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Don't Let Go(追悼 Ric Ocasek)

2019年9月15日、米国のロックバンド、カーズ(The Cars)のリーダー兼ソングライターとして活躍した、リック・オケイセック(Ric Ocasek)が亡くなった(享年75歳)。

カーズのもう一人の看板メンバーだったベンジャミン・オール(Benjamin Orr)が、2000年に膵臓がんで亡くなってから19年、ベンの後を追ってリックも他界したことで、カーズの歴史は伝説として永遠に封印されることとなった。



カーズは、互いに盟友関係にあったベンとリックを中心に、1976年に結成された。

1978年のシングル「Just What I Needed」でセンセーショナルにデビューし、成功への階段を着実に駆け登って、1984年のアルバム「Heartbeat City」でキャリアの頂点を極めた。
約3年の充電期間を経た後、1987年にアルバム「Door to Door」で再始動するが、リーダーとして全楽曲のソングライティングを手掛けてきたリックの完璧主義は、ビジネスのためのバンド延命を良しとせず、メンバー間の軋轢もあって、1988年2月、カーズの活動に終止符が打たれた。



カーズ解散後、リックはソロアーティストの道を歩み始める。

世間の注目はカーズ再結成だったが、リックはその可能性を否定する語録を各種媒体に語った。
しかし、1988年の解散から12年後、盟友・ベンの闘病をきっかけにカーズのメンバー5人が集結する記念すべきラストインタビュー企画が、2000年8月に実現した。
その2ヵ月後の2000年10月、ベンは他界する。



2005年には、トッド・ラングレン(Todd Rundgren)をフロントマンに迎え、カーズのオリジナルメンバーであるエリオット・イーストン(Elliot Easton)、グレッグ・ホークス(Greg Hawkes)の2人が参加した The New Cars 結成を伝えるニュースが、世界を駆け巡った。

The New Cars に対して、リックは(表向き)沈黙を守った。
2005年9月には、ソロアルバム「Nexterday」を発表し、我が道をゆく姿勢を示した。
しかし、元メンバーのエリオットとグレッグが打って出たことで、世間の風向きは変わった。
ベンの死去で潰えたかに思われたカーズ再結成への期待が、再び高まったのは間違いなかった。



そして、アルバム「Nexterday」が、何よりもリック自身の心境の変化をあらわしていた。
5曲目「Silver」では、盟友・ベンを偲ぶセンチメンタルが切々と歌いあげられ、アルバムの全11曲のレコーディングは、ドラム等のほとんど全ての楽器を自ら操って行なったという。
カーズの元メンバー4人の存在の大きさを、リックは改めて知ったのではなかったかと思う。


「曲は書き終わった。さて、どうやってレコードを作ろうか。すべて自分で演ろうか、それとも誰かに来てもらおうか ・・・・。そのとき僕は思ったんだ。彼ら(=エリオット、グレッグ、デビッド)を呼べばいいじゃないか、と。僕の書いた曲をどう演奏すればいいか、みんな熟知している。過去のことは忘れて、The New Cars のことも、ベンがいない悲しみも、すべてを忘れて、彼らと一緒にレコードを作ろう。僕はそう思ったんだ。」

INTERVIEW Ric Ocasek
http://www.avclub.com/article/ric-ocasek-55417


2010年、長き逡巡を経て、リックはついに決断する。

カーズの残ったメンバー、エリオット、グレッグ、デビッド(David Robinson)の3人を呼び寄せ、23年振りのスタジオアルバム「Move Like This」の製作に着手し、2011年5月にリリース。
ライナーノーツに短く書き記された一筆 "Ben, your spirit was with us on this one." は、世界のカーズファンの胸を熱くさせた。

4人のシルエットのみが配されたカバージャケットにも、「ベン、おまえの代役はおまえしかいないんだ」という、強いメッセージが含まれている。

ベンとリックが立ち上げ、エリオット、グレッグ、デビッドの5人で築きあげた The Cars という名の比類なき小宇宙は、2011年の「Move Like This」によって、ハッピーエンドの完結をみた。
それが実現できたのは、リックの決断があってこそだった。

ファンの一人として、感謝の気持ちを捧げたいと思います。



リックとの最初の出会いは、今から36年前、高校2年のときでした。
カーズのアルバム「Heartbeat City」のカセットに付属していた、紙のライナーノーツ。
そこにプリントされた小さなモノクロ写真で、リックと初対面しました。
細長い身体にサングラスをかけた、得体の知れない怪人、そんなイメージを持ちました。

1988年の解散までの、高校~大学の約5年間を、「現役カーズ」のファンとして過ごし、
でもそのときカーズは既に、解散前夜の充電期間の最中でした。
1985年のシングル「Tonight She Comes」と、1987年のアルバム「Door to Door」。
自分がリアルタイムで見届けた現役カーズの活躍は、その2つ。

カーズ解散後は、リックのソロアルバムに食指を伸ばしました。
自分は音楽を聴くとき、歌詞の内容よりも、作曲の妙を味わうのを好みます。
その観点から、プリンス(Prince)、The Go-Go's の Jane Wiedlin、そしてリック。
この3人のアルバムを、昔からウォッチし続けてきました。

3人のうち、残るは Jane Wiedlin 一人になってしまいました。
カーズのアルバムとは言わないまでも、リックのソロアルバムは、もう一作聞きたかった。

自分はリックの他界を、1週間ほど遅れて9月22日の夜に知りました。
YouTube でカーズの動画を何気なく検索していると、タイトルに "tribute", "RIP" という単語を含むものが多くヒットし、おかしいと気付き。。。
その翌日は、インターネットラジオから流れてくる曲がどれもみな、
哀調をおびたレクイエムに聞こえたのを、今も思い出します。

リックのソロアルバムのうち、1991年の「Fireball Zone」以降は、
自分の就職後の人生の思い出と、深く結びついています。

中でも、1993年の「Quick Change World」が出た当時は、
「我が人生における最低の氷河期」を過ごした時期でした。
あの暗かった日々を、ともに過ごした思い出のアルバムという意味で、
追悼文としての本稿を、どれか一曲で締めくくるとしたら、
「Quick Change World」の実質オープニング曲である「Don't Let Go」を選びたい。


don't let go
don't let go
don't let go
for too long


あの頃の 記憶を 離さないで
あの頃を 忘れちゃいけない
あの頃を 思い出すんだ
たまにでも いいから


高校2年でカーズのファンになってから、今日まで、生きる手助けをしてくれた
リック・オケイセック氏の御冥福をお祈りします
合掌(R.I.P)



Don't Let Go (Official)
https://www.youtube.com/watch?v=0ka7QXRRL24
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