14:08 2011/03/24
<<5-4 服用対象>>
■ 年齢を考慮した服用対象者の制限
18歳未満では、放射線被ばくにより誘発される甲状腺がんの発生確率は
成人に比べて有意な増加が認められていること、
・・・40歳以上では、放射線被ばくにより誘発される
甲状腺発がんのリスクがないことから、安定ヨウ素剤の服用は、
40歳未満の者を対象とする。
● 特に乳幼児は、甲状腺濾胞細胞の分裂が成人に比べて活発であり、
放射線によるDNA損傷の影響が危惧され、
安定ヨウ素剤予防服用の効果もより大きいことを十分に認識する
必要がある。
■ 副作用を考慮した服用対象者の制限
ヨウ素過敏症の既往歴のある者は、安定ヨウ素剤を服用しない。
造影剤過敏症には、種々の要因による過敏症が含まれていて、
その一部がヨウ素過敏症であると考えられている。
しかしながら、造影剤過敏症に含まれるヨウ素過敏症の
割合について推測することは可能ではない。
したがって、全ての造影剤過敏症の者が、安定ヨウ素剤の服用により、
ヨウ素過敏症症状を発症するとは限らないが、
造影剤過敏症の既往歴のある者は、安定ヨウ素剤を服用しない。
低補体性血管炎を有する者はヨウ素に過敏である場合があるため、
その既往歴のある者又は治療中の者は安定ヨウ素剤を服用しない。
また、ジューリング疱疹状皮膚炎を有する者はヨウ素に
過敏であると考えられるので、その既往歴のある者又は治療中の者は
安定ヨウ素剤を服用しない。
ただし、これらの疾患は、我が国では、稀であるとされている。
ヨウ素過敏症の既往歴のある者、造影剤過敏症の既往歴のある者、
低補体性血管炎の既往歴のある者又は治療中の者、
ジューリング疱疹状皮膚炎の既往歴のある者又は治療中の者の
安定ヨウ素剤の服用を防ぐため、安定ヨウ素剤の配布時にも、
上述の疾患に関する情報を明確に伝えることが必要である。
また、これらの者に対しては、避難を優先させることが必要である。
■ 服用に当たって注意すべき事項
・甲状腺機能異常症について
甲状腺機能異常症には、甲状腺機能亢進症及び低下症がある。
・甲状腺機能亢進症の大部分はバセドウ氏病によるものであり、
ヨウ素を含む製剤はこの治療薬の一つである。
・また、甲状腺機能亢進症を有する者は、
ヨウ素の甲状腺摂取率が上昇していることから、
原子力災害時には、甲状腺機能亢進症を有する者は、
安定ヨウ素剤を服用する。
・甲状腺機能低下症のほとんどは慢性甲状腺炎によるものである。
甲状腺機能低下症を有する者は、ヨウ素を含む製剤の服用により、
機能低下が悪化するおそれがあるが、
この場合は、ヨウ素を長期にわたり摂取した場合である。
・慢性甲状腺炎を有する者が、ヨウ素を含む製剤の服用により、
一過性の甲状腺機能亢進症を呈する無痛性甲状腺炎を
発症することがあるが、これは、ヨウ素を長期にわたり摂取した
場合である。
・また、甲状腺機能に異常を認めない慢性甲状腺炎を有する者が、
ヨウ素を含む製剤の服用により甲状腺機能低下症を発症することがあるが、
この場合も、ヨウ素を長期にわたり摂取した場合である。
● したがって、原子力災害時には、甲状腺機能異常症を有する者も、
安定ヨウ素剤を服用する。
● 結核を有する者が安定ヨウ素剤を服用すると「ヨウ素は結核組織に
集まりやすく、再燃させるおそれがある。」とされているが、
再燃を懸念するよりも、安定ヨウ素剤服用により
放射性ヨウ素の吸入による甲状腺発がんリスクを軽減させる方が
有益と考えられる。
したがって、原子力災害時には、肺結核を有する者も、
安定ヨウ素剤を服用する。
● 新生児について
安定ヨウ素剤を服用した新生児については、
甲状腺機能低下症を発症することがあるので、
その早期発見・治療のために、甲状腺機能をモニターする必要がある。
● 妊婦について
妊婦については、妊娠第1期では、
妊婦自身の甲状腺が胎盤由来の絨毛由来性腺刺激ホルモンにより
交叉刺激されている。
このため、放射性ヨウ素の集積が高くなることが予測され、
安定ヨウ素剤の服用による放射性ヨウ素の甲状腺への集積を
抑制することが必要である。
妊娠第2期、3期では、放射性ヨウ素が胎盤を通過し、
胎児が被ばくするのでやはり安定ヨウ素剤の服用が必要となる。
安定ヨウ素剤を服用した妊娠後期の妊婦より生まれた新生児については、
その甲状腺機能をモニターする必要がある。
● 授乳婦等について
授乳婦についても、安定ヨウ素剤を服用する。
授乳婦が摂取したヨウ素の約四分の一は、
母乳へ移行するといわれているが、
授乳児については、母乳からの放射性ヨウ素の移行や
安定ヨウ素の摂取を正確に見積もれないため、
授乳を中止して人工栄養に替え、安定ヨウ素剤を服用させる。
なお、ヨウ素を含む製剤の副作用情報等の動向にも配慮する。
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