好事家の世迷言。

調べたがり屋の生存報告。シティーハンターとADV全般の話題が主。※只今、家族の介護問題が発生中です。あしからず。

『尚も生きる。手を取りて』あとがき。

2020-02-19 | ゲームブック二次創作
『尚も生きる。手を取りて』完走。
この後、時系列は『蒼の魔法使いの挑戦』と、
そして『蒼紅の冒険者』へつながります。

ストーリーは原作(ゲームブック)を極力なぞっていますが、
終盤は独自展開。
魔王戦は『蒼紅の冒険者』の再現です。
二人がかりでの雷撃呪文は、最初からイメージ確定してました。

以下、エピローグについて補足説明。
当方のゲームブック二次創作には、2種類の「世界」が存在します。
冒険者を守る神を、
リーブラと呼ぶ「旧(訳の)世界」と、
リブラ様と呼ぶ「新(訳の)世界」です。

旧世界でリーブラを願い求めた者は、リブラ様の新世界へ送り出される。
ただし万全の状態でなく、何らかの代償を負わねばならない。
これも『蒼紅の冒険者』の設定の根幹です。

さて。これで、長年作り続けた歴史がひとまず完結。
まさか完成するとは夢にも思っていませんでした。
今後のゲームプレイは、各時代に当てはめていく形になるはず。
楽しみは続きます。

それでは。また次回。

『尚も生きる。手を取りて』エピローグ2「ある授業風景」

2020-02-15 | ゲームブック二次創作
前回は、冒険者を助ける女神、リブラ様について学びました。
今日は、歴史の復習をしましょう。
私たちの住む国、アナランドを含む「諸王連合」についてです。

小国同士が助け合うこの制度は、フェンフリーの国王が
提唱したとされますが、その象徴であるアイテム「諸王の冠」は、
主に中央大陸で活躍した男女二人組の冒険者がもたらした物と
言われます。名前は分かりますか?
そう、「獅子王」と称される聖騎士ライアンと、その伴侶キャリイです。

彼らの出自は、実のところ分かっていません。
遠い国からの旅人だったという説が有力です。
ともあれ、彼らは戦士として目覚ましい活躍を遂げ、
世界の上位者、言うなれば神々から、世界の王としての「冠」を賜りました。
それは、人に理想的な指導力と正義感を与える聖なる秘宝でした。

ですが彼らは、「冠」を自らの物とせず、冒険の仲間だったフェンフリーの
改革者に託し、更に他国とも共有するように提案しました。
それが、諸王連合が発足したきっかけと言われています。


……というところまでが、あなた達人間の知っている歴史。
ここからは教師としてでなく、私個人の話になるわ。
私たちエルフの間には、別の物語が伝えられているの。
「獅子王」が残した手記と言われているけれど、創作かもしれない。
え? どんな話かって?
そうね、もう少し勉強を進めたら、読んでみてほしいわ。
せめて魔法使いの呪文について、ある程度知ってからにして。
“彼”のあの告白は、どうか、心して読んでもらいたいから。

『尚も生きる。手を取りて』 了

『尚も生きる。手を取りて』エピローグ1「新しい世界」

2020-02-12 | ゲームブック二次創作
青空が高かった。こんな草原に、どれだけ長く寝ていたんだろう。
体を起こすと、俺と同じタイミングでもう一人、女が目を覚ました。
赤い髪、白い服。冒険者にしては上品な顔形。
それが、はしたなく大あくびして起きあがったら、誰だって驚くだろう。

「あー、よく寝た! ん? あんた誰?」
「誰って………………ええと、お嬢さん。俺、名前、何だっけ」
「はあ!? あたしが知るわけないでしょ」

呆れたように言われて、俺は身の回りを確かめた。
着てる服の隅に、縫い取りがあった。「Ryan the Monster」。

「ライアンっていうらしいな。俺は。まるで覚えがないが」
「勝った! あたしは覚えてるわよ、自分の名前。キャリイっていうの」
「勝ったって何だよ。大体お前、もっと違う名前じゃなかったか?」
「あんたこそ。本当にその名前なの?」

何も覚えてないくせに、意味不明な問答。
そもそもお互い、完全に記憶喪失になってると知った時、
俺は現在の問題点に気づいた。

「まあいい。まずは一番重要な課題を解決しないとな」
「課題?」
「腹が減った」
「そ、それのドコが重要な課題なんだよぉ……」
「俺にとっちゃデカイ問題だ。そうだな、あの街道の先に酒場が見える。
あっちまで行けば、何かいい話にありつけるだろ」
「酒場って……豆粒みたいなアレ? ココから見えるの、あんた!?」
「四の五の言うな。俺は行く」
「待ってよ、あたしも行く。おなか減ってるし。多分」
「多分?」

言い合いながら歩き始めた時。なぜか言いたくなった。

「ありがとな。来てくれて」
「何よ、水くさい。これも縁でしょ?」

『尚も生きる。手を取りて』断章「精霊の決意」

2020-02-08 | ゲームブック二次創作
魔力の薄れゆく部屋で、わたしはまだ消えていませんでした。
ナオ――本名はライアンでも、わたしにはナオです――の体が
冷えていくのを、見過ごす事など出来ませんでした。

彼の心を探り、最初に思い当たった方法は、
彼と唇を触れ合わせ、わたしの力を注ぎ込むという物でした。
さっそく試して、けれど、この方法では意味がないと分かりました。
彼の絶望は、わたしとは関わりのない所から始まっていました。
獣に貶められた彼が、ザラダンから与えられた最初の食餌から、既に。
同族を食らい続けていたと知って正気でいるなど、
知性ある者には不可能でしょう。

足元の床が揺らぎ、おぼろげになってきました。
神々の力で編まれた方舟は、役目を終えて消えようとしていました。
もう全部用済みだと言われたような気がしました。方舟も、ナオも。
それで理解しました。私を駆り立てているこの感情は、怒りだと。

これが、彼に与えられた運命だというのでしょうか。
これでは、彼は使命を成すだけの人形ではありませんか。
このような、魂を抉られるような仕打ちをせずとも良いではありませんか。

私は願います。彼に今一度、唯の人としての生を。
もしも、彼のそそぐべき罪が、一人では足らないというならば、
わたしも罰を受けます。あらゆる対価を支払います。
彼と共に、永劫の時を添い遂げましょう。
もしここに、天よりの御使いがいるならば答えなさい。
冒険者たちを守るとされる、女神リーブラよ!

いよいよ消えていく景色に、わたしが最後に見たのは。
咲き誇る花一輪を背に、金色の天秤を持つ、確かにその御姿でした。

『尚も生きる。手を取りて』最終話「馬鹿な男の告白」

2020-02-05 | ゲームブック二次創作
今までの出来事をいっぺんに思い返すのを、走馬燈っていうんだったか。
俺は剣を持ったまま、前方へ倒れ込んだ。

召喚されかかった魔王は、俺の降した雷により、異界へ戻っていった。
室内の瘴気が、満ちあふれていた魔力と共に、急速に薄れていく。
戦いの時間は終わる。
即ち、俺たち二人に起こった奇跡の時間も終わる。

俺は最後の一滴まで、自分の精魂を吐き出していた。今度こそ動けない。
床に当たる小石か何かが、ざらざらとして痛かった。
妙だな。そんな物、分厚い毛並みで、気になるはずがないのに。

俺は自分を見た。どうも、元の体に戻っているようだ。
ザラダンが滅びれば、解ける術だったという事なのか。
まあ、別にどうでもいい事だが。
それより、一応服着といて良かったな。先見の明ってやつか。
おかげで、これなら俺も人間扱いしてもらえる。めでたしめでたし。

我ながら、馬鹿馬鹿しい事ばかり頭に浮かぶ。
そうでもしないと起きていられない。本当に眠い。
なのに、誰かが俺を揺すって、声をかけている。
何だ、キャリイか。もう少しだけでいいから、静かにしてくれよ。

そうだ。お前は俺にずっと付いて来てくれたのに。お礼を言ってない。
言わなくちゃいけない。もう言えないかもしれないから。
なあ、何でそんな顔してるんだよ。
俺みたいな馬鹿な男のために、お前みたいな美人が泣くなよ。
俺はお前を泣かしたくなんかない。本当は、俺が、お前に



















(※筆者注 まだ続きます)

『尚も生きる。手を取りて』第60話「半生の回想」

2020-02-02 | ゲームブック二次創作
そもそもの始まりは、俺が冒険者として半端者だった事だ。
理由なく暴走する魔力に振り回される挙げ句に、モンスター、
つまり「化物」と呼ばれる始末だった。

人生を変えたきっかけは、異国から渡ってきた「黒曜の剣」を得た事だった。
時に剣として、時に杖として使える特殊武器は、俺の立場を変えた。
俺の魔力は、強大な敵を撃ち倒す最大の強みになった。
呼び名のモンスターも、「強者」の意味合いで使われる事が増えた。
ただ、魔法使いとしても戦うようになった後は、無闇に声を
出さないように注意した。
寝起きで無意識に呪文を唱え、森を焼き尽くしそうになってからは特に。

それなりに名の知られるようになった頃、世界の偉い奴、
神だか上位者だかいう連中に、ザラダン・マーの討伐を依頼され、
空飛ぶ方舟ことガレーキープを託された。
集まってくれた仲間たちにも押され、俺は奴の拠点へ攻め込み、
奴を船内に拘束した。

誤算だったのは、奴が精神操作の術の使い手でもあった事。
俺たちは、ことごとく奴に屈服し、マランハによって、
知性ある者としての尊厳を奪われた。
俺自身も獣に変えられ、間抜けにも奴に“飼育”されたというわけだ。

ああ、つくづく傑作だ。
俺はよく周りから、「人を食った奴」と言われたもんだ。
まさか自分が、その言葉通りの存在になるとは思わなかった。

『尚も生きる。手を取りて』第59話「勇者に倣って」

2020-01-29 | ゲームブック二次創作
キャリイが腕を振ると、散らばっていた門と槌のカケラが、
つむじ風によって集まり、融け合って形を変えた。

現れたのは、闇のように深い黒色の大剣。
俺は導かれるように、その柄を持った。同時に思い出した。
俺は知ってる。これは、俺の親しんだ得物に限りなく近い。

両手で持ち上げようとすると、重かった。
日頃は易々と扱っていた武器だが、ふらつく足では、立てもしない。
難儀しかけた俺の腕に、キャリイのそれが添えられた。
二人がかりで、どうにかこうにか立ち上がった。

「わたしに出来る事は、これくらいしかありません。
この体のおかげで、あなたを支えてあげられます」
「馬鹿言うな。お前はいつだって支えてた」
「どういう意味ですか?」

問われたが、聞こえなかったふりをした。
心強い聖女様と話したいのは山々だが、今は集中しなければ。
剣の切っ先を、魔王の顔へ掲げ、位置を合わせた。
これが本来の使い方。剣としても使えるが、本質は杖(ロッド)だ。
力を持つ古代語を、正しく紡ぐために、深く息を吸った。

さよならだ。“おやじ”。
声に出さずにそう言ってから。
かつての伝説に謳われた雷撃呪文を、はなむけに撃った。

「ZAP――!」

『尚も生きる。手を取りて』第58話「奇跡の聖女」

2020-01-25 | ゲームブック二次創作
「落ち着いて下さい。ナオ」
「!?」

霞む視界の中、聞き慣れた声へ目を凝らした。
とびきり輝く美女が、そこにいた。
赤い髪と白衣(びゃくえ)を揺らし、俺のそばに控えている。
彼女が声を出している事から、俺も同じように口を動かした。

「キャリイ? 何で、お前」
「先程の『エルフの粉』の影響でしょう。
 それに今のここは、信じられないほどの魔力に満ちています。
 予想しがたい事が起こっても不思議ではありません」
「その顔。あの時の、サリイに似てるな」
「そうですね。髪型だけは、あなたの好みに合わせ、短くしましたが。
 ……どう? 冷静になれましたか?」
「ああ。何とか」

呼吸を整える。部屋の天井付近では、魔王が刻々と実体化を図っている。
これも伝承歌の展開と同じだ。
完成する前に潰さなければ、この世が終わる。
たとえ話でなく、自動的にだ。

「ナオ。あなたの心に触れてきたわたしには分かります。
あなたの使うべき武器を今、喚び出します。
それを見れば、きっと思い出せるはずです」

『尚も生きる。手を取りて』第57話「伝承歌(サーガ)の再現」

2020-01-22 | ゲームブック二次創作
ザラダンは消えなかった。
正確に言えば、ザラダン「だった」魔法使いは確かに消滅した。

その代わり、「銀の門」があった場所から湧き出た黒い煙が
ザラダンを覆って混ざり合い、一つの形を取り始めた。
雄牛のように見えるその顔は、冥府の魔王。
魔法使いと戦士が戦う伝承歌で知っている、そのままの姿だった。

考えれば、自明の話だった。
異界に潜むというなら、その地に住まう者と契約する必要がある。
「銀の門」が壊れた時、この魔王が召喚される仕組みだったのだ。

たちまち一帯は、甚大な瘴気に包み込まれた。
猛烈な悪臭に吐き気がした。
全身に痛みが走り、立てない。目も開けていられなくなった。
まるで、体中を内側から、無数の太い杭で貫かれているようだった。

これも当然。今の俺の身体は魔術で創られている以上、影響を受ける。
言わば、魔力が体内で暴走している状態だ。
何らかの方法で鎮めなければ命も危ない。

……待て。なぜ俺は、そんな事を知っている?
さっきのザラダンの呪文もそうだ。
あれがどんな術なのかを詳しく承知していた理由は?

思い出せ。恐らく俺は、一番大事な事を忘れている。
未だ喋るのを拒む自分、莫大な魔力、呪文の知識。

駄目だ、バラバラな言葉がつながらない。
意識を保ち続ける事自体が、もう限界だった。

『尚も生きる。手を取りて』第56話「最後の葛藤」

2020-01-18 | ゲームブック二次創作
俺は鏡へ、「光の槌」を振りかぶった。
知ったザラダンは驚いた顔をしてから、したたかに笑った。

「何と愚かな。それで私を倒すつもりか。
だが考えてみたまえ。私を殺せば、お前は一生そのままだ。
そんな化物として暮らすつもりか。
お前は同族である人間に、狩られる事になるだろうよ」

正直に言えば、手が止まりそうになった。
世間に敵と見なされ、社会生活の出来ない身として追われる恐怖。
自分で言うのも何だが、確かにこんなナリの奴が、
生きていくのは辛かろう。

だが、こうも思った。
そもそもマランハの力は解けるものなのか。
今更ザラダンを信じて何になるのか。

今になってまた、思い出が鮮やかに蘇る。
奴に育てられたという、偽りの記憶。
真相は全く逆だ。俺は奴のせいで、瀕死にまで追い込まれたのだから。
けれど、頭を撫でてくれたあの掌は、本当に温かくて。
まるで、本当の、実の親のようで。

俺は歯を噛みしめて、「光の槌」を「銀の門」へ叩きつけた。
鏡も槌も同じように、粉々のカケラとなって舞い散った。
部屋を揺るがすほどの轟音と、時を同じくして、
断末魔のようなザラダンの絶叫が響きわたった。
何もかも終わった。舞台の幕は下りた。



第二幕が始まった。