約束された黄長氏とのインタビューまでに、少し時間があった。私は、なぜ韓国政府は黄長氏を「軟禁状態」に置くのか、その真意を確かめたかった。まずはそのときの報告から。
□韓国・外交通商部
雑談に入ったとき、李起泉審議官が、録音はしてませんね、と念を押した。
韓国の外務省、正確には外交通商部と呼ばれているのだが、盧武鉉政権発足からほぼ半年、北朝鮮の核開発問題をめぐる第1回目の6カ国協議(2003年8月27日~29日)が始まったこともあって、韓国政府には北朝鮮の核開発問題はどのように映っているのか、そのあたりのことを知りたくて訪ねたのだが、私の質問のなかに黄長氏が韓国政府を批判していることについてどう思うか、といった項目も含まれていたせいか、オン・マイクでの審議官の答えは極めて慎重なものに終始していた。
録音に関する注意を喚起したあと、肩の凝りをほぐしたかのように「黄長氏の考えには一定の理解者がいますから・・・・」と李起泉審議官はいった。だからどうだ、とまではいわなかったが、明らかに盧武鉉政府の北朝鮮外交、すなわち〈平和繁栄政策〉に批判的な立場の人々の声に対するいらだちがあった。しかもその声は日増しに高まってもいた。
「北朝鮮の急激な崩壊は大量の難民を生み、北東アジア地域に情勢的な不安をもたらすなど大混乱を招くだけです。ですから韓国はもちろん日本や中国など周辺国はすべて反対しています」
北朝鮮が民主化されるためには、実は韓国政府の〈平和繁栄政策〉が障害になっている、と黄長氏は批判しているがどうか、と私が質問したときの李起泉審議官の答えだった。審議官はさらに次のように続けた。
「平和繁栄政策は政治と経済はお互いに分離することはできず緊密につながっている、という前提の上に成り立っています。なぜならばいま北朝鮮にとって最も緊急な課題は困窮する経済問題をどう解決するかですから。そしてこの経済問題を解決していく過程で北朝鮮は変化するであろうし、その結果、政治や外交においても肯定的な効果がもたらされるであろうという判断に基づいているんです」
南北の分断から50年余り、謀略、間諜、策略といったきな臭さが常につきまとってきた日々にあって、戦争という事態にならずになんとか平穏を維持してきた韓国にしてみれば、さらにこれからもこの平穏を続けたい、そのためには北朝鮮に急激な変化を及ぼすような政策は採用したくない、というのが盧武鉉政権の本音に違いない。
だから核開発にせよ、日本人拉致問題にせよ、これに対してアメリカや日本がどのような対抗策を採るのか。韓国政府が憂慮する答えは核開発施設への武力攻撃であり、経済制裁ということにある。
そこから自ずと北朝鮮問題に対する韓国なりの距離というものも見えてくる。
「朝鮮半島の平和を増進させ、南北共同の繁栄を追求することで平和的な統一の基盤を造成させ、それが北東アジアの平和繁栄に寄与するという政策目標を、わが政府は持っています」
紋切り型の答えに聞こえるが、言葉にすればこれしかないのだ。その上でわが政府は、と李起泉審議官は、アメリカを始め周辺国への懸念が拡大している北朝鮮の核開発問題の解決について、3つの原則を堅持している、と述べた。
「ひとつは北朝鮮の核保有を絶対許すことはできない、ということ。ふたつは核問題は対話を通じて平和的に解決しなければならないこと。3つは、核問題を解決する過程で韓国が積極的な役割を果たさなければならないことです」
このような段階を経て核問題が解決されたならば、韓国政府は北朝鮮に対して大規模な経済支援を行う用意がある、といった。
だが、そんなに悠長に構えてはいられない事態が目の前にあった。ニューヨークにある北朝鮮代表部が「8千本分の使用済み核燃料棒の再処理を終えた」とアメリカ国務省朝鮮半島和平協議担当特使に発言(2003年7月)、「抽出したプルトニウムは核抑止力を強化する方向で用途を変更させる」と表明したというニュースが駆けめぐり、いつもながらの瀬戸際外交かとアメリカを含めて周辺関係国をきりきり舞いにさせていたからだ。
アメリカはアメリカなりの、日本は日本なりの特殊な事情を抱えながらの対北朝鮮外交が行われるなかで、ことは韓国外務省が考える3段階論の方向で進むのか、どうか。(以下第8回に続く)
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