2024年夏、パリ五輪開催中にて(この記事掲載時点ではパラ五輪)。よくも悪くもさまざまな話題をまきつつ、連日、日本勢の活躍の報に私はおおいに勇気をもらっています。今回もそれにちなんだ話題を。
学園物で必ず一人はいがちな体育会系キャラとしての早乙女真琴。
画像はOP映像の一場面。真琴は主人公・来栖川姫子の女子寮ルームメイトにして親友。アニメの冒頭から登場するものの不幸な事故によって途中で退場を余儀なくされる。しかれども、後半から復活して輝きだすキャラです。そして、最終話でも、何気なく、姫子の失った想い人の悲しさを演出するために欠かせない存在。
第一話、正体不明の巨大ロボットが学園を襲い、逃げ惑う学生たち。
しかし、姫子は千歌音ちゃん宛のプレゼントを探しに、あえて群れに逆行。追いかけた真琴は足を負傷し入院、試合に出られなくなってしまいます。二話でお見舞いに行くも、目をあわせてくれない真琴。アニメで9話あたりのドラマCD上でも、陸上部のホープを失った先輩陣に姫子がいびられるシーンも。(ちなみに原作漫画では真琴はすこし捻挫したぐらいで、姫子にアイス奢ってねと軽口をたたく程度)
もし、真琴が五輪出場レベルのアスリートだったら?
直接姫子が怪我を負わせたわけではないとはいえ、遠因にはあたるので、姫子は国民の敵扱いされてしまうかもしれません。そもそもロボットの手に掴まれて爆風に巻き込まれ失神したぐらいなので、姫子とて無傷ではなかったのですが。千歌音ちゃんに助けられ、しかも姫宮邸の居候になるという幸運も手伝って、嫉妬からなのか、真琴がいない学園ではいじめっ子たちの嫌がらせを受けている。
もし、千歌音やソウマという理解者がいなかったとしたら、姫子の立場としてはいたたまれないでしょうね。
親友の側にいる人々に恨まれてしまうなんて。大好きなマコちゃんの敵認定されてしまうだなんて。だから、夜の無人駅でどこかに逃げようとまで追い詰められてしまうわけで。天涯孤独の身の上で、わたしは誰の側にもいちゃいけないんだ、と覚悟決めてしまう姫子、あまりに悲しすぎます。
我が国だけに限らないでしょうが、スポーツの天才を神聖視し過剰にその勝利を喧伝するいっぽうで、負けた者、舞台に立てなかった者を惨めな思いにさせる風潮があります。過度のプレッシャーを浴びせ、アスリートのメンタルがゆがんでしまうケースです。その背景にあるのは競技界の絶対王者になれば、巨万の富が動くという資本主義なのでしょう。ひとりの負けはもはや個人のものだけではなく、チームや学校、地域、ひいては国の沽券にかかわってくる。だからこそ、もし、不当に選手を負けさせる理由をつくったものがいたならば、徹底的にうちのめし、叩きのめさなくてはならないという、いびつな正義感さえ芽生えます。その連帯はまことに正しい制裁なのか? 応援している、自分の果たせなかった夢を託したあの選手が勝ったら嬉しい、推しが輝けば自分は気分がいい。だから、その機会を奪った愚か者は許せない。アイドルやスポーツ界の過剰すぎる野次やブーイングと同じ。姫子と真琴とのあいだの不穏な空気感は、まさにこうした勝利至上主義のためでした。
このふたりの仲が復活するのが、9話以降。
裏切った千歌音のかつての幻影を追って秘密の花園をめざした姫子。阻まれるいじめっ子たちを追い返したのが、松葉杖をついた状態の真琴。久々に語らったふたり、真琴は姫子との面会を拒み不安にさせたことを悔い、自分が弱かったと吐露します。リハビリ中で不自由な足をふるいたたせて、あの急な階段をのぼって、姫子のもとへ歩いてくる真琴の勇気と友愛は、まさに「走れメロス」というべきもの。真琴の励ましがあったからこそ、姫子はアメノムラクモ復活の儀式に臨み、闇に堕ちた千歌音と対峙する決意を固めるのです。
このシーンはあまりに美しく、作画のクオリティもあって、作中の名シーンのひとつ。
悲恋のヒロイン姫宮千歌音や大神ソウマの勇姿ぶりの陰に隠れてしまいがちですが。12話という少ない尺のために必要最小限の登場シーンだけで演出された、この真琴の復活劇のすばらしさ。さらに終盤では虐めの主犯格のイズミたちに手を差し伸べるというワンカットもあり、対オロチ戦には関わらないものの、戦乱で荒れた人の闇をはらう和平の象徴としてもそれとなく描かれています。
今年プラモ化で話題になったあの一話ラストのあの伝説のシーン。
姫子と千歌音、ソウマの運命のみならず。真琴をはじめとした一般人の日常を狂わせる悲劇のはじまりでもありました。戦禍や災害はどんなときでも、ひとの心身を傷つけ、なおかつ、社会を分断してしまうのです。
華々しい栄光の舞台を逃してしまった不運のランナー早乙女真琴。
しかし、彼女は姫子にとっては君だけのヒーロー。晴れた日も曇りがちでずぶ濡れな日もそばにいてくれる。背中を押されたエールの尊さを知っているアスリートだからこそ、彼女のひと言には落ち込んだ私たちに前を向かせる力があるのです。脇役であってもこうした重みをもたせたのが、この作品の魅力の一つだと言えるのではないでしょうか。
【関連記事】
友愛の走者・早乙女真琴の脚力 その1
友愛の走者・早乙女真琴の脚力 その2
【Image】画像で語る、すこぶるアガる、神無月の巫女
神無月の巫女20周年、その前に。二次創作小説の更新時お知らせ記事につけていた画像。たまにコメントをつけていましたが、いい機会なので、ちょこっと遊んで企画化してみることにしました。