陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

政治は顔でするものではなく、人情でおこなうものでもなく

2020-11-12 | 政治・経済・産業・社会・法務

むやみやたらと刷新を望んでいるわけではない。新しいから、物珍しいからと言って飛びつくのは危うい。国民向けの甘い誘い文句にわれわれは飽きている。12年前に米国史上初の黒人系大統領が誕生したのちに起こった政権交代の悲劇から、われわれ日本国民は、選挙というものにどこか冷めている。

そんな日本国民でも、他国の選挙には夢中になるらしい。
なにせ、有事の際の友軍であり、太平洋を挟んだ隣人であり、経済的パートナーでもある。そのアメリカ合衆国大統領の46代目を決める投票戦についに決着がついた。ジョー・バイデン氏が次期大統領としての勝利宣言をし、日本を含めた各国首脳は祝辞を贈った。喜ばしい次第である。

民主党のジョー・バイデン氏は、かつてバラク・オバマ政権下において、副大統領をつとめた人物だった。
このバイデン氏の半生をネット上の記事で知りえた。中産階級に生まれ、苦学生をして大学の法学部を卒業、弁護士として活躍。学生結婚した妻と長女とを交通事故で失う。幼い息子二人をなんとシングルファーザーとして育て、のちに再婚したが、それからも家族の不幸に見舞われる。2016年時の大統領選時はご子息を病気で亡くし、クリントン女史に出馬を譲る。苦難の人である。私が合衆国の国籍を持つ人間ならば、やはりバイデン氏に一票を投じたかもしれない。

次期ファーストレディとなるバイデン夫人も、また魅力的な人物だ。
離婚歴があるが、ジョー氏と再婚のちに、英語の高校教師、コミュニティカレッジでの大学教授職に就きつつ、博士号を取得している。現在もその職にあり、キャリアと政治家の妻の仕事を両立できる女性として、注目を集めている。日本だと、しばしば、政治家の妻は「内助の功」を美徳としてもちあげるが、古くさい価値観だとしか言いようがない。そもそもシングルファーザーで子育て経験がある男性政治家が、日本にはほとんどいないだろう。

バイデン氏の勝利はまた同時に、米国史上初の黒人系かつ女性の副大統領誕生をももたらすことになろう。カマラ・ハリス女史は、黒人の父、インド人の母をもつ。両親ともに移民であり、古くからの米国人ではない。人種としては黒人らしいが、白人にも見える。離婚後、市民活動家でがん研究者の母に育てられた彼女は、検事の道へ進み、カルフォルニア州の司法長官に就任。不登校減少やレイプ事件解決に尽力したという。また、同性婚合法化も果たしたことで知られる。ハリス女史はクリントン夫人がなしえなかったガラスの天井を破り、次期大統領候補としても名があがる。もともとは、バイデン氏と党内での指名争いをした好敵手だったが、バイデン氏が旧敵を自身の参謀役に据えたのは奏功したといえよう。

またこれと機を一にして、偶数年におこなわれる連邦議会選挙では、女性議員が大幅に増加中だという。この背景には、トランプ氏のかねてからの女性蔑視発言が素地にあって、彼に抗議せんがため、政治の世界に足を踏み入れる女性を増えたのではないかと、分析されている。

今回の選挙戦は接戦であり、ネット上でも報道でも、勝敗について憶測が飛び交った。
トランプ氏は形勢不利と見るや、郵便投票についての不正をあげつらい法廷闘争にもちこもうとしたが、一蹴されてしまった。親トランプ派とされるテレビ局ですらも、氏の負け犬の遠吠えを嘆き、放送打ち切りを図ったという。

しかしながら、暴君とはいえ、トランプ票が多かった事実は否めまい。
経済侵略を行う中国を牽制し、また日本の拉致問題が絡む北朝鮮との国交回復につとめた業績は評価に値すべきであろう。トランプ氏もそもそも三代前まではドイツ系の移民であり、成り上がりの不動産王だった。彼もまた、アメリカンドリームが好きな米国人が生んだ選んだ大統領ではあったのである。しかし、あまりにも利己的であり、しぶとく権威にしがみつく姿勢は見苦しいとしか言いようがない。4年前に投票した支持者ですら後悔したであろう。日本もルーピーと呼ばれた鳩山元首相がいまだに恥さらしな言動をしていると聞くが、トランプ氏も引退後は同様の禍根を撒く恐れがある。

しかし、また、トランプ氏の一見わがままにも見えるが、自分の不平不満の声をあげる姿勢も、あながち否定されるべきではないだろう。
彼のようなモンスターは、個々人が社会への異議申し立てをしやすくなったSNS世代ならではの政治家だったともいえる。

バイデン氏はさっそく政権移行をすすめ、まず手始めに新型コロナウイルス対策に着手するという。分断から統合の合衆国へ、が彼のポリシーだ。ハリス女史は「自分は最初の女性副大統領だが、それが最後ではない」と語り、後に続く女性の活躍を鼓舞した。

正副の大統領は、投票先に関係なく、「ずべての合衆国国民のための」大統領になると宣言をしたが、これはリンカーンの「人民による、人民の、人民のための、政治」宣言にもとづくものだろう。

12年前、オバマ大統領誕生時に「リンカーンの椅子」という記事を書いた。その際に、政治は顔でするものではないと私は主張している。史上初の黒人だから、女性だから、歴史を変えるために。その一票は一歩間違うと、手段が目的になりかねないのだ。

日本では小泉チルドレンやら小沢ガールズやらで、めぼしい女性議員が生まれ、さらに女性大臣も数多く輩出してきた。だが、目立つ期待の女性政治家ほどなにごとか揉め事を起こし、脱落してきたのだった。私の所有する行政書士の合格証書には、当時の総務大臣たる女性議員の名があるが、戸籍名(夫側の姓)であるため本人だとわかりにくい。いまだ夫婦別姓もならず、女性はいまだに昇進もできず、給与も低く抑えられ、男性の補助的な役割に甘んじてしまう。古い価値観の男性のみならず、専業主婦世代の母親たちが、自分の娘の出世や栄達を望まずに抑圧しているし、会社内での女性同士の醜い争いもひどい。子の有無や未婚か既婚かのマウンティングもひどく、女性同士の分断が女性の自立をさまたげているとしか言いようがない。

一概に女性のリーダーを増やせば住みやすくなるとはいえないが、若い世代に聞くと、日本は女性が働きにくいので、東京に出たり、海外に逃げたりというケースが少なくない。先月の我が国の女性の自殺者率はかなり増加したというが、女性を飲み屋の愚痴聞き屋とか世話係のお袋さんみたいに思う文化が消えない限りは、わが国初の女性首相も、あるいは女性天皇すらも夢のまた夢なのかもしれない。

すべての国民のために、全人の利益に資するために、政治をおこなうのは難しい。
政治家は伝説をつくるために存在するのではなく、ひっくり返すためではなく、前に進むために国を動かす。おりしも、この秋誕生した菅首相も、次期大統領同様、苦学のひとであるが、近年、緊張をはらむ中国ふくめた東シナ海問題や、米軍基地の負担、あるいは貿易均衡をめぐっても、威圧的ではない協議がもたれることを望みたい。

それにしても、日本は民主党政権時に二大政党制をもくろんで小選挙区導入をはかったが、そのあとに起こったのは、都会への人口流出による一票の格差問題で、地方の議席を減らされたという悪癖だった。米国のように、各州が独立した権力を持っているような、地方分権制が日本ではいつになったら進むのであろうか。国の代表を直接投票で選べないというシステムじたいが、日本では投票への無関心を招いているには違いないのである。だが、これは一方で、独裁者をつくらない、四年俟たずとも退陣においこめるという意味では画期的であり、そもそも江戸幕府やら貴族政治がそうであったが、国の代表が甘くて緩くても、補佐役たちがしっかりして評定していれば運営できるという政治の歴史が、世界最古の歴史を誇る天皇制の国体維持に都合がよかったのであって、日本には日本なりの政治のやり方があるというべきでもある。





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