陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

はじめて買った同人誌やアンソロについて語る

2023-10-28 | 二次創作論・オタクの位相

同人誌のことを俗に「薄い本」といいますよね。
この薄いというのは、市販の単行本(小説でも漫画でも最低200頁は下らないだろう)に比べたボリュームといった意味合い、ストーリーが単純な内面のこと、双方を指しているものと思われます。

ところで、さんざん二次創作論を語っておいて、今さらですが。
実はの実は、私は「本格的に製版された」「イロモノの」漫画同人誌を「自分で」買ったのは、2021年末に冬コミで頒布された「HIMGAMI AFTER」がはじめてなのです。「HIMGAMI AFTER」は神無月の巫女のスピンオフ作「姫神の巫女」の後日譚で、公式のサイドストーリーなので、もちろん同人作家の二次創作でもありません。原作者の介錯先生は、他作品(高橋留美子の「うる星やつら」とか)の二次創作同人誌を出している、商業作家さんでもありますが。「卒業雪」の外伝小説もコミケの同人誌に付録でついていて、あとから原作者経由で頒布されたものもありましたけども、あれは同人誌といえるのだろうか…。

では、私は二次創作の同人誌を買ったことがなかったといえば、そうではありませんでした。
中学生時代に、地元の産業会館で催された同人誌即売会なるものがありまして。友人から誘われて、近隣県からのサークル参加者の同人誌を買ったことがありました。でも、そこの参加者はきちんとカラーで製本されたものではなくて、学生さんのような素人はだしの、コピー本が多かったのですね。

私が記憶する限り、買ったのもドラゴンボールのコピー本。
中身はきわめて健全で、ベジータやピッコロさんをギャグにしたとか、悟空とチチの夫婦漫才めいたラブコメ本だったはずです。百円ぐらいで買えたんじゃないでしょうか。なにせお小遣いが少ない中坊ですから、がっつりお持ちかえりなんぞできやしないのです。

しかし、私はその一回きりで、そうしたイベントについぞ出かけたことはありませんでした。
大学生時代に、他大進学した旧友に同人誌をつくらないかと誘われても、苦学生だったうえに、個人が本を出すなんておこがましいと断りましたし。カルト人気のある百合作品の二次創作物をブログで発表しているにも関わらず、百合イベントなるものにも参加したことがまったくありませんでした。地方民なのでそうした情報が届かないからですし、SNSで流れてきても、遠いから、人ごみ嫌だから無理!…で避けてきました。一度くらいは興味本位で行っといてもよかったのかもしれません。

大学進学後の関西時代にはに、めろんブックスとかそういう専門書店を見物がてら訪れたことはありますが。
たとえば神無月の巫女にハマったゼロ年代は、すでにネットでいろいろな二次創作が見られる状況だったので、買ったことはありませんでした。なので、姫神の巫女の同人誌を買うためにウェブ上の通販を利用したのがはじめてだったのです。ひょっとして、現在、オンライン専属の二次創作者で、本格的な同人誌を中年にいたるまで買ったことがなかったのは、私ぐらいなのではないかと思ったぐらいです。

では、なぜ、そんな私は「同人誌なるものの本性」がどんなものか知っているのか?
それは――私ではなくてきょうだいが通販なのか、どこぞの同人イベントなのか知らないが、きちんとカラーや二色刷りで製本された同人誌を買っていて(友人から貰っていたかもしれないが)、読んだことがあるからなのです。当時は90年代で、サムライトルーパーとか、セーラームーンとか。たぶん、きょうだいにはそういうオタク友だちがいたのでしょう。原稿用紙に漫画も描いていたらしき形跡があったからです。でも、このきょうだい、高校時代にはリア充になってオタ友だちと離れたのか、同人誌の蓄積があったのは中学の二年間ぐらいでした。

で、私はといえば。
原作漫画はもちろん、公式ムック本はいいとして。当時の二次創作物の摂取は、原則としてマイナー出版社の公式アンソロジー経由なのでした。トルーパーやら、サイバーフォーミュラやらは、BL系の作家を抱えた青磁ビブロス社という出版社から出ていたはずです。セーラームーンは「ルナティック・パーティー」とかいう、やや18禁よりな内容もありまして。ティーンエイジの私にはかなり刺激的でした。少女革命ウテナの薔薇のナントカいう結構えぐいアンソロもあった記憶があります。どれも売却したので手元にありません。セーラームーンの同人誌でいえば、その後、オリジナルの商業作家デビューされて、アニメ放映作のクレジットでお見掛けして驚いたこともありますね。

ジャンルごとでなければ、ごった煮二次創作のアンソロとしては、みのり書房の隔月間誌の「アニパロコミックス」やその投稿誌の「ジュニア」もありましたよね。こちらはさすがに十八禁なものはありませんでしたが、作家さんがその時々にハマったアニメや特撮をパロディにするので、毎号どの原作ジャンルなのかわからない。ムーミンと銀英伝、星矢の混在したギャグ作品とかジャンル横断もあって、原作ジャンルやカップル、百合かBLかというよりは、その描き手の作家性を買っていたという感覚がありましたね。オリジナル作品を定期連載する人もいました。「ジュニア」に何回か掲載された人は専属のプロ作家にデビューさせてもらえたようです。

もちろん、その当時はSNSなんてものがない時代。
まだ同人作家さんがたも、自分のホームページを立ち上げている方は少なかったでしょうし。作家さんの人となりを、こうした市販の二次創作物で伺うこともありませんでした。読者が気に入らない作品や作家について、批判の手紙を出版社に送りつけたような事件も、あったのかもしれませんが、表沙汰にはならなかったのでしょう。

私が子どものころから親しんだ二次創作は、いわば同人作品は。
こうした正式の出版社の、きちんと製本されたものがほとんど。どうしても子どもの頃に買った、あの安っぽい、絵も下手だったコピー本の記憶がちらつくため、サークル刊行の同人誌=価格の割に割高、というマイナスイメージがあります。

しかし、今ネット上で同人誌発行経験者の体験談などを読むと。
サークルがひとりでも、印刷屋にきちんと頼んでお金をかけた本づくりをしていた方が、自分と同年代の就職氷河期世代に多かったのだと知り、新鮮な驚きを持っています。コミケとか人出が凄いでしょ、資金もけっこういるでしょ。その行動力、どこからきたのだろうか、と。私にはとうて真似できません。

ただでさえ普通の商業作品の小説やら漫画やらでも飽きたらぼんぼん処分する私ですから、自分の独りよがりなセンスで制作した同人誌なんぞが自宅に残っていたら、そりゃもう恥ずかしくて破り捨ていただろうことは容易に想像できます。何せ、私はかつて二次絵描き(アニメ雑誌へのイラスト投稿程度だが)だったときのスケッチブックやら画材やらはもうすっかり廃棄しているからです。

ちなみに、私の好きな同人作家さんは、かなりえぐい十八禁めなセルフパロの同人誌も出されていたみたいですが。商業作品として出版社を通さないものは手に取るのがなんとなく怖い、というか、その作家さんはもともと商業作品でも過激な表現がめだつので、もうそれで充分ですという理由で避けています。その過去作だけを集めた一冊の同人誌があればいいのですけども。今後、望んでいた作品の続編で商業化が無理なものだったら喜んで買うでしょうけれどね。


(2023/09/17)




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