遠野には神奈川県が被災地支援のために建てたボランティアの宿泊施設がある。
名前は「金太郎ハウス」。
そしてこちらが「所長」の金太郎さん。
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金太郎ハウスに滞在して、周辺の被災地でボランティア活動をしている人達を取材した。
が、その話は来年一月初旬に発売される「季刊誌 横濱」新春号で─。
遠野と言えば、この地に伝わる伝承を集めた柳田国男の「遠野物語」。
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河童、座敷童、オシラサマなどが有名だが、「山人」の話も多い。
「山人」とは、里へは降りてこず、山中に集団をつくって隠れ住む人々のことだ。
実際、昭和になっても山人は各地に存在し、「サンカ」と呼ばれたりもした。
山が多く、山中に清い水の流れが多い遠野には、多くの山人が棲んでいたのだろう。
昔、遠野では若い娘や子供がよく神隠しにあったが、山人にさらわれた
ケースも多かったようだ。村人が、何年も前に消えた少女に山でばったり遇ったが
少女は「私は山人にさらわれて妻になり、子供をうまされたのでもう帰れない」と
言って去っていったなどという話が「遠野物語」にも複数入っている。
山人達も集団の子孫を残すため、若い女や子供が必要だったのだろう。
村人にとって山人は恐怖の対象だ。自分たちと異なるルールで生きる者達だし
実態もよくわからない。女子供をさらうことがあるし、外見も時として、
「異様に大き」かったり「目の色が違ったり」する。
恐怖は差別や偏見をうみ、遠野物語にも、山人らしき娘を見かけたとたん
猟師が鉄砲で撃ち殺したという逸話がある。
で、今回、個人的にひっそりとおもしろがっていたのは、
金太郎のお母さんも「山人」だったということ。
金太郎の伝説は複数あるようだが、もっとも有名なのは神奈川県の足柄に
伝わる話だろう。その中でも各種あるのだが、私が以前、取材したものによると……。
長者の娘が嫁ぎ先の家族とうまくいかなくなり、婚家を飛び出した。
その時、妊娠していたので(父親が誰かも諸説あり)、彼女は一人で山へ入り、
山姥となって子供を産んだ。それが金太郎だ。
金太郎はいまも残る「夕日の滝」で産湯をつかい、山の獣たちを友として
たくましく育った。
長じて坂田金時という立派な武将になり、大江山に棲む酒呑童子という
鬼を退治する一行にも加わった。
幼い頃、祖父が毎晩のように聞かせてくれたのが「大江山鬼退治」の話だった。
祖父の十八番、というより、ひとつっきりの持ちネタだったようだ。
その話の中で、坂田金時は「キントキさん」だった。
鬼退治に向かった四天王のうちの一人として登場するだけなのだが、
子供の頃はお馴染みの金太郎だし、長じても「キントキさん」だから
他の武将より親しみが持てる。
でもその頃は、キントキさんに出生の秘密があり、お母さんは山姥だったなんて
もちろん知らなかった。
さらわれて山人になる女もいれば、里で問題を起こし、あるいは
里から逃げたい理由があって、みずから山人になった女もいたはずだ。
その一人が金太郎のお母さんだった。
遠野の人々に怖れられ、避けられた山人の息子、金太郎が、
神奈川県と遠野を結ぶボランティアハウスの名前になり、
活動のシンボルになっている……なんだか嬉しいではないか。
私は一人でにやにやしている。
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