1.人間の責任に関する世界宣言
(3)倫理問題への本格的取り組み
ローマ会議という最初の意見交換の場で、国際社会の直面する危機について議論する中で、その背後にある根源的課題、広く共有されうるなんらかの倫理基準を設定する必要性が次第に認識されるようになった。
しかしその直後に起きた冷戦構造の崩壊、日本を始めとするバブル経済の崩壊、湾岸戦争などの国際情勢の激変のために、OBサミットもその間、この問題を掘り下げていく時間的な余裕を持たなかった。
しかし、1995年夏、国際紛争の根本的解決には、その背後にある基本的倫理問題への取り組みが不可欠であると強く主張した福田赳夫元首相が逝去した。そして、OBサミットの創設者の死が、OBサミットが、以後、心の問題、倫理問題へ本格的に取り組む契機ともなった。
シュミット元首相は、福田氏葬儀の直後、OBサミットが基本的倫理問題を最重要課題として取り組むことを提唱し、OBサミットは1996年3月に再び世界の宗教指導者を招いて「普遍的な倫理基準の探求」と題して専門家会議をウイーンで開催することを決定した。
この専門家会議にはシュミット議長の下に、宗教指導者、神学教授などの学者、哲学者、そして政治家が参集し議論が進められた。その中で、「世界人権宣言から50周年の1998年に、国連は人間の責任に関する宣言を検討する会議を招集し、人権の果たして来た重要な役割を補完すべきである。」と提言され、これが承認された。
その報告書は同年5月のOBサミット第14回バンクーバー総会に提出、承認された。
それを受けて1996年夏、チュービンゲン大学のキュング神学名誉教授を中心としてトーマス・アックスウォーシー(加)キム・キョンドン(韓国)教授などの積極的協力によって具体的な責任宣言の草案起草作業が開始され、1997年4月、再びウィーンにおいてシュミット議長の下で前年の専門家会議参加者が集まり、この草案の詰めの検討が行われた。この検討にはノーベル平和賞受賞者でOBサミットメンバーでもあるオスカー・アリアス、元コスタリカ大統領も積極的に参画した。
このようにして出来た専門家会議最終草案が同年の第15回ノルドヴァイク総会に提出され、積極的な議論の中で、カーター元大統領をはじめ多くの有益な修正案も出され、シュミット議長、ファン・アクト・オランダ元首相、ファーグラー・スイス元大統領に最終的なリダクションが委任された。
総会最終案は国連提出草案として8月にOBサミット全メンバーに送付され、署名された。それを受けて9月1日正式に採択され、国連のアナン事務総長と全世界の政府に送付された。