる (1・0) 母が裁縫してる (1・0) 知識がつく(3・0) 興味がわく(1・0) 道具がある(2・0) 作った物を使える 裁縫する(1・0) (1・0) ほしい物がある (1・0) 嬉しい(1・1) 家事をする(1・2) 親が忙しい時(0・2) 音楽を聴く(1・1) 家電が増えた時代 (2・0) 猫を飼う(0・1) 親近感がわく(0・2) 納屋がある(0・1) 癒される(0・2) 野良猫がいる(0・1) 独り占めできる (1・1) ひとりでいる(1・3) お気に入りの番組が ある(1・2) お菓子を作る (1・0) 気分転換になる (1・0) 試験期間中(1・0) 好きになる(2・2) 寝る(0・1) せまい空間(0・1) 居心地が良い(0・1) 開いてる雨戸がある (0・1) 蚊帳がある(0・1) 落ち着く(1・2) 自分の役割(2・0) 井戸がある(1・0) 難しい(1・0) 玄関の近く(1・0) 年越し(0・1) 家が改築される (1・0) 事故に遭う(1・0) 気を遣える(1・0) 先祖が改築を繰り返 してきた家(1・0) 驚く(2・0) 団欒が増える(1・0) LD が繋がる(1・0) 安心感がある(1・1) 怒られる(1・0) ペットと遊びすぎた (1・0) 反省する(4・0) 楽しい(4・2) 部活帰り(0・1) 会話がはずむ(0・1) 夜(0・2) 部屋を飾り付けする (1・0) 家の中にいれる (1・0) モミの木がある (1・0) きょうだいがいる (2・1) 朝食のみの部屋 (0・2) 親がいる(3・1) 朝食の準備中(0・1) 急いでいる(1・1) テレビがある(3・0) 特別感がある(1・1) ピアノを習う (1・0) 先生がいる(1・0) 教室(1・0) 追いやられる(1・1) 嫌だ(1・0) 親戚がいる(1・1) 懐かしむ(0・1) 頻繁な出来事(0・1) 幼い頃の映像がある (0・1) 2世代が暮らす家 (0・1) ステレオがある (1・1) 団欒する(2・0) こたつがある(2・1) あたり前になる (2・1) 食事がある(1・1) 生活の中心の場 (1・0) コミュニケーション がとれる(2・4) 親密になる(1・2) 大切に感じる(2・0) 生活力がつく(1・2) 湿ったものを乾かす (0・1) 散らかっている場所 (0・1) 家族がいる(2・3) やる気がでる(0・1) リビングによく居た (0・1) 自分の部屋がある (0・1) 隣の部屋も使用 (0・1) 快適な場所(0・1) 便利になる(1・0) マット運動する (1・0) 昼間(1・0) 楽しい(1・0) 身体を動かす(1・0) 感謝する(1・0) 静かな遊び(1・0) 優越感がある(1・0) 嬉しい(1・0) 運動能力がつく 職業選択に関わる (1・0) (1・0) 布団がある(1・0) 協力できる(1・0) 寝床を作る(1・0) 家族がいる(1・0) 整理整頓できる (1・0) 選択できる(1・0) スペースをあける (1・0) 家具がある(1・0) − 21 − く(0・2),勉強する(1・1)が比較的多い。 ■場面の成立要素 自室での場面の成立要素として 最も多いのはひとりでいる(0・3)と,その類似の ことがらと思われる自分の居場所(0・2)で,自分 の居場所への言及が多いことは,既報14)における子 世代対象の同様調査の戸建の結果と共通している(既 報では,自分の居場所(3・4)で最も多かった)。同 一の場面や,同一の条件が少なく,回答者によって個 別であるが,家具があることや音楽試聴のための道具・ 環境があることへの言及が比較的多い。家具への言及 は子世代と同様で,特徴的には趣味活動として音楽の 関連語が挙げられていることを指摘できる。 ■場面の価値 場面の価値としては,集中できる (0・2),コミュニケーション(0・2)は子世代と 共通して複数挙げられた。知識がつく(0・1),成績 が上がる(1・1),成長する(0・1)は勉強に関す る成長感で,自室の役割への意識として特徴的だと言 える。また,子世代との違いとして生活力がつく(0・ 1),自立する(0・2),職業選択(1・0)という 主体性への意識が具体的な語で言及された。総じて, 勉強や趣味活動を自由に,主体的に行えることで,居 心地良く落ち着いて過ごしたり精神的な成長,また嬉 しい(2・3)や楽しい(1・1)という快の感情に 結びついている構造を読み取れる。 4.3 団欒空間の記憶に残る場面と評価構造 1)場面の評価構造 ■起点となる場面 評価構造の起点となる,最も記 憶に残る場面としては,テレビを観る(小学生時期2 件・ 中学生時期3 件)が最も多く,次に食事をする(1・3), 家事をする(1・2),団欒する(2・0),音楽を聴く(1・2), 親戚や友達が集まる(0・2)であった。他は1 件ずつで, 多様な場面が挙げられている。子世代との違いで特徴 的であった場面は,家事をする(1・2)と,自分と 母親が裁縫をする(2・0)であった。 ■場面の成立要素 場面の成立に必要な条件として は,家族がいる(戸建2・3,集合住宅1・0),親が いる(3・1),きょうだいがいる(2・1),親戚が いる(1・1)と人に関する語が条件としてあげられ, 逆に,ひとりでいる(1・3)にも言及があった。時 代柄,家電が増えた時代(2・0)の指摘もあり,テ レビがある(3・0)やこたつがある(2・1)も, 場面の成立条件として指摘された。なお,テレビへの 言及や,人の集まりの場としての印象は,子世代と共 通している。イベントの記憶が残り,年越し(0・1) やクリスマスの飾り付けに関連する語があったことも 年月を経ての振り返りとして特徴的であると理解でき る。 ■場面の価値 コミュニケーションがとれる(2・ 4)と,情報・感情・時間を共有する(3・2),団欒 が冷える(1・0),親密になる(1・2),人の輪が 広がる(1・1)という関わりに関する語が多く含ま れる。知識がつく(3・0)や生活力がつく(1・2) は,自室とも共通した言及であった。 4.4 自室と団欒空間の評価に関する語 また,自室と団欒空間の評価に関する語を評価構造 から取り出し,相互の関係は除いてどのような語が言 及されているかを集計するため,感情・場所・行為に 分類して整理した(図5)。円の大きさは,各カテゴリ 内の割合を反映している。 自室と団欒空間では,いずれも感情・場所・行為の 全要素が言及されている。また,戸建では「感情と場所」 「行為と感情」に該当する語が一定数挙げられている。 戸建集合住宅戸建集合住宅 感情場所 行為と 感情 場所と 行為 感情と場所 行為 感情場所 行為と 感情 場所と 行為 感情と場所 行為 感情場所 行為と 感情 場所と 行為 感情と場所 行為 感情場所 行為と 感情 場所と 行為 感情と場所 行為 自室 団欒空間 他者との行為自分の行為 場所の特徴や印象 設え 他者の存在 ものがある場所 家具と結びついた場所 もの・他者の特徴 高揚感・肯定感開放感 優越感負の感情 人に対する感情 個の確立 達成・成長・発見 円の数:回答人数 傍ら数字なし:1 円の大きさ:戸建・集合住宅 それぞれの語数の合計で割った割合 状況 図5 自室と団欒空間の評価に関する語の分類整理 7 4 5 3 4 7 2 9 4 3 4 3 8 10 2 2 12 2 4 11 12 21 12 14 21 7 6 4 8 15 10 25 9 13 − 22 − 図6 部屋の意味付けと他者の招き入れの許可 凡例 共有・団欒 寛ぎ・就寝 遊び・趣味 勉強 その他 物置 客間 食事 父 小学生時期中学生時期 母 LD 戸建 父 母 父 母 集合 住宅 (戸)(集)(戸)(集)(戸)(集)(戸)(集)(戸)(集)(戸)(集)(戸)(集)(戸)(集) こども の部屋 和室 家族の 部屋 LD こども の部屋 和室 家族の 部屋 誰でも 家族 友人 部屋の 所有者 部屋の意味付け 他者の招き入れ の許可 30 20 20 10 10 0 0 9 9 9 8 8 8 8 9 6 6 2 6 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 6 6 6 6 7 7 7 7 7 7 7 15 14 10 10 10 11 12 12 3 3 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 (N=235) (N=207) 4 4 4 4 4 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3 14 24 19 12 9 9 9 15 2 2 2 2 2 2 2 8 3 2 2 2 2 6 6 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3 5 5 5 5 5 5 5 5 3 9 7 N=戸建の回答人数(小:151,中:145)+ 集合住宅の回答人数(小:84,中:62) 傍ら数字なし:1 凡例 父母父母 小学生時期中学生時期 戸建集合住宅 父母父母 戸建集合住宅 遊び 傍ら数字なし:1 生活勉強その他 団欒空間 こどもの部屋 和室 家族の部屋 浴室 場所 7 8 5 8 5 9 10 11 4 4 4 4 3 3 3 2 2 2 2 2 2 2 3 2 2 2 2 2 2 2 2 4 9 図7 コミュニケーションをとった場所と場面 集合住宅の該当事例が少ないこともこの集計結果の要 因であるが,戸建ではより多様な要素への言及が収集 されている。内訳を見ると,戸建・自室の「感情」で は,高揚感・肯定感に分類される語の割合が高く,戸建・ 団欒空間の「感情」では,達成・成長・発見に分類さ れる語の割合が高いことが特徴的である。また,「場所」 では,戸建の自室・団欒空間のいずれにおいても,他 者の存在の割合が高く,人と過ごしたことが記憶に残 る場面の要素や評価の要素として,場所と結びついて 記憶・想起されていることがわかる。「行為」は,設え に関連する語と状況に関する語の比率が戸建・自室で 高く,戸建・団欒空間ではそれに加えて他者との行為 が併せて記憶・想起されている。 5.成長期の住まいへの親の取り組み 5.1 親子のコミュニケーションの場所と場面 調査Ⅲから得た,親がこどもとよく会話をした場所 とそこでの場面を図6に示す。集合住宅のこどもの部 屋について,小学生時期では[遊び]の割合が高いが, 中学生時期では[遊び]の言及がなく,[勉強]の割合 が高い。また,小学生時期の浴室について,戸建では [遊び]の言及がないのに対して,集合住宅では[遊び] の割合が高い。 5.2 部屋の意味付けと他者の招き入れの許可 各部屋の意味付けと他者の招き入れの許可の様子を 図6にまとめた。和室を[寛ぎ・就寝]の場としてい た場合について,小学生時期では集合住宅の割合が高 いが,中学生時期では戸建の割合が高い。詳しくみる と,小学生時期の集合住宅では,家族の就寝の場(4), 親の就寝の場(2)としており,そのための取り組み として,布団が敷けるように家具は最低限しか配置し ないといった回答が複数みられた。また,中学生時期 には,家族の就寝の場(1)のみみられた。また,LD を[勉強]の場としていた回答は,中学生時期よりも 小学生時期で割合が高い。 さらに,小学生時期では戸建の割合が高く,中学生 時期では集合住宅の割合が高い。詳しくみると,小学 生時期では住戸形態によらず,勉強としてだけではな く,家族の団欒や食事,こどもの遊びの場など様々な 活動ができることを前提としており,そのための取り 組みとして,家族みんなが活用できるよう座卓を中心 に配置した(2),高さの低い家具で統一した(2), 和室で掘りごたつにした(1)という記述がみられた。 5.3 コミュニケーションの場所と場面 コミュニケーションを取った場所を尋ねると(図 7),最も多い場所は小学生時期/中学生時期,と,戸 建/集合住宅の別によらず団欒空間である。次にこど もの部屋が多いが,小学生時期・戸建・母と,中学生 時期・戸建・父では家族の部屋の比率もこどもの部屋 と同等に高い。 場所ごとのコミュニケーションの場面は,中学生時 期には生活の自立が小学生時期よりも高いことが特徴 的である。また,小学生時期には中学生時期よりも遊 びと勉強の比率が高い。この傾向は,父母に共通して いる。中学生時期には,遊びと勉強の場所や場面とし て記憶に残る場面が,学校やクラブ活動,塾,その関 連行事・活動などの家の外に得られることもこうした 差異の要因ではないかと推察する。 5.4 親の成長期の住まいと大学生の成長期の住ま − 23 − いとの関係 コミュニケーションの印象と頻度の組み合わせに よって,コミュニケーションタイプを4つに分類した (表3)。また,住まいの構成を水回りへのアプローチ と自室へのアプローチによって分類した(表4)。 これらをもとに,親と大学生それぞれが成長期の親 とのコミュニケーションと自室と水廻りへのアプロー チとの関係を図8にまとめた。 1)親の成長期の住まいと家族との交流 父親の成長期の住まいでは,独立タイプである場合 に交流(Ⅰ交流,Ⅱ積極,Ⅲ頻繁)タイプがなく,Ⅳ 非交流のみである。また,母親の成長期の住まいが独 立タイプであるときに,Ⅳ非交流タイプか,それ以外 の交流ⅠⅡⅢタイプであるかは関係ないことが読み取 れる。父親(男性)の場合には成長期の住まいのあり 方が家族との交流の様子と関係していたが,母親(女 性)の場合にはそうした関係がないことは特徴的であ る。こうした差異は,子世代の調査ではみられなかっ た。 2)親子の成長期の住まいと家族との交流 さらに,親が成長期の頃の父と母両方とのコミュニ ケーションタイプと住まいのタイプを整理し,大学生 の成長期のコミュニケーションタイプとの関係を図9 にまとめた。 父が成長期の住まいが独立タイプであるとき,大学 生の子の成長期における対父親コミュニケーションタ イプがⅣ非交流の割合が高い。また,父が成長期のと きにⅠⅡⅢ交流タイプである場合,大学生の子と交流 がある割合が高い。父親が体験した関係性が,次の世 代での家族関係に影響しているといえる。 また,母が成長期の頃に親との交流があった場合に は,子の成長期における交流があった割合が高いこと が特徴的である。父親ほど明確ではないが,母親の成 長期における家族との関係も,次世代の家族との交流 に影響していることがわかる。 6.まとめ 本稿では,「大学生の親」の世代の,成長期の住まい と家族との交流の様子を調べ,また住まいに対する評 価の構造を明らかにするとともに,親と子の世代での 家族との交流の様子に,親世代の成長期の経験が影響 しているのか等を分析した。以下に主な知見を挙げる。 1)親世代の成長期の住まいの空間条件とコミュニケー ション ① 小学生時期には寝室へのアプローチと各室へのアプ ローチに偏りがあるが,中学生時期にはその関係が 多様に分散する。 ② 小学生時期には自室へのアプローチと団欒空間の通 行,住まいの居心地(0.558),対父親コミュニケー ションの印象に[やや強い相関]がある。また,自 室アプローチが廊下である場合,対父親コミュニ ケーション印象はネガティブである割合が高い。ま た,廊下型では住まいの居心地が「良い」とする割 合が高い(一般的な認識と逆)。中学生時期にはそ うした関係はない。 ③ 中学生時期には平日- 休日の過ごし方と父室・母室 Ⅳ ⅠⅡⅢ Ⅳ ⅠⅡⅢ Ⅳ ⅠⅡⅢ Ⅳ ⅠⅡⅢ Ⅳ ⅠⅡⅢ Ⅳ ⅠⅡⅢ 0.2928 やや弱い関連 クラメール の連関係数やや弱い関連 0.4667 やや弱い関連 0.2666 関連なし 0.1419 関連なし 0.0403 関連なし 0.2335 図8 成長期のコミュニケーションと空間構成の関係 6 8 2 2 3 4 4 9 6 8 8 9 7 11 10 10 16 15 19 大学生の成長期の住まい 父との COM 母との COM 母親の成長期の住まい 母親の対母親 (MM)との COM 母親の対父親 (MF)との COM 父親の成長期の住まい *「交流」には自室、水廻りタイプも含む 父親の対母親 (FM)との COM 父親の対父親 (FF)との COM 独立 住まいの 空間構成 交流 Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ 図9 子の成長期の住まいでのCOM タイプ 独立Ⅳ 2 2 2 3 6 3 8 12 大学生の成長期の 母COM タイプ 円の数:人数 傍ら数字なし は1 大学生の成長期の 父COM タイプ 独立 ⅠⅡⅢ 交流 ⅠⅡⅢ 交流Ⅳ 父親の成長期の 住まい 独立Ⅳ 独立 ⅠⅡⅢ 交流 ⅠⅡⅢ 交流Ⅳ 母親の成長期の 住まい 自室へは廊下以外 からアクセスする 廊下以外 からアク セスする 自室へは主に廊下 からアクセスする 廊下他 主に廊下 からアク セスする 〈独立〉 団欒空間や家 族のいる部屋を介さずに 水廻りを行き来できる。 〈交流〉 団欒空間や家族のい る部屋を介する。 〈自室〉 水廻りは独立だ が、部屋へは廊下以外か らのみアクセスできる。 〈水廻り〉 自室は独立だ が水廻りへは廊下以外か らのみアクセスできる。 *表の数字:上から順に「父親の成長期の住まい」「母親の成長期の住まい」「大 学生の成長期の住まい」から得られた人数 自室へのアプローチ 表4 成長期の住まいの空間構成 6 0 13 3 30 8 13 3 5 12 5 2 水廻りへの アプローチ 廊下 他 *表の数字:上から順に「父親の成長期の住まい」「母親の成長期の住まい」「大 学生の成長期の住まい」から得られた人数 *網掛けあり:父親とのCOM タイプ、網掛けなし:母親とのCOM タイプ COM を頻繁に とっている COM は頻繁では ない コミュニケーションの頻度 COM をとる ことを好まし く思っている COM する ことに感心 はない Ⅰ.交流 家族と交流す ることを好ましいと感じてお り、頻繁に交流していた。 Ⅳ.非交流 家族と の交流に感心がなく、 あまり交流しなかった。 Ⅱ.積極 家族と交流す ることを好ましいと思ってい るが、あまり交流しなかった。 Ⅲ.頻繁 家族との 交流に感心はないが、 頻繁に交流していた。 表3 コミュニケーションタイプ P 頻繁他 他 23 4 10 6 31 10 1 18 1 6 5 1 6 5 6 9 12 1 0 12 3 2 18 11 コミュニケーション の印象 − 24 − へのアプローチとの[やや強い関連]がみられた。 2)場面の成立要素と価値 ④ 自室での場面の成立要素としては,自分の居場所や ひとりの時間を持てること,家具への言及が多く, 子世代対象の調査結果と同様である。 ⑤ 自室での場面の価値としては,集中できる,コミュ ニケーションは子世代と共通。知識がつく,成績が 上がる,成長する,など勉強に関する成長感は,自 室の役割への意識として特徴的である。また,子世 代との違いとして生活力,自立,職業選択,という 主体性や就労への意識が具体的な語で言及された。 ⑥ 団欒空間での記憶に残る場面としては,テレビを観 る,食事をする,家事,団欒,音楽鑑賞,親戚や友 達が集まる,など多様な場面が挙げられた。子世代 との特徴的な違いのある場面は,家事と,自分と母 親が裁縫をする,であった。 ⑦ 団欒空間での場面の成立に必要な条件としては,家 族,親,きょうだい,など人に関する語,また時代 柄,テレビやこたつなどの家電にも言及された。な お,テレビへの言及や,人の集まりの場としての印 象は,子世代と共通している。子世代との差異とし ては,年越しやクリスマスなどイベントの記憶が年 月を経ての振り返りとして特徴的であった。 ⑧ 団欒空間での場面の価値は,コミュニケーションや 感情・情報・時間の共有といった,団欒そのものに 向けられた。 ⑨ 自室と団欒空間では,いずれも感情・場所・行為の 全要素が言及された。このうち特に「場所」では, 他者の存在の割合が高く,人と過ごしたことが記憶 に残る場面の要素や評価の要素として,場所と結び ついて記憶・想起されていることがわかる。「行為」 は,設えに関連する語と状況に関する語の比率が戸 建・自室で高く,戸建・団欒空間ではそれに加えて 他者との行為が併せて記憶・想起されている。 3)親視点での子育て期のコミュニケーション ⑩ 小学生時期では[遊び],中学生時期では[勉強] の割合が高い。また,小学生時期に,集合住宅だけ 浴室で[遊び]の割合が高く,住まいの中で,遊び の場所としての価値が相対的に高かったのではない かと推察される。 ⑪ 和室を[寛ぎ・就寝]の場としていた割合は,小学 生時期では集合住宅(就寝の場を兼ねる),中学生 時期では戸建で高い。LD を[勉強]の場としてい た回答は,中学生時期よりも小学生時期で割合が高 い。小学生時期では住戸形態によらず,DL は勉強, 家族の団欒や食事,こどもの遊びの場など様々な活 動ができることを前提に,家具等も設えられていた。 ⑫ コミュニケーションを取った場所は,最も多い場所 は小学生時期/中学生時期,と,戸建/集合住宅の 別によらず団欒空間である。次にこどもの部屋,家 族の部屋が多い。 ⑬ 場所ごとのコミュニケーションの場面は,父母とも に中学生時期には生活の自立が小学生時期よりも高 く,小学生時期には遊びと勉強の比率が高い。 4)親の成長期の住まいと大学生の成長期の住まい, コミュニケーション ⑭ 父親の成長期の住まいが独立タイプである場合に, Ⅳ非交流のみである。母親の成長期の住まいでは独 立タイプであるときに,Ⅳ非交流タイプか,それ以 外の交流ⅠⅡⅢタイプであるかは関係ない。こうし た差異は,子世代の調査ではみられなかった。 ⑮ 父が成長期の住まいが独立タイプであるとき,大学 生の子の成長期における対父親コミュニケーション タイプがⅣ非交流の割合が高い。また,父が成長期 のときにⅠⅡⅢ交流タイプである場合,大学生の子 と交流がある割合が高い。父親が体験した関係性が, 次の世代での家族関係に影響しているといえる。 ⑯ 母が成長期の頃に親との交流があった場合には,子 の成長期における交流があった割合が高い。 以上の結果,特に父親の場合,親世代では住まいの あり方と交流の様子が関係しており,その経験は子世 代との交流の様子にも影響している等の知見を得るこ とができた。また,子育て期の住まいにおいて意識さ れ記憶に残る場面として,団欒(食事・関わり)・勉強・ 遊びという3 つに大きく整理できる。これらはしばし ばそれぞれのテーマとして扱われてきたが,これらは 相互に関連する一体の住まい,住環境体験イメージと して理解することが実態に近しいと考える。家族関係 や住まいのあり方は多様化しており,「正しい」家族像 というものは限りなく定義しにくいが,住まいのあり 方が家族の交流のあり方や,それが世代を超えて伝搬 することへの知見は,住まいの計画や家族のあり方に 応じた住まいの選択の資料となると考える。 なお,充分な分類と統計処理に耐える充分な調査数 − 25 − が得られた場合には,住まいの空間条件,特にリビン グ等の団欒空間の具体的な空間構成についてや,家族 構成の詳細など,より多くの分析が可能な要素が想定 される注8)。 注 注1)小学1 年生では記憶が不鮮明な可能性,また中学校1年 生では小学生時期との記憶の混同がありうると考えて除いた。 また6年生と中学3年生では受験勉強などの影響で自宅での 過ごし方に大きな変化が生じうるため,小学2~5年生と中学 2年生を調査対象時期に設定する。なお,小学校の低学年時期 から高学年時期には記憶に幅があるが,そこでの差異よりも, しばしば高学年時期を境に住まいでの過ごし方や家族との関 係が大きく変わることを想定して「思春期以前(小学生時期)」 と「以降(中学生時期)」の差異に着目して分析を行っている。 注2)非建築学生は平面図の描写が困難であるため,調査員が聞 き取りで平面を描き起こした。この場合,調査Ⅱが行い難いた め,2013 年は平面図を描写できる建築学生のみを調査Ⅰの対 象とした。 注3)調査対象者ごとに感じ方や状況により回答の軸は多様であ る。3章「住まい方・家族の交流」の定義の際は,大まかな傾 向や特徴を掴むため,回答分布の傾向をもとに3つに分けた。 注4)自室の有無とは,回答者である本人の自室があるか,本人 と家族の誰かとの共有部屋か,本人は自室をもっていないかを 示す。 注5)家族が就寝する和室や洋室,回答者が“ 〇〇の部屋” と記 した室を含む。親の部屋は父室,母室,本人の部屋は自室と記 載。兄弟姉妹での室の使い分けも尋ねたが,きょうだいとの年 齢差・性別・同室/別室など組み合わせが多岐に及びそれぞれ が統計分析上十分な数とならないため,父母のみを分析対象と した。 注6)住まいの空間条件とコミュニケーションの関係は注図の通 り。 注7)「得られた価値」とは,その場面が調査対象者の心情や成長・ 発達にどのような意義や,どのような影響があったかを意味す る。また,住まいの空間条件と過ごし方を把握する調査Ⅰにお いて,回答者には「家族の団欒はどこでしていましたか」と尋 ねて" リビング" などの分類を行い(図3)っている。記憶に 残る場面のインタビューでは「家族で団欒をしていた空間(イ メージされにくい場合は「家族で過ごしていた空間」と表現)」 での場面を尋ねた。 注8)なお,回答者の家族の中での属性(性別,長子/末子,家 族構成)や,調査対象時点での同居の兄弟姉妹,祖父母との関 係,子の性別も尋ね可能な限り記録した。また,しかし,それ らの組み合わせは多岐に及びそれぞれが統計分析上十分な数 とならないうえ,単純な男女差よりも個人差,個々の家庭の差 (地域差や父母の出身地域,職業,経験,思想,趣味嗜好等々) はより大きく影響し,相互の関連性を切り分けにくいことか ら,家族構成の詳細に踏み込まない分析を行っている。上記に 挙げた想定される影響要素や関係などは,それぞれの内容が独 立的なテーマとなりうる影響要素と認識する。 参考文献 1)文部科学省,不登校児童生徒への支援に関する中間報告, http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/108/ houkoku/1361484.htm 2)那須涼介,田中直人,植田早紀:親子の子ども部屋に対す る意識~子どもとのコミュニケーションが生まれる家庭環境 に関する研究 その1~,日本建築学会大会学術講演梗概集, 5570,pp.1181-1182,2012.9 3)植田早紀,田中直人,那須涼介:親子の子ども部屋に対す る意識~子どもとのコミュニケーションが生まれる家庭環境 に関する研究 その2~,日本建築学会大会学術講演梗概集, 5571,pp.1183-1184,2012.9 4)江上徹:住居に於けるコミュニケーション空間に関する研究 その1,日本建築学会大会学術講演梗概集,E. 建築計画分冊, pp.131-132,1991.9 5)圓野謙治,江上徹:住居に於けるコミュニケーション空間に 関する研究 その2,3,日本建築学会大会学術講演梗概集, E-2, pp.391-394,1996.9 6)中野睦子,定行まり子,小川信子:子どもの発達段階からみ た集合住宅の住環境,日本建築学会大会学術講演梗概集,E-2, pp.409-412,1996.9 7)森保洋之,山田直美:家族のコンタクトとこどもの居場所の 関係について 子供を中心に見た住空間の計画に関する研究, 日本建築学会大会学術講演梗概集,E-2, pp.23-24,2001.9 8)森保洋之,山田直美:子供を中心にみた住空間の計画に関 する研究 その2 家族のコンタクトと子供の居場所の関係に ついて,日本建築学会大会学術講演梗概集,E-2, pp. 9-10, 2002.8 9)山田直美,森保洋之,他:子供室の位置から見た住空間の子 供に及ぼす影響について,日本建築学会中国支部研究報告集, pp.465-468,2000.3 10)仙田満,宮本五月夫,他:児童のあそび環境の研究 −その 5 あそびの原風景を探る,日本建築学会大会学術講演梗概集 56,pp.1677-1678,1981.9 11)仙田満:原風景によるあそび空間の特性に関する研究 −大 人の記憶しているあそび空間の調査研究,日本建築学会論文報 告集322,pp.108-117,1982.12 12)山田あすか:従来型小学校での「記憶に残る場面」にみる 学校空間 −成人による振り返りに基づく学校建築空間の再 考 その1,日本建築学会計画系論文集,No.669,pp.2065- 2074,2011.11 13)山田あすか,倉斗綾子:成長発達期における住まいの空間 構成と家族のコミュニケーションの関係についての研究,日本 建築学会計画系論文集,No.684,pp.299-308,2013.02 14)高橋愛香,山田あすか:大学生を対象とした成長期の住環 境の評価 −「振り返り」に基づいた住環境の有り様に関する 研究(1),地域施設計画研究,vol.38,2020.07 15)相馬一郎,佐古順彦:環境心理学,福村出版,1976 自室アプローチ B: 廊下 C: 両方 小学校2~5年生 ③ 対父親COM・印象 ポジ ティブ ネガ ティブ どちら でもない 注図 住まいの空間条件とコミュニケーションの関係,補足 2 2 1 1 3 5 A: 団欒 空間 自室アプローチ B: 廊下 C: 両方 小学校2~5年生 住まいの居心地 良い どちら 悪い でもない 4 1 1 1 1 A: 団欒 空間 7 *図2のからの関係にあたる − 26 −
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