冬桃ブログ

道が怖い

 見慣れた道、歩きなれた道。
 なのにいまはその道が怖い。

 S村滞在中はほとんど家の中。
 でも裏の畑や花畑には一日に何度か出た。
 そこは一見、危険な場所だ。
 不揃いの石段。アスファルトが凸凹になったスロープ。
 足が沈んだり浮いたりする不安定な土。
 でもそれがわかっているから、慎重に足を運ぶ。
 足を傷める前と同様、大好きな、心安らぐ場所だった。
 
 リハビリのために、近所も10分くらい歩いた。
 人にも車にもほとんど行き会わない農道などを。

 だけどこの程度しか外を歩けないのでは困る。
 横浜に戻ったら杖を頼りに、恐れず町中を歩こう。
 電車にも乗ろう!

 そう意気込んでいたのに、横浜に戻るなり
その勇気が吹っ飛んだ。
 冷蔵庫になにもないので、まずはコンビニに行った。
 うちから二、三分なのだが、戦地に彷徨いこんだ
かのように怯え、身がすくんだ。
 周囲の人や足元の地面が、私を転ばそうとする敵に見える。
 
 入院していた病院にも行った。
 ここもコンビニより少し遠い程度なのだが、
体全体が音を発して脈打つほど疲れた。
 もちろん酷暑のせいもある。
 が、それ以上に怖いのだ。
 馴染んだ横浜の、それも近所の道が、
そこを通る普通の人々が。
 
 整形外科の前は車椅子、松葉杖、ギブスで腕や足を
固めた人でいっぱい。
 少し前の自分を見ているようだった。
 一時間以上待って、ようやく診察の順番が来た。

「足首は相変わらず硬いままです。一生懸命、
曲げたり伸ばしたりしてるのですが、皮膚の下に
鉄の輪っかが嵌まってるみたいな感じは、
入院していた頃と変わらないんです。
 足首から先も、むくんで重いです。
 バランスが悪いので腰痛も……。
 この足首はいつ柔らかくなるのでしょう」
 
 すがる思いでドクターに尋ねる。

「う~ん、それは人それぞれなんですよねえ。
 早く良くなる人もいれば、一年、二年と続く人もいて」

 救われた気分にならないまま、途中にある
区役所の福祉課へ寄り、これを貰ってきた。

 
 あと数日しか横浜にはいないし、電車に乗って
どこかへ行く予定もない。
 友人には会うが、ありがたいことに、酷暑の下、
うちまで来てくれるという。
 私はその数日間、やっぱりコンビニ程度しか
出かけないだろうが、これを見えるところに
つけて歩こう。
 そうやって少しでも横浜の道に慣れよう。
 道も人々も敵ではないことを、このお守りが
気づかせてくれることを信じて。


 
 
 
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