という旅がほとんどだった。
私は体力がないし稀代の方向音痴だし、地図の
読めない女だ。そうするしかなかったし、そうさせて
もらえることがいつもありがたかった。
だけど!
もうこのあたりで一人旅というものを決行せねば。
すべての手配を自分でやって、現地では地図を見ながら歩く。
それくらいできなくてどうする。高齢者になったことだし。
というわけで、行ったこともなく知り合いもいない札幌へ
行くことに決めた。横浜を出るならここに住みたいなあと
憧れていた街だ。たった一泊二日だけど。
飛行機とホテルがパックになってるものを、友達に
手伝ってもらって(この時点ですでに自立してないが)
ネットで購入。
当日は予定より早く家を出たつもりが、京急蒲田で
羽田行きのホームがわからず、駅の外へ出てしまって
早くも数人に「は、羽田へ行きたいんですけど」と訊きまくり。
予定より遅く空港についてしまった。
それでもなんとか無事に搭乗。
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時間通り千歳空港に到着。エアポート快速で札幌へ。
ホテルは中島公園のそばにあるベストウエスタン中島公園。
旅の目的の三分の一は「一人旅」、もう三分の一はお寿司と
ラーメンを食べること。
ホテルに荷物を置き、迷子にならないよう、大通りをとりあえず
まっすぐ歩いてラーメン屋を探した。
「鴇の家」という、小屋がけみたいな店に入ってみた。
カウンターだけの小店。客は若い白人女性が3人。
おじさんが一人で作っている。
縮れ麺で懐かしい味のラーメンは、とてもおいしかった。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/51/4e/344db7adba1fb46d60cac6cfbac608ef.jpg)
風俗街としてつとに有名な「すすきの」も、昼間は静か。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/38/86/ddb900a1146a76df999231215bd45ba6.jpg)
ラーメン屋近くにあった豊川稲荷の水子供養の碑。
北海道の開拓をささえ、遊廓で働いた女性達、さらには
その陰にある水子達を供養するため建立されたという。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/08/b5/4df7e8eee62607d532e3a7e2a6ae9ef2.jpg)
当時の北海道知事が碑文を書かれたそうだ。
横浜にも開港と同時に遊廓ができた。
また太平洋戦争に敗戦し、横浜に占領軍が入って来たとき、
米兵たちのための慰安所が政府の肝いりで作られた。
最前線に立たされ、開港や敗戦を体で支えた女性達、
生きることを許されなかった子供達……そういう女性や
子供達のことを、残念ながら我が横浜は「なかったこと」
としてそっぽを向いている。
初の女性市長が誕生したことだし、この事実をきちんと
認め、顕彰碑くらい市として建ててもいいのではないかと
私は思っている。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/49/cb/2e6a9988c5d3d06c8d5d97f7f52bee40.jpg)
さあ、このあとはいよいよ地図を片手に一人で……の
予定だったのだが、数日前、知人に「札幌へ行く」と口を
すべらせたところ、「70歳、一人暮らし、職なし、という
女性が札幌にいるから会ってらっしゃい」と言われた。
じつは残り三分の一の目的が「高齢の女一人、何もしないで
余生を札幌で暮らす」を模索することだったので、ありがたく
その女性に会わせていただくことにした。
結局、一人じゃなくなったのよね、今回も。
Sさんはホテルに来て下さった。生まれは炭坑の町。
そこでは職がなくて、高校卒業と同時に札幌へ出て公務員に。
自力で札幌のど真ん中にマンションを買い、60歳の
定年まで勤め上げた。それからは一人で旅行したり趣味の
習い事をしたりと、のんびり暮らしているとのこと。
それは私にとって理想だ。(退職金も年金も私にはないけど)
Sさんと一緒に中島公園を歩く。曇り空だが、思ったほど
寒くない。ブラウスに薄手のカーディガンで充分。
(地下街なんかに入ると暑いくらい)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/3c/32/12873642def484baaca3d3a9eb47feb6.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/1a/4b/199b45ca2d16250d9f9b6c25e880529b.jpg)
公園内にあるコンサートホールのカフェでお茶を飲んでいると
もう夕暮れが近づいてきた。
二条市場。カニはやはり高い! 毛蟹もたらばも花咲も数千円。
横浜のデパートとそう変わりないお値段では?(購入を断念)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/5e/25/b298d5021167dad251aeb65f04bd8512.jpg)
大通公園、すすきのといった目抜き通りと交差する商店街、
狸小路へ。たいして歩いてないのに、早くも足が痛くなっていた。
足は外反母趾、背骨は歪んでるという哀れな体なので
昔から歩くことが苦手。
「根性なし」と言われて辛い思いをしてきた。
いまはようやく「歳のせいで」と言えて嬉しい。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/27/90/2be55732c35a0c5e4bc9be44ab244af8.jpg)
一丁目から七丁目まである長いアーケード。
Sさんの住むマンションはここにある。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/03/df/52fbd167aee12126674edc86a3bbd597.jpg)
熊のうしろにあるのは「免税店」。何軒もあり、
大勢の中国人団体客で賑わっていた。
Sさんによると、3・11のあとはさすがにガタッと
数が減ったそうだ。
けどまた元に戻り、先日の反日デモ騒ぎの頃も
減った様子はなかったとのこと。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/09/c8/4092a9065dac40c75cb898582a1d101e.jpg)
ここで足の痛みが極限に。
友人から「ぜひ行きなさい」と教えられていた
「ラフィラ」というデパートの地下にある回転寿司へ。
ネタの切り方などはいかにも回転寿司だが、新鮮で
おいしく、しかも安かった。女性の一人客も多い。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/45/80/dd1a3cff0527f8a236c0d94db61fbe6c.jpg)
Sさんにはもっと札幌暮らしの話を伺いたかったが
私の体力が尽きてしまった。なにせ蒲田あたりからどたばた
してたからねえ。
ホテルに戻り、マッサージをとって就寝。
よく朝、目覚めたら雨。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/13/da/87a198fde108eefb2cf4560806a439a1.jpg)
しかも寝過ぎで偏頭痛。食欲もなく体がだるい。
放っておくと偏頭痛がひどくなるので、仕方なく薬を服む。
この薬には酷い副作用がある。喉が詰まり体全体の皮膚が
ぴりぴりし、偏頭痛はなくなるものの、頭全体が泥に浸かってる
ような不快感、そして眠気。
朝御飯にお粥をほんの少しだけ食べ、チェックアウトの
11時までずっとベッドにいた。
Sさんは今日も付き合うつもりで出てきてくださったが、
私は歩くのも辛い状態。お詫びを言って別れ、そのまま空港へ。
飛行機は五時半発だから約五時間、空港で一人過ごすことになる。
空港には立ち食い寿司も。元気だったら食べたかったなあ。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/31/13/269f716893efcdc716dc52f55d67909f.jpg)
お金使って札幌まで行って、どうしようもないねえ、と
思われるかもしれないが、空港で過ごした五時間は至福だった。
札幌で「いいな」と思ったことの第一は、商店街、公園、
空港など、至る所にベンチが多いこと。
疲れたら、喫茶店など探さなくてもすぐに座れる。
私はことあるごとに「横浜の街中にもっとベンチを!」と
訴えてきたが、そのささやかな声は横浜の「元気」に
消され続けてきた。
横浜は元気だけど、その分、弱い者にあまりやさしくない。
札幌は違った。どこにでも体を休めるベンチがある。
私は空港でそのベンチにゆっくり身を預け、
副作用が少し収まったかなという頃に空港内にある
マッサージを楽しみ(二日連続!)、またベンチで休んで、
たくさん並んだ道産ショップを冷やかし、疲れたら休み……
だったので、5時間余りまったく退屈せず
むしろ、私にはこの時間の使い方が合ってると、嬉しかった。
一人だったから気兼ねもいらなかったし。
やっぱり住みたいな、札幌。
至る所で見た白い大理石のモニュメント。
安田侃という人の作品らしい。
なんだか心安らいで、これも気に入ってしまった。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/5e/74/979dfbcac8ea587f6a0e03f9fce5e725.jpg)