冬桃ブログ

忘れてはいけない、4・11 まだ水が出ない!

 昨年、私を南三陸や石巻などの被災地へ連れて行って
くださったT氏は、水道のプロフェッショナルである。
 今年に入ってからも毎月、被災地通いをしておられた。
 そのT氏が、「3・11の被害ばかりクローズ・アップ
されるんですけどねえ、4・11で大きな打撃を受けた
ところもあるんですよ。しかもあまりマスコミ報道もされず
復興が進んでないらしいんです。水が出ないという話を
聞いたのでとにかく見てこようと思うんですが、一緒に行きますか?」
 と声をかけてくださった。

 場所は福島県いわき市の遠野町。
 私は新幹線で郡山へ行き、そこで東北の被災地から
車で戻ってらしたT氏と合流した。
 郡山の駅からさらに車で一時間半ほど入った山の中に遠野町はあった。
 上遠野と入遠野に分かれており、私達が行ったのは奥にあたる入遠野。
 折笠さんというお宅を訪ねた。

 この集落は12世帯あり、ほとんどが兼業農家。
 折笠さんの家だけが専業農家だそうだ。
 中には年金収入で暮らしているお年寄り所帯もある。
 水道は、湧き水を引いてくる簡易水道。
 遠野町の6割くらいが簡易水道か井戸だという。

 昨年の4月11日、ここは震度6弱の地震に見舞われた。
 山が崩れ、地面のあちこちに亀裂が入り、全壊の家や3人の
死者まで出したというのに、大きなニュースとして記憶に残ってはいない。
 3・11の大地震、津波、原発事故の報道が生々しい頃だったせいもあるだろう。

 まだ山崩れのあとが残っている。崩れた下は道路。
 現在も使えないままなので、迂回道路ができていた。


 多くの家はいまでも屋根に青いシートが掛かっており、それを
重しで押さえている。

 
 折笠さんの家がある集落では、この時以来、水が出なくなった。
 地面や地下の変動で、湧き水の水源が消えたのだ。
 かわりに道路から水が噴き出し、通行に支障をきたした。

 折笠家ともう一軒は、他の家からかなり離れたところにある。
 簡易水道からポンプを引くには遠すぎるというので、じつは
沢の水を使っていた。おいしくてきれいな自然の水だ。
「だからこんなことになるまで、水のことなんか考えたことも
ありませんでした」
 と、折笠さんは言う。
 家もあの地震で傾き、いまだにトイレのドアが閉まらないし、
壁も一部剥がれ落ちたままだ。

 集落の人達はどうにかして水源を探り当てようと、山をあちこち掘った。
 が、出るのは泥混じりの臭い水ばかり。

 当初は「水道局の水道を使ってた家じゃないから」というので
給水車も来てくれず、折笠家はほんとうに難儀をしたそうだ。
 何度も頼んで、ようやく給水タンクを貸してもらえるように
なったとのこと。
 一年近くたとうという現在も、別の集落へ水を汲みに行っている。
 田んぼも畑も水が涸れ、この一年は使い物にならなかった。
 市の対応の冷たさには、簡易水道が集落の個人財産であるという
事情も関連しているようだ。

 折笠さんの案内で水源地の山へ。
 まずい! 杉の木ばかり。私もT氏も重度の花粉症だ。


 わけいっても、わけいっても杉。


 運転手と水源調査を務めるT氏は、さすが、こういう時、泣き言など
一切言わない。時折、鼻をすするだけ。
 が、私は泣き言なんか口にしなくても、盛大なくしゃみ連発、
呼吸困難、涙ぽろぽろ……隠しようもない惨状。
 「たいへんですねえ」と、折笠さんに同情されてしまった。

 それはともかく、今後はどうするか、である。
 別の集落にある水源から湧き水を汲み上げ、貯水タンクに貯め、
それを各所帯に送水する施設を造ることになったそうだ。
 約3000万という費用がかかる。
 苦労して補助金の申請をし、三分の二は出ることになった。
 が、あとの三分の一、つまり1000万近い金額が、12所帯の負担となる。
 一軒あたり、少ないとはいえない負担だ。
 そこで「ためとも応援団」というコミュニティが組織され
資金集めに乗り出した。
 そのサイトによると、3月16日の時点で4292472円が集まったとのこと。
 水道のプロであるT氏は、さっそく新しく造る予定の水道施設に関して
あれこれアドバイスをなさっていた。
 
 ためとも応援団のサイト。
http://www.tametomo.jp/

 3・11、4・11という未曾有の大災害から、早くも一年。
 瓦礫だけではなく、まだまだこういう問題が山積みされている。
 あまり役にたたない私ではあるが、そのことを、知るだけでも
知っておきたいし、機会を見つけて自分の目で確かめたいと思っている。
 「畑はこれからも水不足だと思うんです。だから、水が少なくてもいい
綿花を植えて、オーガニック・コットンを作ろうかと思ってるんですよ」
 と、折笠さん。
 梅と柚子がよく獲れるこの集落では、梅ジャム、柚子ジャムも
作っている。

 杉花粉に苦しめながらも、山道で蕗の薹を見つけた。
 もう開いているが、いい香りがする。
 「ここはクレソンもたくさん獲れるんですよ。でも放射能で
今年は駄目でした」
 と、折笠さん。
 蕗の薹はどうだろう。私の年齢なら問題はない。
 五つ見つけたので持ち帰り、ごま油と味噌で炒めていただいた。
 香りは薄めだったが、おいしかった。



 

 
 
 
 
 
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