病院の窓
看護士に答える自分の声が
いつか 似たような病室の中で聞いた
父の声だった
歳をとると 背は縮むものらしい
前の入院時の測定値よりも また縮まった
父も だんだん小さくなって行く気がした
天人にも顕われる死相 五衰のひとつ
病院の構造は おおよそみんな同じだ
廊下の突き当たりは 膝元から立ち上がる
天井まで延びる大きな一面の窓
今回の病室は 廊下の一番奥
つまり 突き当たりの大きな窓の 脇の部屋だ
窓の景色は 三十年前
父が入院していた病院の窓から見たのと
同じだった
前方は ずっと向こうまで 果てしなく拡がり
左側には 遠く低い山並みが連なり
右側には 傾きかけた日の光が 雲をとおして
紅く もれてくる
窓は 南を向いている
場所は違うのに
三十年前 父の入院していた病院の窓から
何度も眺めた景色と 同じなのだ
あの時 父はベッドの上で
僕は面会者だった
今僕は ベッドの上で
父は 僕の胸のうちにいる