陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

中年になったら趣味嗜好が変わるのはなぜなのか問題

2022-08-22 | 二次創作論・オタクの位相

定期的に家の中を断捨離している私ですが。
ここ十年来、いや、二十年来は捨てられずじまいだった少女漫画を思い切って処分したことがあります。子どもの頃に好きで、単行本が古びたから文庫本として買いなおして後生大事に保管していたものです。

中年になったら漫画を読めなくなった、という話はよく聞きます。
私も昔は手塚治虫やら、往年の少女漫画などは古くさい絵柄で毛嫌いしていましたのに、いま手元へ残しているのはそうしたコミックばかり(二次創作をつづけているオタク漫画はのぞく)。最近のデッサン力はあるのだけれども、とてもキレイにイラストめいて描いているような漫画よりも、むしろ余白が多いような漫画のほうが情報量が少なくて目が疲れなくなりました。台詞がびっしり詰まっているような漫画はもうだめです。

好みが変わったのは、本だけではありませんでした。
昔は極端に塩辛い煎餅や、甘めのお菓子も好きでしたが、最近は摂ると如実にカラダに響くので、うかつに口にできなくなりました。刺激物が欲しいのは子供舌なのですが、味付けも薄めにしたくなる。お酒なんて、もう一年ぐらい飲んでいませんね。

服装もそうで、若者向けのプリント柄のシャツとか、派手めの色物は袖を通すのがおっくうになり、部屋着か、庭畑の作業用にしてしまいます。まるで目立つと鳥にさらわれるのが怖くて、草木と同化してしまう小虫のごとく、渋めの地味な色を選ぶようになりました。これはオフィスカジュアルを意識しだしたからなのかもしれません。

土いじりなんかも大の嫌いで汚れるのが嫌だったはず。
教養のある額縁に嵌められた絵画だとか、モニュメントのような金属製の人工物の造形美が好きだった私が、そうした美術館で囲われた清潔な芸術品には見向きもしなくなり。むしろ、泥くさい土地の草抜きでもしていたほうが楽しくて心地よくなったのは、驚くべき現象です。

仕事に対してもそうで。
以前は週5日、8時間以上も働くのは勘弁してくれとずっと思っていました。ところが、週数日だけのシフト制などで定時で終わるような仕事はとても楽ちんだけど慣れてしまえば味気なく、やりがいがないものになり、退屈になります。私が正社員就職をめざしたのも、安定雇用が欲しいというのもありますが、多少サビ残をしてもいいので責任ある仕事がしたいと考えてのことでした。

以前は日がな一日本さえ読んでいれば、インターネットさえぼんやり眺めていれば、それだけで幸せなのだ。この世の義務とか面倒な人間関係からも解放されて独りの時間はすばらしい、そう信じていました。けれども、そうじゃなかったのです。

こうした意識の変化はやはり年齢のせいなのでしょうか。
漫画やらが読めないのは、まとまった時間がないせいで、フィクションの世界にとっぷりはまれないからでしょう。逆に漫画が無性に読みたくなる時は現実逃避していますので、良い徴候だと考えてもいます。

物欲がなくなったとでもいいましょうか。以前ほどに遠出をしたり、新しい場所に出かけたりといったことをしなくなりました。コロナ患者が増えているのもありますが、なんとなく及第点を保っている日常のリズムを崩したくないんですね。

その昔、大叔父にあたる人物が大量の盆栽を愛でていたのを思い出します。翠を育てるのは手間がかかり、枯れれば処分がめんどうです。でも、今はそうした草木が身近にあることがとても豊かな生活に思えてくるわけです。「天空の城ラピュタ」でシータが叫ぶ、人は土を離れては生きられない、まさにそれ。


ところで、最近、若い世代で過疎地域に移住してくる方が増えているそうです。都会での生活に疲れてしまったから、なのでしょうか。

昨年、空き家の隣家が引越ししてしまいましたが。
そのあとに住まう予定の若い方があいさつに来られて、家庭菜園のようなことをしたいと抱負を語っていました。いくらデジタルが進歩しても、原始的な、千年も前から人間がおこなってきた農作業を進んでやりたがる人が増えているのでしょう。もちろん、自然相手に暮らすことには厳しさや地域なりの縛りもありますが。都会の狭い土地に、すし詰めで建てられたマンションに住むよりも、買い物はやや不便だが、夜には静かで川のせせらぎも聞こえそうな田舎の一軒家住まいは、人間の気持ちを穏やかにさせてくれるものがあります。

私の今の週末の楽しみは、空き家に通うことで。
数年前に家屋を一部取り壊して以来、そのままになっていた荷物をすこしずつ片付け、家電をそろえて、別荘のように居心地のいい空間にしているのです。庭木を刈り、草を除き、樹や花を楽しむ。この夏休みには塀のペンキを塗り替えて、補修材でひび割れを埋め、多少見栄えよくしてみました。

最近、私のブログは交流をしないせいか、アクセス数がかなり落ちています。けれども、そうしたことも気にならなくなりました。必死になって話題になりそうなニュースネタを拾ってきたり、一日に何度も更新したりしていましたが、なんだか虚しくなってきたのです。

最近書いてしまう記事も、こうした雑記めいたものばかり。
読まれるべくして書いたものではなく、ただ自分の生活記録として残しておくためだけのものです。けっして、よいことを訴えて、世の中を改善してやろうとか、影響を与えてやろうとか思ってもいません。公開こそはしていますが、壁打ちのように独り言として更新されているだけなのです。

中年になったら趣味嗜好が変わってしまうのはなぜなのか。
人生の後半期にさしかかり、執着していたものにこだわらなくなったせい、なのかもしれません。蔵書もだいぶ減らしましたし、欲しければ、また買えばいいや、としか思いません。できるだけ身軽になっておきたいという望みがあるのです。

それは老化現象なのでしょうか? 
蛹が蝶になるのと同じで、人生の別のステージに移ったのだということ。すなわち、いっそ、新しい自分がはじまると思えばよいのではないでしょうか。若い頃に楽しんでいたものができなくなったからといって、嘆く必要はないのです。

こうした趣味嗜好の変質がまた訪れるかもしれないので、記事として残しておくことにしました。

(2022/08/21)






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