決裂ではなく休会というところにかすかな光明が見えるのだろうが、実質はまさに、ドイツ映画の「会議は踊る」である。
1814年にナポレオンが敗北したあと、欧州秩序をどうするかを話し合うため、90の王国・53の公国の代表がウィーンに集まって会議を開く。このときに、オーストリアから参加した将軍が「会議は踊る、されど進まず」と有名な言葉を吐いたところから、この映画の題名がつけられたが、6者協議も全くこの「会議は踊る」と同じような状況を呈した。
アメリカは、言ってみれば「レームダック」状態。韓国は北朝鮮が核実験を行った直後こそ、黙って見過ごすわけにはいかなかったのかかなりきつい言葉で非難声明を出した。これには同盟関係をめぐって、ぎくしゃくとしていたアメリカとの関係があったからだが、ブッシュさんの共和党が破れた途端、またもとのスタンスに戻ってしまった。つまり、北朝鮮を強く刺激したらまずい。ここは援助や支援を続けながら、いい関係を維持していこう、という「太陽政策」の復活。今回の6者協議では影が薄かったが、これはこれで既定の路線だったのだろう。
ロシアは静観。議長国・中国こそ「ほぞ」を咬んだに違いない。そればかりか議長国としての調整能力を問われかねない結果に終わったのではないか。
というのも、北朝鮮の地下核実験は、中国にすれば裏庭でやられてしまった、という悔しさいっぱいの実験だったはずだ。歴史的にもあれだけ面倒見てきたのに、何というヤツだ、という恨み骨髄、という感情もある。しかし一方で、6カ国協議議長国として、アメリカにも「貸し」を作りたい、という熱烈な思いもある。
ひとついえることは、実験前のように北朝鮮の立場も理解できる、といった姿勢から、中国は段々北朝鮮には厳しい態度に出て行くのではないか。なぜならば、核保有を楯に金融制裁や国連制裁決議の解除を求める北朝鮮のやり方は、結局は話し合いで、という協議の目的から逸脱していくことになるし、そうなれば議長国としての面目は丸つぶれになるからだ。
日本。残念ながら今回も全く何も貢献できない。北朝鮮自身、本音はともかく日本はこの協議で何の役にも立たない、出てこなくてもいい、などといってきた。この発言の背景には、強硬派だったアメリカのブッシュ政権はレイムダック、もはや怖くない、という思いがあるからに違いないと思うのだが、実際にそのアメリカは二国間協議に応じてしまった。
北朝鮮のこのしたたか外交戦略の前に、日本は相変わらず拉致問題一辺倒。被害者の思いに立てば、まことに頼もしく映るのだが、しかし、外交という観点から見れば、いま北朝鮮は核を楯にして、ああせいこうせい、といっている、それに対して何の提案も出来ない。そういう北朝鮮の瀬戸際外交というものはずっと前から当然予想できていたはずだが、それを許してしまった。
拉致問題の解決はしなければならない、しかしそれをするのは日朝国交回復交渉の課程で、という選択もあったはずだ。しかしその道を捨てたことが、結局は拉致問題の解決をも遠のかせてしまった。
だからといって、このような北朝鮮の「外交」がいつまでも効を奏するはずがない。しかしそれに有効な手段を使って立ち向かえないのは、北朝鮮が暴発したらどうするか、という懸念があるからなのだろう。
冷戦時代、核は使えばこうなるぞ、だからやめときな、と常に核は抑止力として機能してきた。核を持った北朝鮮が、核問題を話し合うのであればまず「核軍縮交渉を始めるべきだ」という主張は、その限りでは正しい。しかし、そう主張する北朝鮮がうさんくさいのは、ニセドル、麻薬、そして拉致などの問題と共に、国内的には飢える国民を抱えながら、権力の延命にその核を「だし」に使っているからだ。
北朝鮮には核カードしかない。これからもこのカードを最大限に利用しながら攻めてくるに違いない。そのときに5者にはどのような知恵があるのだろうか? それを問えば、ウーン、やっぱり「会議は踊る」しかないのか。
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