陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

著作権法改正案、恐るるに足らず?

2019-02-17 | PC・通信・情報・メディア・SNS

過日の記事(ブログやSNSに好きな作品の画像を掲載できなくなる?!)で触れました、あの著作権法改正案についてです。
読売新聞2月14日朝刊が報じたところによりますと、文化庁が検討中の改正案の概要が判明いたしました。

今回の改正案のもくろみは、漫画やアニメの全部を違法に無断掲載する「海賊版サイト」の駆逐を目指したもの。ところが、昨年審議された当該サイトへの接続遮断をおこなうブロッキングでは、日本国憲法第二十一条の「通信の秘密」に抵触するので、これを法制化せず。代わりに、利用者がわに法的措置を与えることによって、創作者や出版社の正当な利益を保護しようとする目的があります。

具体的にいいますと、「海賊版サイトから」「著作権侵害だと知りながら」、音楽・動画にくわえ「画像・文章・プログラム等を」「反復継続してダウンロードした」者に対する処罰が盛り込まれるとのこと。

この改正案決定が早くもネットで流れた朝日新聞版のニュースでは、あたかも、漫画やアニメのワンカットを載せた個人のブログやサイト、ブックマークにしたり、さらにはツイッターをリツイートしたり、スクリーンショットにとっただけで有罪になると騒がれたのですが、そこまでではないようですね。先般の報道だと、買ってきた漫画やアニメDVDの表紙、クリア中のゲーム画像の撮影までネットに晒したらいけないとも読めます。要するに「海賊版サイトを利用しないでね」「漫画やアニメなどは、著作権者にきちんとお金を払って楽しんでね」という意味合いですね。あたりまえのことなんですけどね。なお、「有償のもの」に限りますから、著作権者が好意でツイッターで描いた絵はリツイートや転載してもだいじょうぶなのでしょう。そうじゃないと、ツイッターまとめとかのサイトも死にます(笑)。

読売新聞朝刊の翌日15日付記事では、さらにご親切に、「原作の登場人物を用いて漫画などをパロディー化した二次創作物は除外される」とも伝えています。TPP発効にともなう著作権の非親告罪化でも揉めていましたけれど、なぜ、ここで二次創作が話題になるの? 二次創作しているどなたかが、危機感いだいて文化庁に電凸でもしたのでしょうか(謎)。二次創作サイトを見ているだけで、罪に問われることになるの? で、二次創作物は、今回の著作権法改正の対象物じゃないよという。

この回答、いっけん、二次創作の存在が法的保護を受けたかのように聞こえますが、違うでしょう。
極端な話、二次創作物の同人誌が勝手に電子データ化されてダウンロードされたとしても、それは「原作者の」著作権侵害にはあたらないので、保護はしません。罰則もありません。訴えるなら民事上の損害賠償を自分で起こしてね、国を頼らないでね、の意味だと思いますが…。いや、だからといいまして、他人様の二次創作物を自分のもののように発表したり、それで利益を得たりしてはいけないのですけどね。

法の条文がどのようなものになるかまだ成立していないので、われわれにはわかりません。ただ、海賊版サイトを「反復継続してダウンロード」した場合に限って、2年以下の懲役もしくは200万以下の罰金、もしくはその両方という処罰。うっかり触って画像が保存された場合は免責になるそうですが、「違法性をはっきり認識していない」ことを不当に主張するひともいそうですね。殺人事件でありがちな弁護士の入れ知恵で「殺意はなかった」「精神障害だった」と自己弁護して刑を軽くしてもらうのと同様に。お子様にスマホを触らせるときは、きちんと教育しておいたほうがよさそうです。こういうのは、学校の教師というか、ご家庭のしつけの範囲でもあるのですが。

海賊版サイトにネットユーザーを誘いこむリーチサイトの運営者の罰則は、5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金、またはその両方。海賊版サイトへのリンクの提供者には、3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金、もしくはその両方。余談ですが、労働者を不当解雇したり、過重労働を強いたりしたりした事業主や法人企業に対する、労働基準法上の罰則規定では、6箇月以下の懲役または30万円以下の罰金です。人ひとり過労死させといて、たったこれだけの処罰しか受けません。これよりも、著作権違反がなおさら重いわけですね、日本の国益に関わるわけですから。

出版業界の苦境を考えますと、このたびの厳罰化は当然の処置といえます。
人間はタタで、苦労せず、手に入れたものは大事にしません。これまで無料で見放題、読み放題にされて印税が入らず、生活が苦しかったクリエイターさんの苦労が偲ばれます。漫画や小説の一冊は数時間で読み終わってしまいますけれど、その創作の裏側でどれだけ企画を通すためにあくせくした人や、かたちにするために関わったひとの血と汗とを知らずに、わたしたち読者は気ままに消費しがちですから。

しかし、また今回は海賊版サイトを対象としていますが。
拙ブログのように、二次創作をしたり、版権画像を「引用の範囲内」のつもりで掲載してレヴューしたりしている個人のファンは、著作権との接し方について敏感にならざるをえないのではないでしょうか。広報活動として、著作権者の利益に貢献していると自認しているつもりではあっても、事実はそうではない可能性もありますよね。どのようなことをすれば著作権違反になり、どこまでが許されるのか、この件についていずれ考えてみたいとは思います。

二次創作物につけ、個人が画像掲載するレヴューや、パロディー動画にしても、著作権者が発行するコードをつけたら、ネット上でも掲載許可が下りて、そのクリック数に応じて「著作権者に」利益が入るしくみにしてみたらいいんじゃないかと考えていますけど。
ユーザーが原作漫画やアニメDVDを購入したときに、その公開使用権も買わせるかたちにするとか。中古で著作物を購入しても、著作権者にも利益が届くしくみにするとか。絶版になったままのコミックスやDVDを、中古ショップやネットオークションで買われたとしても、現在新刊で売られているものを買ってもらえない限り、著作権者はありがたくないわけですよね。二次創作をしている間柄でも、連載中・放映中にしっかりシリーズDVDを全巻購入し特典付録をもっている古株ファンと、動画サイトで無料放映されたストーリーや無料公開コンテンツだけを楽しんでいるライトな新規ファンとのあいだには、こうした投資金額をめぐっての絶妙な隔たりがあります。後追いのファンが買い揃えたくとも、金銭に余裕がなく、オークションで不当に高騰してしまって手が出せないこともあります。私が子どもの頃はジャンプのコミックスは税込370円でしたが、いまはそれよりも100円は高くなっていますよね。失礼な言い分ですが、その高くなかった分だけ、現在書店に並んでいる漫画はすべて画力、ストーリーともに高くて独創的なのだと言えるのでしょうか?

いまの出版界は、すでにどこかで見た人気の類型を、作者を交代させ、若返りさせて描かせて売り出しているだけのようにしか見えません。
出版社の方には、いま話題になった、メディアで売り出しできる旬の作品ばかりではなく。過去作でも稀少な価値のある作品については再販や改訂版での発行をお願いしたいところです。そのためにクラウドファンディングを募ったり、他業種とのコラボをしたりという、さまざまな取り組みが今後とも展開されることに期待したいところですよね。


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