山之上もぐらの詩集

2024年02月05日 | 日記

車の弔い


十三万キロ乗った車が とうとう限界だ
車検日に数ヶ月を前に 新車を入れることにした

今までに 最もお気に入りで 
最も長く乗った

この十年 とても忙しかった
信じられないほど よく働いてくれた
自分の大切な相棒だった

この十年の間に 母を亡くし父を亡くした
この車に乗せて 病院に通い続け
この車に乗せて 二人の骨を葬りに行った

僕はこの車の中で 何度も涙を流した
この十年間 僕は独りの時間を
この車の中で過ごしてきた

僕はこの車の中で 何度も涙を流した
この十年間 僕の辛い思いを
この車は 誰よりも知っている

おそらく僕は 人生の最も辛い時を
この車とともに 生きていた

ここ数年僕は 洗車も掃除も 
めったにやらなかった

その日 
行きとどきはしないが 念入りに掃除をし
荷台に御神酒とお塩を供えて 
掌を合わせた

まばゆい新車を届けに来たなじみの社員は
すぐに定年なのだと語った

荷台の御神酒とお塩を片づける僕に
いつもとは違う 心のこもった挨拶をくれた

彼が運転して 去って行く車に 掌を合わせた
ありがとうと さようならと すまなかったと
涙が とまらなかった



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