葬儀屋の顔
未明の階段を 危うい足取りで降りながら
葬儀屋の方の顔を 思い出した
何十年前に この階段を
病院から戻った父の遺体を
抱いて上がってくれたことを
納棺夫などという言葉も
まだはやらない頃だった
その一年前には
母も その方のお世話になった
貴い仕事だと思った
尊い人だと思った
ありがたいと思った
父も母も きっと往生してくれると思った
弔いや法事を終えて 改めて挨拶をしたとき
もしも 故人が夢にでも立たれるようであれば
茶碗に水を入れて
西の窓に 供えてあげてくださいと
遠慮がちに 教えてくださった
両親が 夢枕に立つことも
西の窓に 水の茶碗を供えることも
無かったけれど
その親切な言葉を 忘れない
時代が変わって
両親がお世話になった葬儀店も
今は無くなった
鹿児島出身だと仰っていたあの方は
ご健勝でいられるだろうか
もしも もう一度お会いできたら
父と母と そして自分のために
お礼を言いたい