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■再考・靖国参拝 『汚名』(第一回)

 「靖国参拝」問題がくすぶり続けている。以前にも書いたが、9月の自民党総裁選での「踏み絵」にもなりかねない。自民党内のことだったらまだしも、いまの国会の状況では、自民党総裁が首相に就くわけだから、本当に困った事態ではある。 そんなことを考えていたら、総裁候補のひとりと目されている福田元官房長官が、以下のような発言をしている。

《以下引用》
 「自民党の福田康夫元官房長官は17日、福岡市内のホテルで開かれた毎日世論フォーラム(毎日新聞社主催)で講演し、小泉純一郎首相の靖国神社参拝について「(首相が言うように)心の問題であるなら対外的に問題にならない方法はないかと思う」と述べ、悪化する中国や韓国との関係改善に向けて解決策を見出せない首相に苦言を呈した。さらに「(首相が)靖国神社に参拝するのは国家的使命だと言う人がいるが、首相という立場ではある程度考え方、やり方に制限があるかもしれない」とも指摘した(1月18日『毎日新聞』)《引用ここまで》

 首相の靖国参拝が、なぜ隣国で問題となるのか、そのあたりをさらに具体的にお伝えしたい。
 
 舞台は、いまから5年前の靖国神社。話はそこから始まる。
 題して『汚名』の第一回。

 2001年8月14日。
 この日朝、私は滅多に訪れることもない東京九段にある靖国神社を訪ねた。
 境内は朝からざわついていた。

 「朝鮮人は帰れ!」
 「ここはお前たちが来るところではない!」
 右翼と思われる連中が集団になってわめく。久しぶりに耳にした罵声だった。
朝鮮人は帰れ!か。昔から、そう、韓国・北朝鮮に関してなにかあると必ず聞いた言葉だなぁ、とふと思う。この言葉の裏側には、〈真実〉を力で覆い隠そうとする意図が潜んでいる。そういう声の真ん前で、ひとりの韓国人女性が唇を噛みしめていた。
 
 自民党をぶっつぶす、といってこの年の4月、首相指名選挙で第87代、56人目の首相に選出された小泉純一郎首相は、8月15日には靖国神社を参拝する、と掲げていた公約を2日前倒しして、13日に突然現れた。
 首相自らが、靖国問題を政争にした瞬間だった。

 首相の公式参拝は1985年に当時の中曽根康弘首相(注①)が行っただけで、前にも後にも小泉首相で2人目だった。
 それから1日が経っていた。

 「靖国神社参拝をどうしてもやる、と小泉首相がいうのなら、私はどうしてもそれを止めさせたい、と思って日本に来たのに、もう参拝をしてしまった、という話を聞きました。15日を避けたからといって日本政府の責任がなくなるわけではありません」

 首相の前倒し参拝と右翼らしき連中のわめき声に、いったんは唇を噛んだ李熙子(イ・ヒジャ)さんだったが、気を取り直してそう語った。
 そして、私に1枚の手紙のコピーをくれた。

内閣総理大臣 小泉純一郎殿
 私たちは今日、靖国神社に合祀されている韓国・朝鮮人の犠牲者の霊を取り戻すために来日しました。
 日本政府は新憲法が施行された戦後においても靖国神社に通知を出し続け、靖国神社と一体となって合祀を行ってきました。靖国神社は、いうまでもなく侵略戦争を賛美し、日本国天皇のために戦死した〈英霊〉を祀る神社です。この靖国神社には2万余の韓国・朝鮮人戦争犠牲者が合祀されています。植民地支配と強権的な徴兵・徴用で死に追いやりながら、その謝罪もなく多くの遺族に遺骨の返還はおろか戦死通知さえ出さず、合祀だけは行っています。

 本人も遺族もこの合祀を望んではいません。死んでまでも辱めを受けるいわれは全くありません。夫を、父を、兄弟を奪われた遺族は二重三重の苦しみを受けています。

 日本政府は直ちに靖国合祀の責任を明らかにし、謝罪と合祀の取り消しを行うべきです。 私たちは、昨日、小泉首相が日本軍国主義の象徴である靖国神社を参拝したことに強く抗議するとともに、小泉首相が靖国神社に合祀されている韓国・朝鮮人の合祀取り消しの決断をすることを要求します。

2001年8月14日
        太平洋戦争韓国人犠牲者遺族会会長 金景錫 李熙子

 手紙は首相宛だったが、この日、李熙子さんは同じ要請をするために靖国神社に来たのだった。
 神社側の職員は右翼らしき連中の「帰れ!」コールと、李熙子さんを取り巻くマスコミの多さを理由に、危険だから裏道から社務所に入ってくれ、といったやりとりをしている。

 「私がなんの罪を犯しているというのですか、武器を持っているわけでもないし、素手ですよ。罪を犯しているのはむしろこの神社でしょう」
 抗議もむなしく、結局、李熙子さんは九段通りに面した歩道を歩いて社務所に向かう。そしておよそ1時間、靖国神社側との話を終えた李熙子さんが戻ってきた。

 「いいたいことはいいました。靖国神社側は日本のために戦って日本のために死んだのだからここに祀っている、自分たちのことも理解してくれといってましたが、それはこっちがいう言葉でしょう、私の父を祀ってくれといった覚えはないし、それは日本が勝手にしたことです。だからできるだけ早く父の魂をここから出して欲しい、といいました。それに今朝、この神社前で朝鮮人は帰れ、ここはお前たちの来るところではない、と叫んでいる声を聞いた、だったらすぐにでも父の魂を返すべきだ、ともいいました」

 靖国神社側がおいそれと、ハイ、わかりました、といって祀られている神を抹消することは絶対にあり得ない。
 『先般、御申出のありました、当神社祭神を霊爾簿より抹消の件につきましては、御要請に応じ兼ねますので悪しからず御了承の程願上げます』
 これが常に靖国神社社務所の公式見解なのである。(第二回に続く)

(注①)中曽根首相の靖国参拝・・・A級戦犯問題で中曽根氏も悩んだが、初めての公式参拝では国内ばかりか中国・韓国から、侵略や植民地支配を正当化するものだ、と猛烈な非難を浴び、以降見送らざるを得なかった。因みに中曽根氏は、靖国問題の解決はA級戦犯を分祀することだ、という。

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