今頃、全く今頃なんですが、青池保子作『アルカサル―王城―』を最近何度も読み返してます。
名作に解説は出来ないので、あくまで私の感想が入ります。お許しくださいね。
別に論文を書く必要もないくせにいきなり興味を持つと図書館や本屋さんに通い、更にインターネットで検索しまくって長く複雑な家系図を自分で制作し、現代までどう続くかとか、どこそこの血筋はこんな風に続いているのかと納得したくなる私は、最近ふとイギリスに興味を持ち、そういえばエドワード黒太子時代と『アルカサル』の主人公は繋がっていたんだっけと思い出して読みふけってしまったわけです。(実際はもっと以前からイングランド王室とカスティリア王室は繋がってます。)
薔薇戦争のランカスター家やヨーク家とも繋がってたわ、と改めて思い出しては一心に調べていた高校~大学生時代が懐かしく思います。
物語を主人公の最盛期で中断し(大人の事情とはいえ悲しかった)、でも何とか終了してくれた良心的な青池先生。
特に最終巻と外伝では統一スペイン前のイベリア半島5国の戦国時代とそれに関わる百年戦争の最中にあるイギリス、フランスのお国事情もキッチリ書いてくれて、当時の目まぐるしく変化する政権に頭がグルグル回っていた底の浅い歴史好きの私にはありがたい漫画でした😍
アルカサルの主人公、カスティリア王ドン.ペドロの戦いの生涯とそれを彩る女性との愛と彼を取り巻く臣下との忠誠心。彼の敵たちの陰謀をシリアスに時にユーモアを込めて語る歴史漫画です。
ドン.ペドロは父王アルフォンソ11世の嫡出子(王妃が生んだ王子)だから、王冠を抱いて生まれてきた。(母王妃は隣国ポルトガル王女)
その王冠を妬むのは父王と愛妾レオノーラ.デ.グスマンの間に生まれた数多くの子供達の中の長男、エンリケ.デ.トラスタマラ。
王の長男として生まれ、望めば何でも手に入るのに唯一王冠(カスティリア王位)だけは、父母が望んでも教会や国民や隣国が許さない。王位継承権を持つのはドンペドロだけではなく、父の妹の子供たち(隣国アラゴン王子としての継承権も持っている)もいるし、他にもいて、臣下との間に生まれた庶子には王冠は遠すぎる。
王妃との結婚は国と国との約定であり、それには領土問題も含まれていて、当然両者の子供が王位に就くことが政略結婚ということ。
だから、代々の王たちは愛する女性を妾とすることで精神の均衡を保っているといえる。
父王アルフォンソ11世が当時爆発的に流行した黒死病(ペスト)で亡くなるまで、王妃と王子ドン.ペドロは幽閉状態で政治からも遠く離されていて、父の愛は愛妾レオノーラとエンリケたち兄妹にあった。
だが、父の突然の死により父の愛情と後ろ盾を失い、遂に王冠はドン.ペドロの物となった。
ドン.ペドロは15歳でカスティリア王に即位した。
物語はここから大きく動いていく。
特に庶兄エンリケとの深く長い確執。
生まれながらに王としてのカリスマを持ち、行動力と高い志を持つドン.ペドロ。
才能に恵まれてはいるが弟のような圧倒的な行動力もなく、正統な血を持たないエンリケ.デ.トラスタマラ。
タカラヅカでも演じられました。
勿論、歴史は決まっている。私はモンティエルの戦いでドンペドロがエンリケに敗北し、カスティリア王家はトラスタマラ家に簒奪されることを知っている。
しかし、両者の孫の婚姻によって再びドンペドロの血筋はカスティリア王家に戻り、またイギリス王家にも娘イサベルにより彼の血は繋がっていく。面白いですよね。歴史の糸って。
本で読めば数行にすぎないドンペドロの一生を丁寧に調べて、当時の風俗も詳しく絵にしてくれた青池先生。大好きな漫画作家さんです。
大ヒット作で代表作でもある『エロイカより愛をこめて』は私を大のドイツ好きにして、高校生女子に『KBG』をカーベーゲーと発音させ、国連より先に『NATO』を覚えさせてしまいました。受験は大丈夫かと親に心配されましたが😓
(後に『銀河英雄伝説』で更にドイツ好きが高じました。)
漫画によって歴史好きになりましたが、漫画は入口で更に人物を知りたければ色んな文献を調べることになり、本好きにもなります。
息子は歴史が苦手で、口を酸っぱくして漫画から始めなさいと言ったのですが、歴史よりミステリやサスペンスものが好き。いつかデュマでも読めば嫌でもフランス史を学ぶ日がくるはずと気長に待ち、娘は幸い私の母の影響もあり、タカラヅカも観て歴史の魅力にハマりそう。何処の国、誰にも興味を持つのか楽しみです。
『アルカサル』には魅力的な人物が沢山いて、マルティン.ロペス.デ.コルドバやスペインの良心と言われたロドリゲス.デ.カストロ。賢く美しいドンペドロの愛妾マリア.デ.パデリアとイングランドに嫁した彼女の娘たち。
数年前に父母がスペイン旅行に行ったのですが、羨ましかったです。娘の頃なら着いていく~と甘えられましたが、二人の子供の母がそんなことも出来ず、お土産に写真を沢山とフラメンコの扇と絹のストールと現地のカスティリア石鹸を頼みました。
私もいつか熱いアンダルシア地方の異国情緒溢れる夕陽をみたいなぁ。
余談ですが、スペイントラスタマラ家まで絵画をみる限り美形揃いで、カスティリア女王とアラゴン王のカトリック両王の婚姻により統一スペインになり、二人から生まれた娘のホアナ(ファナ)も美女で、彼女の配偶者になるハプスブルク家のフィリップも、またハプスブルク家には珍しい金髪碧眼のイケメンで、フィリップ美公と呼ばれていた。
彼は彼女を見た途端、我慢出来ずに簡素な結婚式を上げて昼から情熱的に愛し合ったと言われている。美形な二人からは美形が生まれるかと思ったら何故かハプスブルク家の恐ろしく忌まわしい遺伝子の勝利により、ハプスブルク家風の顔立ちをした子供達が生まれちゃう。あぁ…😱
大きな鼻、横から見るとまるで三日月のような尖った顎。小さな口。
フェリぺ2世とかホアナの血が出れば良かったのに、と当時のスペインの国民も残念だったろうな。
更に余談ですが、上記のホアナは母のカスティリア女王と父のアラゴン王が亡くなった後正式なスペイン女王となり、玉璽も彼女が所有している。夫のフィリップ(スペインではフェリぺ)は王とは国民会議(コルテス)に認められずあくまで王配扱いいでした。
その扱いが心外だし、乾いた土地で敬謙なカトリック教徒なスペインに魅力を感じなかったフィリップがネーデルランドに帰国すると、元から情緒不安定だったホアナは夫の浮気を疑いますます精神を壊していく。そして、フィリップが亡くなった時にホアナの心も死んでしまった。彼女はフィリップの柩を馬車に乗せ、代々の王が眠る王廟を目指してスペインを彷徨い歩く。
時には柩を開けて、とんでもないことになってるフィリップの亡きがらにキスをする。
子のカールとスペイン政府はついにホアナを狂ったと見極めて、サンタ.クララ尼僧院に幽閉する。
だが彼女はスペイン女王だという意識だけは死ぬまで狂うことなく、「solo jo」我のみが王である!カールなど王子にすぎないと言い放ち続けた。幽閉されながらもさすがにイザベラ女王の娘だなあと感心してしまう。
「ラ.ロカ.ホアナ(狂女王ホアナ)」として70年近く生きた彼女の人生は芸術家のインスピレーションを刺激するのか、多くの絵画など芸術品を生んだそうです。
ホアナとフィリップの話も沢山のエピソードがあって、本当に面白いですよ✨
イギリス王室の王冠。1953年にエリザベスⅡ世の戴冠式に女王の頭上を飾りました。
真ん中のルビー(正確にはスピネル系パラスルビー)はドン.ペドロがエドワード黒太子に贈ったもの。
宝石にまつわる歴史も面白いですね。
読んでくださりありがとうございます。