「いいかい?いきなり投げないで、投げる前に左手を伸ばすんだ。投げたいところを決めて……あのお兄ちゃんの胸のあたりに指先を向ける。やってみな?」
「こう……?」
「そうだ。そうすれば俺と同じ投げ方が出来るよ。右足を引いて、胸を張る。それから指生命水好唔好用先を向けた所に思いっきり投げろ。」
「えいっ!」
少年は気付いていなかったが、たったそれだけで腕は後ろに引かれ、力強くしなって振れるようになる。
全身を使って投げたボールは、最初の手投げと違い、弓なりではなく力強い弧を描いて、里流のグローブに乾いた音を立てて吸いこまれた。
ぱんっ……!!
「届いた!?うわ~……やったぁ!」
「な?もう一回やってみろ。できるから。」
「うんっ!」
何度もボールを投げる少年の目が、輝いて来るのを彩は感じていた。見守っていた子供たちも驚いていた。
「出来るじゃないか。一度で出来るなんてすごいよ。これから毎日練習すれば、もっと上手くなる。」
微笑む彩に、どんと少年は抱き付いた。
「やった~!先生、ありがとう~!」
彩はどうしていいか分からず、取りあえずその子の頭をぽんぽん生命水好唔好用と撫でたが、里流にはその子の気持ちが良くわかった。
何も出来なかったあの日、手を伸ばしてくれた彩がそこにいるようで、里流は嬉しかった。
傍に寄って来た沢口がささやいた。
「惚れ直した?」里流の染まる頬は、運動したせいだけではなかった。
*****
「先生!またね~。」
「ボールありがとう!練習するからね~!」
「頑張れよ!またな。」
日が暮れかかっていた。
子どもたちと別れた夕刻、里流はバイトの時間だからと二人に告げた。
「彩さん。おれ、6時から入ることになってるんで、そろそろバイトに行きます。」
「そうか。今日も仕事なのか。」
「休みの内に、下宿代稼がないとやばいんです。」
「俺も、弟の同級生の家庭教師掛け持ちしてるんで、行ってきます。じゃな、里流。また、時間出来たら電話する。」
「うん……あ、沢口ちょっと。」
「ん?」
沢口の腕をつかむと、小声で伝えた。
「さんきゅ。」
「ば~か。先輩、それじゃ。また、暇ができたら遊んでください。」
「おう、またな。今度は三人で飲みに行こう。」
「ボーナスでたら、奢ってください。」
沢口が手を振って去った後、残された彩と里流は、早々に会話を失くしてしまった。
仕方なく彩の家の方へと歩き始めたが、すぐに着いてしまった。名残惜しいが仕方がない。
「じゃ……おれ、行きますね。」
「里流。バイトの終了時間は何時だ?」
「10時ですけど……?」
「迎えに行くから。」
「え……?」
そう言った彩の言葉の真意が見えず、里流は困惑していた。
「彩さん、明日出社でしょう?おれは今日、すごく楽しかったです。あの……気にしないさい。おれは平気ですから。」
「なかったことにしてくれなんて、虫の良いことを言う気はなかった生命水好唔好用がった。今は、できれば里流の時間を一日でいいから巻き戻して欲しいと思っているよ。……もし、少しでも俺の中に、里流が好きだったころの俺を見つけられるならだけど……時間をくれないか。」
「おれ……彩さん以外の誰かの背中を追ったことなんてありません。おれにと、彩さんだけでした。夕べは驚いたけど、おれは弱い彩さんも……どんな彩さんでも好きです。」
顔に血が逆流する。耳や首筋まで赤くなっているのを自覚しながら、必死で里流は続けた。昨夜のように酷くされるのが好きだなんて口にしてしまったら、おかしいと思われるかもしれないと心が萎えそうになる。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます