陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

年季の入り過ぎた二次創作者は、ジャンルゴジラの夢を見ない

2019-02-17 | 二次創作論・オタクの位相

二次創作自体を更新しないくせに、二次創作の何たるかみたいな本質論を語りはじめたら、そろそろおしまいだろうと考えてしまいます。

本シリーズの前回記事では、ジャンルを次から次へと渡り歩く「ジャンルイナゴ」のお話をしました。頻繁なジャンル移動それ自体は、多作品を摂取したファン同士の交流にもつながり、作品伝播の可能性をひろげること、メジャータイトルに関わることで知名度をあげることができる等の利点がありうることを指摘いたしました。その反面、ジャンルイナゴならぬ、ジャンルビッチとも侮蔑される、人気作品を食い物にして使い捨てにしていくやりかた、原作への偏見を与えかねないイメージ改変には、いささかの反発があることも否めない事実なのでした。

神絵師やら絵馬やら字馬(イラストや小説のうまい人を指す言葉らしいのだが、家畜みたいですね(爆))やらと呼ばれてほしいがために、視聴者の多そうな話題作品に乗り移る尻軽さは、その作品をこよなく愛するファンからしたら、眉をひそめたくもなるでしょう。ファンからすると「二次創作者の誰それさんが書いた絵・物語のうまさ」ではなく「二次創作を通してわかる原作物の面白さ、キャラクターや世界観の魅力、プロたるクリエイターたちの仕事の意義」を語りあかしたいのに、お互いに話の主語がちがうので、噛み合いません。

二次創作は原作のファンが手掛けるものなのに、二次創作者がファンを自分にだけ振り向かせようとする現象がしばしば起きます。商業出版の原作にお金を落とさないのに、なぜか二次創作同人誌だけを買う人もいるようです。海賊版サイトも最近になって取締りされはじめましたけれど、このあたり、どうなのでしょうね…。二次創作自体、存在が危ぶまれたりしないのかな、という不安はつねに二次創作者の皆さんのなかに巣くっているはずです。

このジャンルイナゴの反対側にいるのは、当然ながら、長年そのジャンルに居ついている二次創作者。座敷童のように住み着いており、牢名主のごとく支配権をものしようとする二次創作者。便宜上、これを「ジャンルゴジラ」と呼称することにいたしましょう。特撮映画で有名な怪獣の名を冠していますが、けっして、いい意味合いではありませんのでお間違いなく。あ、いま、自己紹介乙ってつぶやきましたよね? おっしゃるとおり。鏡に向かって怒ったものは、不機嫌な顔しか得ることができません。

二次創作を10年以上やり続けて、まったく一の原作物しか関わったことがない人は少ないのではないでしょうか。原作がかなりの長期連載漫画だったり、アニメの新作が数年おきに発表されたりするなどあれば別ですが、原作物が終了して、5年も経てば二次創作者の数は減っていってしまいます。みんな新しいものが好きですし、話題になるものは飛びつきやすい。

しかし、ある年数が経ってしまうと二次創作のジャンルを特定作品に絞りたくなります。
同人活動家で常に新しいネタを仕入れねばならない人はともかく、オンライン活動のみならば。なぜかというと、手掛けたい二次創作が中途半端なうちに、新規作に飛びつきたくなくなってしまうから。また、10年も経つと、最新作の絵柄や作風になじめなくなって、懐古主義といいましょうか、自分の青春時代の夢中になったこころをそこに見出した作品から離れられなくなってしまうわけですね。

現実的な面で言えば。
趣味に割ける時間も金額もなくなってきますし、またイチから新しいストーリーを学んでいくのが、とても億劫になります。また二次創作の小説やストーリー漫画をつくっていると、創作物の構成というか、機微のようなものがなんとなく読めてくる(読めた気になってしまう)ので、最新作の流行ものを見ても、石のように冷めたピザを噛んでいるような気持になってしまいがち。

さて、このようにして、ある特定作品のみに特化するようになった二次創作者には、いわくいいがたいオーラがつきまとうようになります。それを私はジャンルゴジラと呼ぶ。

二次創作者はヲタク気質の塊です。
これが一か、二の作品にまといついてしまうと、その作品のことは何でも全て知っているぞというジャンル博士のような顔をしがちになります。自分が好きなキャラを否定されると許せなくなり、キャラクターの「顔だけ」小ぎれいに描いて点数稼ぎしている一枚絵が許せなくなり、主要カップルだけの話題しか出てこないのが歯がゆくなり、初心者に作品のトリビアを語って聞かせて知識でマウンティングしようとします。長年その作品を追いかけてきた立場なので貴重な証言も飛び出すでしょうが、このネット時代、古い情報ですらいくらでも掘り出せますから、アジアンファンタジーに大概出てくる事情通の長老みたいなポジションになれるはずもありません。このように、下手するとその言動によって、あちこち火を噴きまくってしまうこともあるでしょう。いったんその二次創作がすたれたせいで見放したのに、何かの拍子に再ブームが起きると、返り咲いてその界隈の代表者ヅラをする人も苦手でしょう。

しかし、ある種の二次創作者はなぜ、その作品ばかりにこだわるのか。
言うまでもありませんが、その作品が好きで、もっと、もっと理解を深めたいと願っているので、二次創作を続けているのです。原作物を観なおすたびたびに新たな感動が湧き、さほど興味のなかった脇役の人物にも活躍をあたえてみたくなったりする。人形がふたつだけの簡素な舞台から、家をととのえ、道を引いて、海を渡り、空を飛ばせ、森も増やして、好きなキャラの住む世界をどんどん広げていきたくなります。シルバニアファミリーを買い集めていくみたいに、公式が頼んでもないのに、かってに家族を増やしやがる。

年季の入った二次創作者は凝り性です。
作品にメカが出てくるとそのギミックに詳しくなったり、歴史ものが出てくると時代考証をしてみたくなったり。作品検証をして、二次創作に反映してみたくなる。髪形の結び目にこだわってズレたかつらのような絵にならないようにしたり、特殊な構造の衣裳を描きたいためにわざわざ似たような服を置いて、襞の流れを研究したり。板付きの悪い足にならないように靴の描き方まで怠らないようにしたり。舞台にしたい場所があれば、現地ロケと称して出かけたりもする。けっして美少女美少年の華やかなキャラクターばかりではない、渋みのある、あるいは滑稽な狂言回し役も置いてみたりする。女の子ふたり並んで笑っているけれど、ふたりの内面性は如実に違うので、その違いが微妙ににじみ出ているように演出する。着物と肌の質感の違いがわかるように彩色したり、原作にある台詞回しや振舞いをここぞというときにパロディにしてみたりする。そして、自分の味付けを凝らし過ぎて、しまいになんだか分からないシロモノになります。たいがい二次創作を嗜む人がそこまで求めていないものまで凝りだしはじめます。

永すぎた二次創作者は、原作物への愛がとかく強すぎます。
しまいには夢にまで見たり、いつも自分の側にいて自分と同じものを食べているような気がしたりする。ここまでくると、もう病気に近いです。熱愛が過ぎると、原作物と他作品とに比較認識法をこらして、徹底的に叩きのめすこともあります。引き合いに出された作品の愛好者はたまったものではありません。はい、ココも私の得意技です(笑)。

二次創作の楽しみとは、原作物にある作品ルールを準用して、その制約があるなかで、個々人なりの工夫を凝らして遊ぶことにあります。他人様が苦心して生んだ土台をかってに拝借したうえで創作論を語るのはおこがましいですが、自分の手で描いてみることで、キャラクターの行動原理や心理がすこしだけ把握できたような気になれませんか。キャラクターが自分に近づいてくれたような感じがするのです。これに気を良くしてやりたい放題書いてしまうのが、二次創作の落ち度でもあります。しかし、二次創作者は、自分があくまでコピーに過ぎないことを理解はしているものです。

余談ですが、私も拙ブログに複数ジャンルを載せてはいましたが、ひとつだけ法則があります。
それは「似たような」風合いのものは、なるべく避けるようにしたことです。すでに自分が好きになった原作物と酷似しているようなストーリー構成や、デザインの似た造形のキャラ、その組み合わせが商業作品で量産されて出てくるとものすごくがっかりします。A作品の噂の二人の関係性がB作品のあのカップルを喚起させてウキウキ❤なんてご意見も見かけますが、私は似ているといやです。自分がイチ押し作品のメイドさんに酷似したキャラが無残な死に方をした作品が茶化されていたときは、ほんとうに腹が立ちましたし。百合モノが多いのですが、日常学園もの、伝奇+ロボットもの、魔法少女もの、スチームパンク風ダークファンタジーの少年漫画。すべて傾向を変えていますが、一見肌合いの異なる作品でも、自分が惹かれていく共通点はあるものです。ロボットバトルや魔法戦が自在に描けるほどの力量が自分には乏しくて、中途半端に投げ出してしまったことがあり、なおさらその原作の良さがわかったことがあります。原作物の神髄に迫っていくのは、10年以上二次創作をしていても難しいものですよね。

さて、このようなジャンルのご意見番気取りの古株ファンならぬ二次創作者がいると、とたんに息苦しくなりますよね。ジャンルイナゴにせよ、ジャンルゴジラにせよ、二次創作者が原作物そのものよりも、その存在を前面化させるとロクなことがありませんね。ゴジラは最後に爆撃されるでしょうが、ジャンルゴジラは死ぬまで治りません。

特定ジャンルに腰を据えたはいいが、長年ジャンルに固執している古株二次創作者は、それはそれはもう面倒くさい存在になります。二次創作沼にはまると、やがて君も、あなたも、誰もがたどる愚かしい道のりです。

反面教師にしていただけましたら幸いです。…おや、誰か来たようだ。


【二次創作者、この厄介なディレッタント(まとめ)】
趣味で二次創作をしている人間が書いた、よしなしごとの目次頁です。
二次創作には旨みもあれば、毒もあるのですね…。




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