ということで空白日が続いた当欄だったが、できうる限り復していきたい。
まずは、先日地元SBCラジオの朝番組『モーニングワイド・ラジオJ』で語ったことから。テーマは「北朝鮮の核実験が意味するもの」。
『国連で制裁決議案が可決されたけれども、北朝鮮がこのあとどう出るか、注目していかなければなりません。
ちょうど1週間(10月9日)前に、核実験のニュースを聞いたとき、最初に感じたことは、金正日さんもいよいよ「権力者の末路」をたどり始めたか、ということでした。というのも、北朝鮮からの脱北者は今もあとを断たない。それは「生きていけない、食っていけない」という悲鳴でもある。国民を養えないような国家が、なぜ核実験を?という疑問は、常に独裁者に発せられるものでもある。
それはともかく、こんどの地下核実験。金正日さんにとっては、極めて政治的な意味合いが大きい。これで北朝鮮は「最後の一線を越えた」わけだから。別の言葉で言えば、これまでいわれてきた「瀬戸際外交」、例えば、核燃料棒を抜いた、とか、ミサイルの開発に成功した、とか、核不拡散条約から脱退したとか、こういったことを口実に、経済支援などを得るという外交の、いわば最後の切り札を切ったからだ。
とはいっても核実験によって、結果的にいえば北朝鮮は、①核の仲間入りを果たしたということ。②その一方で、核開発をめぐる「6カ国協議」が崩壊した、ということ。③その結果、北東アジアの安全保障の枠組みが、大きく揺らいだ、という事実を残した。
とはいっても、最後の切り札を切ったからといって、これから先、再度の核実験はありうるとしても、核戦争があるかといえば、その可能性は低い。なぜならば、
「瀬戸際外交」の目的は、あくまで相手が「萎縮=譲歩」することを狙って、自らの『目的』を達成するところにあるからだ。
ではなぜこの時期に核実験を行ったのか、その意味や目的は何か、ということだが、3つあるのではないか。ひとつは、なんといってもどん底にあえぐ国内経済。水害などによる収穫の遅れ、に加えて、麻薬、偽ドル問題に端を発したアメリカの銀行凍結などによる金融制裁。それに、先日の日本海に向けたミサイル発射実験を機に、日本が独自にとった制裁措置、こういった措置によって、国家財政がショートした。その結果、国内経済が極度に悪化した。そういう状態から脱するための外交手段としての核実験、という目的。
ふたつめは、「先軍政治」、何でも軍事が優先するという北朝鮮の軍事政治体制を維持するため。もっといえば、軍部を満足させるため。
3つ目は、以上のふたつのことを見極めた上で、念願のアメリカとの2国間協議に持ち込み、そこで一気に解決を図りたい、ということ。つまり核は捨てるから、代わりに体制維持の保証と金融制裁を撤回してくれ、頼む!独裁者が生き残るための手段としては、よくある話ではある。
だが、北朝鮮の地下核実験が周辺国に与えたものは極めて大きい。
周辺国というのは、日本始め、中国、ロシア、韓国ですが、それに、これまで北朝鮮の核開発を協議する『6カ国協議』に参加してきたアメリカを含めて考えれば、共通する思いは「苦々しさ」。しかし、その「苦々しさ」の中身は、各国それぞれ違っていた。だからこそ北朝鮮は、各国の思惑を計算し、その間隙(すきま)を狙って核実験を強行した、ともいえる。
各国の思惑は、まずアメリカの場合。
「9・11テロ事件」以降、「北朝鮮はイランと並んで悪の枢軸国」と呼び、いまもブッシュ大統領は、金正日(キム・ジョンイル)と呼び捨てにするほど嫌悪感を抱いている。とはいっても、軍事的オプションがあるかといえば、イラクで精一杯で、難しい。それに、テロ国家とは「対話をしない」と言い続けてきている以上、2国間交渉もありえない。
従って、いまブッシュ政権が取り得る選択は、北朝鮮に出入りする船舶の貨物検査・検証をするべきだ、という制裁案にこだわって、国連安保理での影響力を行使する、ということ。昨日の国連安保理で、それはクリアした。
次は中国。1950年に始まった朝鮮戦争では、北朝鮮側に立ってアメリカと戦争をし、90万人の犠牲者を出した、歴史がある。以来、中朝関係は「血の同盟」関係を維持してきた。冷戦崩壊以降も、中国はいわば「後見人」を自負。現に北朝鮮の街に出回る商品の7割は中国製品だといわれるくらい、経済的なつながりも深めてきた。
それだけに今度の核実験は、「飼い犬に手を咬まれた」、裏切られた、メンツ丸つぶれ、怒り心頭といった心境であろうし、2年後には北京オリンピックを抱えた中国。だから国益という点からいえば、「民主主義国家」中国というお墨付きを国際社会からどうしても得たい。
そのためには、「ならず者国家」とあだ名されてきた北朝鮮を擁護するのではなく、制裁に傾く国際社会との協調路線を、今回は取るしかない。あるいは、見切りをつけて引導を渡すか、その瀬戸際に立ったのではないか。
そうはいっても、余程の決断をしない限り、「新たな制裁措置は宣戦布告と見なす」とい居直る北朝鮮の態度を前にして、軍事的制裁はもちろんのこと、アメリカがいうところの、北朝鮮に入港する船舶への立ち入り検査まで踏み切る、という判断をするかどうか、「血の同盟」関係を解消してまで、決断するかは今はまだ疑問。
最も悩ましい立場に立たされたのが韓国。今度の核実験ですっかりメンツを潰されたからだ。2000年の南北首脳会談以降、核をめぐる6カ国協議の中で、韓国ほど北朝鮮を支えて国はない。
同じ民族、戦争になれば国土が巻き込まれる、そういう危機感から始まった「太陽政策」を中心に、戦争で生き別れとなった人びとの往来、コメなどの食料や電力、家畜の飼料、あるいは開城の工場団地や金剛山の観光開発事業といった面で、すでに九千億円以上の経済支援を行ってきた。
つまり、ほかの国と違って、韓国こそが北朝鮮の暴走を押さえ込むことができる、ということを実践した来たはずの思いが、今度の実験で完全に「頓挫」してしまった。
そして何よりも韓国が怖れることは、これからは朝鮮半島の問題解決を、国連を含めたほかの国に譲らなければならない、ということ。そういう意味での怒りと落胆は中国以上に違いない。
もうひとつはロシア。かつての盟友ロシアも苦々しい思いを持ってはいるが、ロシアにとっての最大の関心は、国連での制裁措置がアメリカ主導で行われることへの警戒感。
そして最後が日本。2001年の小泉訪朝をきっかけにした日朝関係が軌道に乗っていれば、今回の事態は避けられたはずだった。しかし、拉致問題で膠着状態にある日朝関係のなかでは、日本が取りうる手段は限られている。
拉致問題で、常に結果を求められてきた政府にすれば、今回の核実験に対して制裁を行うとすれば、さらなる強硬策に出るしかない。そうなれば危機的状況にある日朝関係は、さらに緊迫感を増す、という構造がある。
このように各国の「思惑」を読んだ上での、核実験だった。
では「やり得」だったか、といえば、決してそうではない。これは「瀬戸際外交」の勝利ではなく、むしろ長い目で見れば、国家の崩壊という薄氷の上を歩むような、危なっかしい一歩をさらに踏み出した、ということではないか。
制裁の効果が今後どう現れるか、にもよるが、ここはやはりアメリカとの2国間協議実現に向けた努力もしていくべきだと思う。各国の思惑だけをもとに「制裁」に踏み込むことは、逆に北朝鮮を追い込むことにもなり兼ねない。ことに日本は拉致問題もあって、周辺国の中では「突出」せざるを得ない外交をしてきたわけだから、日本の出方が鍵を握っているのではないか。その際の日本の選択は、ひとつ。それはアメリカに「2国間協議に応じるべきだ」という説得をすることではないか。(2006年10月16日放送分から抜粋)
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