陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

神無月の巫女公式小説集(四)

2011-11-10 | 感想・二次創作──神無月の巫女・京四郎と永遠の空・姫神の巫女



神無月の巫女公式小説シリーズご案内の四回目。
今回は本格的なノベライズも含みます。アフター神無月と、ビフォアー神無月とでもいうべき二作について。



「神無月の巫女~月日御伽草子~」(2009年5月発売新装版DVD-BOXブックレット所収)
今より二年ほど前に発売された新装版DVD-BOXブックレットに掲載された四頁ほどの短編。これを目当てにDVD-BOX買われた方も多かったのでは。




アニメ最終話、オロチの消えた優しい世界へと再生されたあと、いつもと変わりない学園生活を送る姫子と真琴。宮様がいないとジン様が学園の人気者なんですねえ、へ~ぇ(棒読み)。

名前も知らない、しかし、たしかに再会の約束を交わした相手へと操をさげる姫子、なんと健気な生き様でしょうか。
そんな彼女のその想いをたしかめるかのようなある小事件が発生した──ということで、ふたりの出逢いに関わるあるモノ(ヒントは第六話)が登場します。「あなたの生きる世界に…全部もって生まれてくる」のくだりを読んだときに、思わず泣きそうになりました。「その人」の名前が出ていないのに、台詞だけや仕種のみでその存在をありありと感じさせるというのは、やはりオリジナルならでは。感服。姿もかたちも分からない、ほんとうに居たという証もない、けれどふたたび廻り会うその日のために待っているという姫子の一途さに胸打たれます。小難しいことは言わないけれど、気どった態度もないけれど、姫子の、姫子らしい、姫子だからこその、すなおな十六歳らしい感情の動きがたまらなく愛くるしいのです。そして、その言葉は重い。その誰かと出逢うべく、力強く生きていこうとする姫子の生命力を感じさせてくれる一話です。紙面に限りがあるせいなのか、あっさりと終わってしまったのがいささか惜しまれるところ。ああ、もっと読みたかった!



「神無月の巫女~はじまりの春~」(2007年5月発売のフィギュア附録冊子)
四年ほど前に姫子・千歌音の巫女服フィギュアが発売されたのですが、あみあみ限定二体セット(姫子が月の巫女服(藤袴)で、千歌音が陽の巫女服(緋袴)仕様。とどのつまりは剣の舞踏会ヴァージョン)に附録としてついてきたのが、この小冊子。著者はもちろん脚本・シリーズ構成の植竹先生なのですが、イラストが介錯先生。表紙こそは鼠いろのシンプルなものですが、一枚めくるとあらびっくり。中身は藍いろのモノクロ刷りで、十頁もあり、読み応えじゅうぶんの番外編。眼福ものです。ISBNがつく商業出版物ではありませぬが、独立した物語として、小説だけが書かれた冊子体として、発行されたはじめての正式な公式ノベルということになりましょうか。附録扱いは扱いなのですが。





内容は、月の社に封印された姫宮千歌音が来栖川姫子との在りし日の想い出をふりかえるというもの。
つまりは、アニメ版最終回のBパートからの続編ということになりますが、実は同時に、前話にもなっているのですよね。
本文のほうには、「第零話 二人春詩」と銘打たれています。オロチもソウマも出てきません。まさに二人の、二人による、二人のためだけの物語。アニメ第六話よりはさらに詳しく、二人のこころが接近する様子がみてとれるでしょう。これを読めば、ただ前世での浅からぬ因縁があったからうんぬんのみならず、現世の姫宮千歌音として同時代に生まれたその来栖川姫子のことを心底好いていたことがわかります。宿命があったからというより、自分が選びとった愛というめばえかた。

理屈も理由もなく、ただひたすら出逢ったそのときから恋に落ちてしまう。
いや、これはまだ恋という感情に気づく前の、千歌音の淡い片想い。命がけでその人を守りたいと思ってしまう慈愛に似たものか。にしても、千歌音ちゃんの猛烈アピールすさまじいですね、やはり某漫画の千歌音もどきの片鱗がすでにここにあるような…。それはまた、お嬢さまらしくい育ちゆえに、あまり人を懐に入れないような生き方をしてきた千歌音らしい不器用さといいますか。いじらしいですね。逆に姫子にはそれが重荷になってしまうあたり、オロチがいなくとも、この二人には苦難が待ち構えているのか、と胸をしめつけられてしまうわけです。
そして、実はいざというときの姫子の行動力も発揮される後半。姫子がこころにかけていたブレーキが緩んで、誤解がほどけていくラストがいいですね。

表紙裏の「姫宮千歌音 ひとり月詩」「来栖川姫子 お日様の返歌」がいわば相聞歌のように相対していることに注目。姫子を想ってひたすら孤高の社の闇の重さに耐え抜く千歌音ちゃんの切なさ。そして、まだ見ぬ運命の待ち人のために、自分が歩んできた証のために想い出を切り取ろうとする姫子の決意。大切な人に与えられた、護られたかけがえのない人生だからせいいっぱいに生きていこうとするその信念。泣かせますね。

あいまに挿入された介錯先生の美麗なイラストが嬉しいです。
たしか、植竹先生が書こうとしてなかなか書けずに秘めていたお話だったとかいう触れ込みだったような。アニメのシナリオと等しく読みやすい文章だけれど、一字一句、そこには姫子と千歌音の魂がまちがいなく宿っています。ここには彼女たちに肉迫した感情がたちのぼってくるわけです。うん、実に実にすばらしい。よきかな、よきかな。字を辿るごとに頬が緩みっぱなしになりますね。終わってしまうのが惜しい、もう少し長いのが読んでみたい、と悶えたくなります。





ちなみに私はこの小冊子のためだけにフィギュア(人生初にしておそらく最後の)を買いました。
こちらの方は、原型師の方にはたいへん失礼な言い方なのですが、つくりがあまりよろしくなかったのですね。顔が似ていないとかそんなレベルではなくて。色塗りにムラがあったのと、服の止めボタンが破損していて。量産する際の落ち度だったといえますが、あきらかに粗悪品でした。私の購入分だけたまたまそうだったのでしょうけれど。
おそらくDVD六巻表紙を模しての、二体合体できるというアイデアはあっぱれすばらしいのですが、そもそも別に着脱可能にしなくとも…(迷)。袖のはためき具合とか、人体のムーブマンはよく捉えられていると思いますけど、千歌音ちゃんの髪の毛は三次元に置き換えられないのね、きっと…。姫子と並べるとまま、角度によっては美しく見えないこともないのですが、飾っておくにはちょっと…。服は布地でもよかったのでは?
値段が一万越えでしたので、購入をためらわれた方も多かったのでは。ですので、買った当時に記事にするのは控えました。小説だけなら当時として二、三千円の価値はありました。
(このトラウマがあるために、いまでも某漫画コミックス限定版に附録で小冊子+人形がついてもぜったいに買いません。本編がおもしろけりゃそれでいいので)

現在、このフィギュアは附録なしの単品(姫子が陽の巫女服で、千歌音が月の巫女服仕様)が発売されているようですね。フィギュアなどではなくて、描きおろしの絵が印刷されたグッズなどのほうがまだしも売れたと思うのですが…。

なお二体セット収納用の箱のイラストは介錯先生描き下ろしでしたが、とても恥ずかしいシロモノなので画像は控えます(笑)


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