陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

映画「テルマ&ルイーズ」

2018-09-26 | 映画──社会派・青春・恋愛

1991年の映画「テルマ&ルイーズ」(原題 : Thelma & Louis)は、以前から噂に聞いていて観たかった映画です。服装から80年代半ばの印象があったのですが、90年代の作だったんですね。
女性の解放を謳った映画とかいうふれこみでフェミニズム関連の書籍でとりあげられているだろう(?)有名作品ですが、正直、あまり感動はしませんでした。
共感できる部分はあるにはあるんですが、ヒロイン二人の迎える結末が痛々しすぎて…。なにか、こう、胸がすっきりしない。お好きな方、ごめんなさい。以下、いささか、辛口批評になります。

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starsロードムービーはやっぱりアメリカでないと。
starsテルマとルイーズよ永遠に
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アーカンソー州に住む専業主婦のテルマは、ウェイトレスで未婚のルイーズと共に週末にドライブに出かける。旅の途中、立ち寄ったバーで羽目を外しすぎたテルマは、言い寄ってくる男といい雰囲気に。しかし、駐車場に連れ込むなり男が豹変、乱暴されそうになるところを、ルイーズの銃に救われる。
現場から離れたふたりは、事件の発覚を恐れてメキシコへの逃亡を図るが…。

自立して生活しているだけあって姉御肌のルイーズ。それに比して、暴力的な夫から離れたいがために家を飛び出したテルマは、どこか甘えがみられます。男からの誘惑を拒めないテルマは、その後もやっかいなヒッチハイカーの青年を拾って、ルイーズがせっかく工面した逃避資金すらパーにしてしまう。

いっぽうのルイーズは、殺人を犯した身の上。
正当防衛を主張すれば情状酌量の余地はある状況といえますが、過去の悲しい痛みが、彼女にとりかえしのつかない犯罪を起こさせてしまったのです。頼りになる恋人がいながらも、その腕にすがることができないのは、その過去ゆえか。
前半では理性的な判断をくだしてきた彼女ですが、その後ろめたい過去のために気落ちしてしまいます。
逆になぜか、行動力に目覚めたのは、依存心が強かったほうのテルマ。風貌まで逞しくなっています。しかし、逃げ延びるためにふたりは、もはや手段を選ばなくなっていき…。

ひたすらニューメキシコ州のハイウェイを爆走するロードームービー。
事件を追うハル警部は、本作中、ゆいいつ彼女たちの虐げられた立場を知る理解者だったのです。彼の存在だけが救い。けれど、その男の説得も通じない。テルマとルイーズを乗せた車はグランドキャニオンの谷底へ…。ここが印象的な場面ですよね。女性がキスしあいながら、車でダイブするという。

最後をストップで終わらせる手法は、「明日に向かって撃て!」でおなじみですね。荒野を舞台にした遁走劇というのは、米国映画ならではでジョン・フォードの西部劇からの流れ。しかし、「明日へ…」とおなじく、ここで逃げるふたりは、まぎれもない犯罪者にして、社会からのはみ出し者。現実逃避がけっきょくは何も生まないことを教訓として知らしめるようなつくりです。弱者だから、被害者だから、他人から奪ってもいい、という極端に走るヒロインもいただけない。二人は死を持って、女性の不当な扱いを訴えるしかなかったのか。なにかやるせない思いが募るわけです、どうしても。

エンディングだけ観ればそこそこ泣けるかもしれませんが、ルイーズはともかく、テルマの行動には眉をひそめたくなって、同情できません。あんな清々しい顔で飛び込まれても、かえって気分が鬱になりますね。物事の分別がつかなくって、自暴自棄に陥ったとしか。酷ないい方をすると、抗おうとはしているけれど、戦おうとはしていない。救いようがない。いや、救いたくても救えなかった。この二人が悪いとか責めたいのではなくて、目の前で飛び込まれたりなんぞしたら、自分ならどうしようか、と思う。思ってしまう。しかし、そんな嫌な人生なら捨てちゃえば、などと不謹慎に思ってしまえる自分もいます。こんなこと言っちゃう自分、優しくないな(苦笑)。

男性が監督したにしては女性の気持ちをよく汲んでいると思うのですが、けっきょく、家庭やコミュニティの枠から外れた女性は死ぬしかない、と宣告されているような気がしますよね。女性を扱っているけれど、女性に優しくない映画のような。ジェンダーを黒人差別とも絡めたスピルバーグの「カラーパープル」のほうが、まだしも訴えてくるものがあるかと思います。銃や暴力に頼らず、女性が女性と手をとりあって、傲慢な男性の支配から逃れようとしたわけですから。

本作は第64回アカデミー賞脚本賞、第49回ゴールデングローブ賞脚本賞を受賞。

主演はテルマ役に、ジーナ・デイヴィス。
ルイーズ役にスーザン・サランドン。
ヒッチハイカーの青年を演じたのが、当時はまったく無名だった若かりし日のブラッド・ピットというが驚き。この人、二枚目と思われているけれど、性格俳優ですよね。ジェームズ・ディーンをスケコマシ風にした感じ。

監督は、英国人でCM製作から映画界入りしたリドリー・スコット。「エイリアン」「ブレードランナー」「グラディエーター」の監督として有名。
ちなみに初監督作品が、カンヌ国際映画祭新人監督賞受賞の『デュエリスト/決闘者』というタイトルなんですね。

なお、本作の車で二人の女性が世界から飛び出すというラストから、「少女革命ウテナ」の映画版ラストを思い出してしまいました。あのアニメはもっと、前向きなメッセージ色があった終わり方だったと信じています。二人が出ていこうとした閉じられた世界が夢で、向かった先が現実であるわけですから。でも、現実はどこにも出口がなく塞がれていて、けっきょく、自分で掘った夢の穴に飛び込んでしまうしかないのでしょうかね。

(2010年3月5日)

テルマ&ルイーズ(1991) - goo 映画


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