建築・環境計画研究室
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09/02/10
シリーズ〈人間と建築〉1 『環境と空間』
高橋鷹志、長澤泰、西出和彦[編]
2280060053-0 藤田晴彦
シリーズ〈人間と建築〉について
本書は、「学部・大学院を問わず講義や演習の副読本として、自在に利用できるような、近年行われた個々の計画研究の成果をわかりやすくまとめた叢書を企画」し作られたものであり、シリーズ〈人間と建築〉として、『環境と空間』、『環境と行動』、『環境とデザイン』の3巻でまとめられている。
本書はその第1巻であり、「個人の身体空間や知覚空間におけるP-in-Eの諸相を分析したものとなった」巻である。(P-in-Eとは、Person-in-Environmentの略称)
1.人間と環境
1.1人間にとっての環境
○住環境とは、一日の変化、季節の変化、まわりの人々の生活、植物、動物などの生態系も含み、「環境を構成する要素1つ1つはどんなに些細なものでも、一見不要に見えるものでも、不必要なものはない。フォーマルにせよインフォーマルにせよなんらかの役割をもっている。」
○空間を作る建築物(木、コンクリート、鉄、鉄などの材料で、壁、床、屋根・天井、柱などでつくられる)も環境のひとつであるが、人間も環境のひとつとしている。腰掛けている人がいることで、それを見てまた次から次へと人が座っていき、人が集まる賑やかな場ができる。つまり、人間が環境をつくり出す役割を担っている。
○1つの建築をつくることは単にそれだけのことではなく、周囲の環境や既存の街・村との関係を生み出す。重要なのはいろいろな立場でいろいろな関わり方をもつ人間との関係をも生み出す。
1.2人間の視点から見た環境のとらえ方
○我々が動き行き来できる範囲を限定したり支えたりする境界面、すなわち壁や床や天井などの面は、人間行動に対して直接的な役割を果たす。空間を変えると人間に対する行動の可能性が変わる。それをその空間の目的と合うようにすることが空間デザインの意義である。
○デザインとは今までにないまったく新しいものを提案することに意義がある。「環境の問題点を見出し、そのより良き、あるべき方向を考え、実現するための基礎」として、環境に関わる様々な立場の人々が人間と環境の関わりをよく見る必要がある。
⇒建築をつくるということは、環境をつくるということであり、どのような材料でつくるか、どのような平面計画にするかということも大切であるが、人にどのような心理的影響を与えるか、どのような行動を促すかということも考えてデザインすることを進めなければならない。
2.人体のまわりのエコロジー
2.1身体と座
○人間の視点からの環境デザインを試みるときに着目すべき重要な概念に、行動セッティングとアフォーダンスがある。
行動セッティング(behavior setting)…特定の時間・空間において繰り返してある行動が生起する社会的・物理的な諸状況を意味する。
アフォーダンス(affordance)…知覚者によって見出される環境が備えている資質のこと。
○休息する姿勢は様々あり、物的環境が様々な姿勢をアフォード(提供する、可能にするの意
)する。「後方によりかかる姿勢」「しゃがむ姿勢」「腰かける姿勢」「肘をのせて支持する姿勢」「脚をのせて支持するしせい」「脚をのせて支持する姿勢」「身体をはめ込んで支持する姿勢」
2.2人間のまわりの空間
○人が生まれ育った文化・習慣によって、人との距離のとり方、パーソナルスペース、指示領域は異なる。
2.3空間の視知覚特性
○人間は広く開放的な部屋で過ごしたいという欲求をもつ一方、小さく閉じられた部屋で落ち着きたいという欲求も併せ持っている。
⇒休息する姿勢は「後方によりかかる姿勢」「しゃがむ姿勢」「腰かける姿勢」の一意的な姿勢ばかり想像しがちであるが、「肘をのせて支持する姿勢」「脚をのせて支持する姿勢」など、様々な姿勢がある。人はそういった一意的でない、様々な姿勢をすることを考え、デザインしなければならない。
アフォーダンスは人によって様々であるが、その様々なアフォーダンスと行動セッティングを想定しなければならない。
⇒個人によって異なった意識、反応、文化、歴史をもつ。そうした個人の差異性を考慮しなければならない。さらに、人間に共通する傾向も把握し、最適値を決めて空間をつくっていくべきである。