勤労統計調査等に関する特別監察委員会の総括
第4.総括
○ 国民生活に直結する各種政策立案や学術研究、経営判断等の礎として、常に正確性が求めら れ、国民生活に大きな影響を及ぼす公的統計において、このような統計法違反を含む不適切な 取扱いが長年にわたり継続しており、かつ、公表数値にまで影響を与えていたということは、信じがたい事実であり、言語道断である。
○ 今般の事案について調査を行った結果、まず浮かび上がってくるものは、担当者はもちろん のこと厚生労働省として統計の正確性というものに対するあまりにも軽い認識である。統計 は「数値が物語る」ものであるのだから、どのような前提条件の下で行われた調査の結果得ら れた数値であるのかについては、綿密に明らかにしなければならない。これは、統計に携わる 者としての基本中の基本である。統計は、調査方法により結果が変わるのであり、だからこそ、 調査方法を正確に開示することは、結果と同じくらい重要であるということについて、考えが 甘すぎると言わざるを得ず、行政機関としての信頼が失われた。
○ 今般の事案でも、適正な手続きを踏んだ上で抽出調査を行い、集計に当たってこれに適切に 復元処理を加え、それをきちんと調査手法として明らかにしていれば、何ら問題はなかったと も言える。たとえ調査を行う地方自治体の事務負担への配慮があったにせよ、統計を歪めるこ となく、そのような制約条件の中で如何にして統計としての有効性を確保していくのかに知 恵を絞るのが、統計に携わる職員としてのあるべき姿であろう。
○ また、統計がどのような形で利用されているのかということについて、想像力が著しく欠如 していたと言わざるを得ない。今般の事案では、結果として、雇用保険、労災保険等において、 多数の国民に対し、追加給付の支払いが必要な事態となっている。職員は、統計を単なる数値 としてしか見ていなかったのではないか。その先にある国民の生活を想起すれば、このような 杜撰な対応が長年にわたり継続するような事態にはならなかったであろう。
○ さらに、組織としてのガバナンスの欠如についても、指摘せざるを得ない。調査設計の変更 や実施、システムの改修等を担当者任せにする管理者の姿勢、安易な前例踏襲主義に基づく業 務遂行や部下の業務に対する管理意識の欠如により、統計の不適切な取扱いに気付いても、そ れを上司に報告して解決しようという姿勢が見られず、また、上司も調査の根幹に関わるよう な業務の内容を的確に把握しようとせず、長年にわたり漫然と業務が続けられ、結果として、 外部からの指摘で初めて問題が公になる。これは、単に統計の問題に留まらず、行政機関とし ての信頼の問題である。
○ 今般の事案の背景には、専門的な領域であるからという理由で、統計に関わる部門が厚生労 働省の中でいわば「閉じた」組織となってしまっていて、省内からあまり注目を浴びることも なく、その結果、統計行政がフレッシュな視点でチェックを受けることなく行われてきたこと もあるのではないか。今般の事案を、単に統計に関わる部門が引き起こした問題と断じるだけ では、また、同じことが繰り返されかねない。厚生労働省が組織をあげて全省的に対応してい く覚悟が問われている。
○ 本委員会としては、まず、厚生労働省に猛省を促したい。その上で、今後このようなことが 二度と起きないよう、真摯に再発防止に取り組んでほしい。統計に携わる職員の意識改革を図 るための研修の強化、統計部門の組織の改革とガバナンスの強化、統計に対して全省的に取り組むための体制の整備などが柱となろう。
○ また、統計は社会を映す鏡であり、その在り様は社会の在り様に合わせて不断に見直されて いかなければならない。今般問題となった毎月勤労統計調査そのもののあるべき姿について も、時代の変化に対応したものとなるように点検していくことが求められているのではない か。
○ 最後に、本報告書で明らかになった事実関係及び関係職員の対応の評価に基づき、関係職員 の厳正なる処分が行われることを望む。
(以上)
【 所 感 】
行政府の長ともいうべき官僚組織に対する罰則規定が甘すぎるがゆえに、わが国における官僚制度が腐敗を極めてしまったといっても過言ではないだろう。しかも官僚に対するチェック機能を果たすべき政治家も少なくなってしまい、まさに官僚のやりたい放題によって、日本の統治機能は著しく低下してしまった。
このことは厚労省に限った話ではないだろうが、問題が生じたからと言って関係大臣を更迭すれば済む話しではなく、やはり根っこである官僚制度の在り方そのものを追及し、見直さなければならないと考える。〔官僚制度に対する厳格化〕
しかしながら近年、絶大な権力を有することになった官僚組織というのは、あらゆる手段を使いながら官僚制度改革に対する妨害工作を施してきたことが想像されるわけであり、まさに現在わが国における「悪の枢軸」といっても過言ではない。
願わくば、「公」に携わる者としての責任と義務を認識し、すべて国民のお手本となるべく姿勢でもって、業務に専念していただきたいものである。
【 ご訪問、有難う御座いました。 】