私と真里子がショッピングをしていても、二人は店の中を眺めたり、時折私が選んだエルメスのスカーフを広げて、柄をじっと見つめて「貴子ちゃんが使うなら、こっちの柄がいいよ」
鷹木さんは鏡台の前に私を立たせると後ろから、ふわっとシルクのスカーフをあてて首元を華やかに彩る。
横から見ていた真里子がふぅんと頷いた。
「確かにこっちのほうが貴子に合うわね。ボルドーの模様が良いアクセントになってる」「そうかな」
私は鏡に映る自分の顔がいつもより映えて見えるのをスカーフのせいにして、「じゃあ、これにしようかな」店員が心得て、こちらへと座り心地の良い椅子に私を促す。カードを出すと「ウィ。パルドン」と奥に消える。
手持ち無沙汰になった私は、まだ迷っている真里子と何やら話している鷹木さんを見るともなく見ていた。
「時計なんだから多少大きくてもいいの!私近眼だし、メンズに近いユニセックスデザインのコレが欲しいの」
鷹木さんは動じず笑顔のまま、「その華奢な腕にその大きさの時計盤じゃあ、どんな服を着てもアクセサリーをつけても時計しか目立たない。レディースの金とプラチナのベルトのこっちの方が絶対に似合う」
コーディネートが趣味なのかな、と思う程的確にアドバイスしている。確かに華奢な真里子にユニセックスモデルよりレディースの方が似合っている。
チクッと胸が痛んだ。
私はもしかして…
首を振って、今浮かんだ考えを消す。
会ったばかりなのに、そんなことあるわけない。
私は真里子のそばに行き、「鷹木さんのアドバイスがいいんじゃない?」と真里子に笑いかけた
真理子は、私を見つめて笑うと「貴子が言うならそうするわ」と
店員に「パルドン」と声をかけ、ピンクの時計盤に金と白金が優雅に織られたベルトの時計を買って、早速身につけている。
「似合うわよ」「貴子のスカーフもステキね~パリの秋らしい色ね」
私は手放しの賛辞に少し照れながらも微笑んだ。
その後はパリのシャンゼリゼ大通りを四人で歩き、女同士で歩くのも大人げないので、私達は一見二組のカップルのように歩いた。
二人とも話が上手で、真里子もクスクス笑っている。
「貴子ちゃんは真里子ちゃんと二人で周りたかったから、僕たちは邪魔かな?」
鷹木さんの言葉に思わず、顔を上げた。
私は160cmあるけど、180cmを超えている鷹木さんの顔を見るには、やはり見上げなければならない。
目が合うと、不機嫌さはまるでなくて、むしろ微笑んでいた。
「そうでもないと思っていたけど、私は女子校育ちで女子大だし、余り…その、こうして男の人と歩くの慣れてなくて。真里子はずっと共学だったから自然で…あんな笑顔を見ると、私が真里子と一緒に歩きたかったかな、と少し思うの」
言って、かっと顔が紅潮するのを感じた。
コレじゃまるで真里子への告白だわ。
「真里子ちゃんも同じこと言ってたよ。君達は似てるんだな」
え、と言う前に、鷹木さんはくっと笑った。
「それに彼女も男と二人で歩いたことなんかないから、会話なんて出来ないから勝手に喋ってくれたら相槌か意見くらいは言ってあげるって言ってたよ。彼女は感情的になると関西弁が出て面白いね」
また、きりっと胸が痛んだ。
「真里子は大阪に住んでなくて、神戸よりの関西弁なの。友達も沢山いるから京都弁も混じったり、放送部だったから標準語が基礎にあるから、きつい大阪弁にならないの」
「貴子ちゃんも割と標準語だね」
これは無理して話してるから。大阪弁だと恥ずかしい気がして…
何で?何で私が恥ずかしいの?どうして胸が痛いの?
私、私は…
二人の心が恋に変わるのは、このあと数時間後。
私(真里子)は貴子がどんなに深く恋に落ちたか、その時まで知らなかった。日本に帰れば文字通り東西に別れる二人がどんな決心をするのかも、幾つもの約束と誓いを交わしたことも。
それはまだ二十歳の女性と23歳の自分の夢さえ叶うかわからない二人には、重過ぎる約束と誓いではなかっただろうか?
私はまだ男女のことなど疎く幼く、止める術など何も持たなかった。
ステキな外観ですね~
続く…
読んでくださりありがとうございます。