陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

映画「風と共に去りぬ」

2010-10-14 | 映画──社会派・青春・恋愛
名前だけは聞いたことがあり、長年憧れの気持ちを抱きながら、いつか観たいものだと思っていた映画が、ヴィヴィアン・リーとクラーク・ゲーブルの主演で有名な1939年の「風と共に去りぬ」(原題:Gone With the Wind)マックス・スタイナー作曲の「タラのテーマ」も、誰しも耳にしたことがおありでしょう。
しかし、しめて四人の男女の数十年に及ぶ複雑な愛憎劇は、いくども波瀾万丈の人生、愛の山あり谷ありの連続。三時間を越す大作にも関わらず飽きずに観られたのは、ただひとつの感情でした。こんな酷いヒロイン、みたことない!

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物語は、南北戦争直前の豊かな合衆国南部の町タラ。
大地主オハラ家の長女スカーレットは男勝りな性格で、パーティを開けば殿方にちやほやされる。スカーレットの本命は、気だての優しいアシュレー。しかし、アシュレーは情熱的なスカーレットの求愛を拒み、メラニーを妻に迎えてしまう。失意とあてつけで、メラニーの兄となりゆきで婚約したスカーレットに、ご執心だったのが、謎めいた紳士のレット・バトラー。

スカーレットはわがままなお嬢さまでありますが、南北戦争後の荒廃した一家を立て直したほどの逞しい女性。彼女は三度の結婚をしますが、アシュレーのことが忘れられず、最後には家庭も自分を親身になって愛してくれた男性も失ってしまいます。

アシュレーはかなり優柔不断な優男。
病弱な妻のメラニーを裏切れないと口では言いながら、商魂逞しいスカーレットに寄生して暮らしているも同然。しかも、最後の土壇場でスカーレットをどん底に陥れるような言葉を吐きます。

四人のなかでは、超のつくほどお人好しなのが、メラニー。
彼女は夫の心がスカーレットに傾いているのを知っていても、露ほども疑わない。しかし、身重になったせいでスカーレットのご厄介になってしまうあたり、天然です。彼女はひょっとしたら、甲斐性のない旦那より自由奔放なスカーレットを頼っていたフシが見られます。また、スカーレットもメラニーの優しさは認めており、二番目の夫となる妹のフィアンセは平気で奪ったくせに、アシュレーを腕づくでものにしようとしない。

とうしょは腹黒い金持ちかと思われたレット・バトラーこそが、いちばん男らしい。スカーレットと顔をあわせれば厭味を残していきますが、ピンチにはかならず現れるお助けマン。アシュレーに心を移したままのスカーレットを愛していますが、彼女が窮地に陥っても金銭で解決しようとはしません。しかし、南部の負けがこんで荒廃したアトランタから故郷タラへの決死行を手助けしたり、アシュレーの危機を察して救い出すという機智の働きぶりは、ヒーロー然としています。決して、彼が無責任な風来坊ではないことがわかります。

スカーレットが三番目の夫に選んだのが、レット・バトラー。
三度目の正直でやっと結ばれたはずの二人でしたが、娘が生まれても本心ではバトラーを愛していないスカーレット。冷えきった夫婦仲に決定的なメスをいれたのが、バトラーが溺愛していた娘と、良心の権化ともいうべきメラニーの死でありました。
傷ついたスカーレットを抱擁することができないでいる彼もまた、不器用な愛し方しかできない男ではなかったでしょうか。

けっきょく、スカーレットは生まれ故郷のタラと自分しか愛せない寂しい女性だったのでは、という気がします。恵まれた家庭生活を送っても満ち足りなさを感じている、そして矜持の高いアメリカ女性の奔放さと強さの象徴として、スカーレットは存在するのでしょう。

1939年という製作年が信じられないほど、完成度の高いテクニカラー仕様。
19世紀中葉の華やかな社交界や夕陽の色あいがとても鮮やかに楽しめます。スカーレットという名を引き立てるべく、翠(おそらく商売女を示す「Green Sleeves」のメタファーとして)のドレスがよく映えるヒロイン。その彼女がバトラーに去られて、泣き伏せつつも明日への生きる意欲をうしなわない緋の階段は、南北戦争後に疲弊した郷土で再起を誓った際に握りしめた赤土のメタファーなのでしょう。

スカーレット役に「哀愁」「欲望という名の電車」のヴィヴィアン・リー。
レット・バトラー役に、クラーク・ゲーブル。名作「或る夜の出来事」での、じゃじゃ馬のお嬢さまと恋におちる新聞記者役で有名ですね。
メラニー役が、オリヴィア・デ・ハヴィランド。アシュレーを演じたのが、レスリー・ハワード。
作中いちばん道義的な発言をしていたのが、女中役のハティ・マクダニエル。彼女は黒人としてはじめてオスカーを受賞しました。

監督はイングリッド・バーグマン主演の「ジャンヌ・ダーク」のヴィクター・フレミング。本作は彼が監督としてクレジットされている「オズの魔法使」と同年作なのですが、主演のゲーブルに懇願されて製作途中で引き抜かれたためでした。

1939年度アカデミー作品賞をはじめ監督、主演女優、助演女優、脚色、色彩撮影、美術監督、編集、サルバーグ記念、特別の十部門を制覇した大作で、俳優やプロデューサー、スタッフを契約にで囲い込むスタジオシステムで黄金期を築いた1930~40年代のハリウッド映画を代表する大河ドラマ。

原作は生涯ただひとつの小説しか残さなかった作家マーガレット・ミッチェルの同名小説。


(2010年1月17日)

風と共に去りぬ(1939) - goo 映画

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