3年ほど前に仕事の関係で知り合った女性(60歳くらい)と親しくなり、仕事のお話しだけでなく、私的なお話しも交わすようになった。
そのお話しのなかで、筆者にとっては衝撃的な内容のお話しがあったので、忘れないうちに綴ってみたいと思うのだが、うる覚えのヶ所があったり、多少肥大した内容と変わってしまっている部分もあるかも知れないが、お話しされた内容を全力で思い出しつつ、綴っていこうと思う。
彼女がまだ18・19歳のころの話しだから、今から約40年ほど前のことである。
当時、広島県内で暮らしていた彼女は、友人の女の子(A子)と非常に仲がよく、A子のご両親とも親交があったそうだ。そんなA子も年頃の女の子となり、ある男性とお付き合いを始めるようになった。
その男性は島根県で警察官として勤務しており、A子はたびたび彼が暮らす島根県まで足を運ぶようになる。
そんなある日、彼女はA子のご両親から、「A子が家に帰ってこない」と聞かされたのだが、ある男性とお付き合いをしているA子が、島根まで会いに行っているというなどと、自分の口からは言えない彼女は、ご両親に「知りません」と答えたそうだ。
彼女はA子のことが気になりつつも、その後、仕事の関係で大阪へ居住を変えないといけなくなってしまい、その後はA子やそのご両親とは音信不通状態になってしまった。
それから随分と時がたち、彼女は大阪の知人たちと海外〔台湾だったか香港だったか〕旅行することになった。
そんな中彼女たちは、海外旅行地である空港内で、現地の見知らぬ人物に声をかけられ、「一緒に日本へ連れて帰ってほしい人がいるんだが」と言われたそうだ。
彼女たちは一瞬、「やばい!」と感じたそうだが、その人物の話しを聞くうち、一緒に連れて帰ってほしい人というのが同じ日本人であることを知り、少し前向きな気持ちに変わり、とにかく直接会って話しを聞くことに決めた。
彼女たちはその人物に連れられて、空港の外で待機していたその日本人と対面してびっくりする。
その日本人は車椅子に腰掛け、頭から全身すっぽりと分厚い毛布に包まれていたのだ。
しかもその体型はとても小さく、彼女は一瞬、「こどもかな?」と感じたそうだ。
彼女は現地の人物に、「お顔を拝見したいのだが」というと、その人物は車椅子に近寄り、毛布の隙間から、腰を掛け身動きひとつしないその日本人の顔を見せた。
すると、その日本人は女性だった。目を瞑り寝ているようだった。
彼女は、眠っている女性の顔を眺めた。とその瞬間、
「A子だ!」
と大声を出してしまい、周囲の知人たちは驚いた。しかし彼女は
「A子!A子!A子!」
と車椅子に腰掛ける女性に何度も声をかけるが、全くの無反応だった。
現地の人物が彼女に
「この子は何も聞こえない、何も話せない」と言った。
彼女はさらに
「なぜA子がこんなところにいるの?」
とその人物に問いかけるが、黙ったまま何も答えようとはしない。
彼女はこうなってしまった以上、ほっとける筈もなく、A子を日本へ連れて帰る決心に至ったわけであるが、パスポートも何も持たないA子をこのまま飛行機に乗せることも出来ず、困惑なムードが漂った。
しかし、彼女がA子のご両親へ連絡することで、事が一気に進み始めた。
日本の警察と、現地の警察とが、うまく取り計らってくれて、A子は無事にご両親と再会することが出来たのだが、やはり変わり果ててしまった娘の姿をみたご両親の心情というのは如何ほどのものだったろう、と彼女は筆者に涙ながらにいうのである。
変わり果てた姿、それは何も聞こえない、何も話せないだけでなく、両手両足が失われ、自分では動くことすらもできない姿だったのからだ。
彼女は筆者に「"だるま"って知っているでしょ、あれよあれ!」と言うのだ。
ほどなくして彼女はご両親に対して、A子が当時、島根県在住の警察官の男性とお付き合いをはじめ、ご両親からA子が帰ってこないという報せがあったときも、島根まで会いに行っていたことを告白したのだった。
しかしその後、ことの真相はわからないままだという。
筆者と彼女は、おそらくはその警察官がA子を何者かに売り渡したのではないだろうか?
とそんなことを言い合いながら、『二度とこのような悲劇が起きない世の中になってほしいね』と願うのであった。
そして"平和"って一体何なのか?
戦時中にも悲惨な出来事はある。しかし平和と呼ばれる時代にも悲惨な出来事はある。
臭いものに蓋をし、見て見ぬふりをしながら贅沢三昧な暮らしを送ることさえできていれば、たったそんなことだけで真の"平和"だと呼べるのであろうか。
筆者は決して、そんな風には思えないな・・・。
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