冬桃ブログ

カンボジアの旅 その4 とぐろの台座

 アンコールの遺跡は階段や段差が多く、一日で太股がぱんぱんになった。
 日本から持っていった湿布薬を貼ってなんとかしのいだが、腰痛はどうなったか。

 旅に出る前、クリニックへ行ってドクター山中に訴えた。
「腰痛がひどいんです。ヘルニアではなく筋肉痛だと思うんですが。
こんなんで旅行へ行って大丈夫でしょうか」
「歩けば治るよ」
「だけどもし悪化したら……」
 「歩きなさい」
 なんとも乱暴なことを言う医者だと溜息をついたが、きつい歩行を
続けているうちに腰痛が治っていた!
 先生、疑ってごめんなさい。
 

 さて、もう一回だけ遺跡にお付き合い願いたい。
 アンコール遺跡には各国の各大学などから調査研究団が入っている。
 その中のひとつに上智大学アンコール遺跡国際調査団がある。
 2001年、この調査団がバンテアイ・クデイ遺跡から興味深い発掘をした。
 地下2・5~4メートルの深さに埋まっていた274体の仏像である。
 これはアンコールの歴史を塗り替えるかもしれないほどの大発見だという。
 
 ジャヤバルマン7世(治世1243~1295)はアンコール・トムを
建造するなどしてアンコール朝の絶頂期を築いた王だが、晩年、仏教に耽溺し、
国民の負担も顧みず、寺院建造に熱中した。「建寺王」と呼ばれるほどだった。
 そのためアンコール朝は衰退した……というのがこれまでの通説だったが、
そのジャヤバルマン7世が建造した寺院のひとつであるバンテアイ・クデイから
大量の仏像が発見された。
 それらの仏像はほとんどが首と胴体を切り離されていた。
 つまりこれは、次に即位したジャヤバルマン8世の仕業に違いない。
 8世は、7世の仏教色を払拭し、ヒンドゥー教に戻そうとした。
 それでバンテアイ・クデイの仏像も、首を切られ、地中に埋められた。
 この発見によってなぜアンコールの歴史通説が変わるのか。
 アンコール朝はジャヤバルマン7世の御代にすっかり衰退したと言われていたが
8世の時代になっても反仏教改革を敢行できるほどの力を要していた……
ということになり、見方がだいぶ変わってくるのだという。

 発掘現場を見に行く前に、上智大学のアジア人材養成センターで先生から講義を受ける。
 カンボジア人の手で遺跡の発掘調査を行えるようにするため、ここでは地元の研究者を育てている


 発掘された仏像の一部。真ん中のものを見ていただきたい。
 下が仏像の下部で、上が上部で首がある。
 この下部の部分は蛇がとぐろを巻いたもの。つまりこの仏像(観世音菩薩)は
とぐろを巻いた蛇の上に座している。


 これは光背の部分がなくなっているが、じつはこの光背にとぐろから続く
蛇の首の部分があった。七つの首を持つ大蛇ナーガが、その鎌首を広げて
仏様を守っていたのだ。


 ナーガはもともとインド神話から来ているので、とぐろの台座、鎌首の
光背はインドにもある。クメール文化の影響を受けたタイにもある。
 でも日本では見たことがない。
 といっても私はそんなにたくさん仏像を見ているわけではない。
 講義をしてくださった三輪先生にあとで「日本にもこういうのがありますか」と
伺ったところ「ないと思います」ということだった。

 発掘現場のバンテアイ・クデイ。


 じつは私、蛇信仰に少々興味がある。キリスト教圏では蛇が悪者になっているが
中国、インド、タイ、カンボジア、もちろん日本でも蛇は信仰の対象になっている。
 龍信仰とも結びついている。
 神社の注連縄、正月の鏡餅なども蛇を表したものだ。鏡は古代から神聖なものと
されていたが、「かがみ」という名称も、蛇の古語「カガ」からきたものだという。

 私の好きな蛇神は宇賀神。


 とぐろを巻いた蛇の胴体に、老人の顔(女性の顔である場合も)
が乗っかっているという、摩訶不思議なお姿。しばしば弁財天の頭の上に、
小さな宇賀神がちょこんと鎮座している。
 私の住まいから比較的近いところでは、弘明寺の弁財天がこの形態。
 ナーガを従えた仏様も見たことだし、暮れと正月には、蛇神信仰の本を
何冊か読んでみようと思っている。

 バンテアイ・クデイから発掘された仏像はここで見られます。
 シハヌーク・イオン博物館。
http://www.aeon.info/1p/international/museum/
 
 
 
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