好事家の世迷言。

調べたがり屋の生存報告。シティーハンターとADV全般の話題が主。※只今、家族の介護問題が発生中です。あしからず。

星新一ショートショート再読。(その47)

2024-03-31 | 星新一ショートショート
『白い記憶』
新潮文庫、番号47、『ボッコちゃん』収録。

他作家のアイディア殺しとして定評のある星氏。
SFやホラーなどは基本として、今回の話では、まさかのラブコメが披露される。

この話はある程度ネタバレしないと語れないから、途中まであらすじを明かす。

舞台は病院。
共に記憶喪失状態で運び込まれた男女は、会ってすぐに意気投合し、一気にラブラブ。
それもそのはず、実は二人、とうに結婚していた、という流れ。

この後は当然、二人とも記憶を取り戻す展開に入り……そこから先のオチは伏せよう。

さあ皆さん、想像してみてください。
あなた好みのカップルやコンビ、恋人や親友たちが、どっちも記憶喪失して初対面に戻ったら何が起こるだろうと。
このアイディアだけで、人によっては無限にエピソード創れるだろう。
一次創作でも二次創作でも何でも良しだ。

そんなオイシイ状況を、こんなにもアッサリと料理してしまうのが、星新一ショートショートの素晴らしくも恐ろしい点である。

それでは。また次回。

星新一ショートショート再読。(その46)

2024-03-13 | 星新一ショートショート
『よごれた本』
新潮文庫、番号46、『ボッコちゃん』収録。

「人外召喚」の内、「悪魔」モチーフのパターン。
星作品では非常に多い印象。
人と悪魔と、互いに言葉尻を取り合う屁理屈合戦ぶりが、星作品の気質に合うのだろう。

今回登場する悪魔は、他のショートショートと比べ、相当に強かだ。
例えば最初に紹介した『悪魔』の悪魔は最終的に人間をゲットしているが、それは人間が欲に飽かせた結果論。
それが本作では、人間の望みなんざ何も叶えるつもりがない。
最初から食らう気まんまんである。

そんな悪魔も、後の話では逆にしてやられる率が上がっていったはず。
読み返すのが楽しみだ。

ところで、こういう話で、本の指示に従って、まず日常では手に入らないだろう風変わりな素材を一通り集める下りが毎度さらっと出てくるが、皆さん一体どんなツテで手に入れてるんだろうか。
これも或る種の才能では?

それでは。また次回。

星新一ショートショート再読。(その45)

2024-02-28 | 星新一ショートショート
『盗んだ書類』
新潮文庫、番号45、『ボッコちゃん』収録。

「博士のアヤシイ発明品シリーズ」と名づけたい。
もう少し記事数が増えたら、こういうシリーズ名を各種揃えたい。

さて、そんな今回の話に出てくる発明品は、薬と呼ばれているものの、実際のところは料理の品のような印象を受ける。
出来上がって即座に博士自ら飲んでるし、データを盗んだ不心得者も、紙幅の都合かもしれないが簡単に完成させている。

そんな今回の“薬”の正体。
初読時の子供心では、心暖かくなるイイ話に感じたが、改めて読み返して、異なる考えが浮かんできた

そも「良心」とは何だろう。
皆、正直で公平で平穏で、それは一見心地よい。
だが、相手を傷つけまいと敢えて口をつぐむ勇気や、より誇れる自分を目指す向上心や、進む道を阻まれても乗り越える気概などの感情は、果たして善か、悪か。悩む。

ところで今回の話に出てきたのは「エフ博士」。
この名前の出現率もなかなか高い。
エヌ氏同様、何作登場しているかカウントしてみるのも一興かもしれない。

それでは。また次回。

星新一ショートショート再読。(その44)

2024-02-11 | 星新一ショートショート
『欲望の城』
新潮文庫、番号44、『ボッコちゃん』収録。

多彩な星作品において、本作は純粋にホラー系。
『世にも奇妙な物語』で映像化か、あるいはいっそ『笑ゥせぇるすまん』のコミカライズで見てみたい。

本作が発表されたのは、大量生産&大量消費の時代だが、現代でも十分通じる内容だと思う。
「今の世の中、老いも若きも男も女も、断捨離やらミニマリストやら言っていますが……」なんてナレーションで始まればカンペキ。

無意識で欲しいと感じた物が、自動的に配置される夢世界。
何でも手に入ると喜ぶと束の間、最終的に、最も重要なモノが失われてしまう。
ネタバレ防いだ表現なら、当人の安全が。

もしかしたら本作のタイトル、本当は「城」でなく「檻(おり)」かもしれない。

ところで星新一氏本人が、この夢世界を得たらどうなってただろう。
氏も大量に資料蓄えてたはずだから、バットエンドの可能性は高い。
私も、書籍なら無限に欲しくなるだろうから、怖いね。

それでは。また次回。

星新一ショートショート再読。(その43)

2024-01-21 | 星新一ショートショート
『おみやげ』
新潮文庫、番号43、『ボッコちゃん』収録。

私の世代では、本作『おみやげ』と『繁栄の花』がある意味、双璧となる。
小学校の国語の授業で必ず取り上げられている作品だったからだ。
特に『おみやげ』は、「宇宙人」という設定さえ飲み込めれば、とりわけ語彙も平易で分かりやすく、それに当然、全部読んでも非常に短い。
新調文庫版で4ページしかない。
読書に慣れていない人でも取っつきやすい、星作品初心者向けと言えるだろう。

けれど。
それとも、だから、と、つなぐべきか。
ラストで示される顛末はあまりにも呆気なく素っ気なく、徹底的に救いがない。
この作品の地球人たちは、致命的な失敗をした。
あるいは、この世界の私たち地球人も、とっくの昔に同様の愚行を犯しているかもしれない。

壊してしまった物は、二度と取り戻せない。
罪は滅ぼせない。
そして、壊してしまった事自体を知らずにいるのは、いっそう罪深いと言えるかもしれない。
無闇に壊すのは、ダメ、ゼッタイ。

それでは。また次回。

星新一ショートショート再読。(その42)

2024-01-12 | 星新一ショートショート
『特許の品』
新潮文庫、番号42、『ボッコちゃん』収録。

星作品の十八番。
宇宙人との接触。物パターン。

誰が考えた何かサッパリ分からんが、まあいいや読める設計図だから、とにかく作っちゃえ!という展開の早さには、笑えるやら恐ろしいやら。
テンポが良いのは喜ばしいが、軽率極まりない振る舞いとも言えるわけで。
話の都合で仕方ないという意見は野暮です。

で、結局この装置については、薬物のような物質依存こそないものの、「味をしめたら二度と離したがらず、熱中のあげく、ほかのことを考えられなくなる(←作中より引用)」という、行為依存の副作用があったという事情が暴かれる。

つまりコレ、現代で言うところのソシャゲガチャみたいなものだったわけだ。
って、じゃあそうか、実はソシャゲって、宇宙人の作った最強兵器だったのか。すげえ。……なんて。

なお、余談ながら、あらゆる娯楽を超えた快楽をもたらす装置の話は、同氏の或る有名な作品にも登場している。
その話を紹介できる時が楽しみだ。

それでは。また次回。

星新一ショートショート再読。(その41)

2023-12-27 | 星新一ショートショート
『愛用の時計』
新潮文庫、番号41、『ボッコちゃん』収録。

人は、往々にしてそれは男性は、日常生活に関わっている私物、無機物に強い思い入れを持つ事が多い。
それは車だったり、バイクだったり、カメラだったり、そして腕時計だったり。

スマホが普及した今、腕時計の存在意義は薄れたかもしれないが、少なくとも昔は、腕時計といえばステータスの象徴の一つだった。
自然、毎日一番大切にする存在となる。
まして、自分で毎回ネジを巻き上げて動かすようなタイプだったら尚更である。

この話の主人公も当然の流れで、自分の腕時計に愛情を注ぐ。
今で言う、ゲームなどでの無機物の擬人化、ひいては「推し」への「萌え」のさきがけでもあろう。
今時の作品だったら間違いなく、美少女キャラ化されたバージョンの絵が付く。時計の。

そしてある日、主人公の愛する美少女、もとい腕時計もまた、主人公へ掛け値無しの愛情で報いてみせる。
アナログ時計ならではの、シンプルにしてスマートなオチへの流れは、個人的にとても好み。
私が昔お気に入りだった腕時計も、何度調整しても針が進みがちになるきらいがあった。
おかげで待ち合わせに遅刻しないで済んだ事がしばしばあったっけ。

ところでデジタルのスマホだと、果たしてこういう展開作れるだろうか。
時刻の数字だけに不具合の出るバグって起こり得るのかな。
分どころか秒以下の単位で制御されてる今の機械だと厳しそう。
文字表示機能がおかしくなればチャンスあるか?

それでは。また次回。

星新一ショートショート再読。(その40)

2023-11-15 | 星新一ショートショート

『程度の問題』
新潮文庫、番号40、『ボッコちゃん』収録。

分かりにくいたとえになってしまうが、『かまいたちの夜2』の「わらび唄」と話の流れが似ている。少なくとも表面上は。
あちらの話では、主人公は何度も何度も殺人事件の惨劇を体験したループ記憶に振り回された結果、旅程の当初から警戒心マックスで挑むが、その時の旅に限って何も起こらず、主人公は空回りしまくってしまう、という流れになる。

翻って、この『程度の問題』の主人公は、一般人でなくスパイであり、確かに周りに対して警戒心マックスで挑むべき立場ではある。
しかし、それで空回りするのは、一般人だから許せるわけで。
曲がりなりにもスパイである以上、そもそも目立ちまくっちゃいけないのである。

このスパイのあらゆる行動は、あつものに懲りて膾を吹く、というより凍らせる勢い。
石橋を叩いて渡らない、どころか、木っ端みじんに爆破しかねない。
これじゃ埒が開かないと、別のスパイが派遣されるが、そいつもそいつで、またどうしようもない。
スパイじゃない一般人でも早晩、シャレにならない事態になるだろう。
現代人なら間違いなく詐欺に遭う。

ところで、危険な相手と飲み交わす時、相手の飲み物とすり替えて飲むって場面、フィクションで結構見るが、私としてはあまり有効とも思えない。
すり替えるのを、敵が初めから計算に入れてたら無意味だ。
まず、自分の飲み物から目を離すのが良くないし、それに、相手から出された飲み物にはやっぱり警戒した方が……いやいや……ぐるぐる……。

まあ、詰まるところ、何事も程々が一番って話です。

それでは。また次回。


星新一ショートショート再読。(その39)

2023-11-07 | 星新一ショートショート

『意気投合』
新潮文庫、番号39、『ボッコちゃん』収録。

そうはならんやろ!なっとるやろがい!
……読み終わった時、そういうツッコミ入れたくなった。

星新一ショートショートの十八番、異星人とのファーストコンタクト。
私たちの所に彼らが来る場合と、私たちが彼らの所に行く場合とがあるが、本作は後者。
てっきり御しやすい与しやすい相手だと油断してたら、エライ目に遭うパターン。

ただ、冒頭にも掲げたように、勢いで読み終わった後に改めて読み返すと、細かいツッコミ所が浮かんでくる。

何で本作の地球人たちは、宇宙船から全員いっぺんに降りちゃったのか。
最初の内は、不測の事態に備えて警備の人が残るんじゃないのか。
月着陸の時だって、一人は船内に待機してたんだが。(まあ着陸できなかったからなんだが)

着いた先の異星人も謎が多い。
地球人たちを「神の御使い」と思ったなら尚更、「ではコレを使わせていただきます」的な儀式とか何とかやらなくて良いのか。
くれた物はゼンブ問答無用で消費していいと思ってるくらい警戒心が薄いのか。

それに、そもそも金属が非常に少ない環境なのに文明が進んでる(ように見える)というムジュン。
複雑な機械には、強度のある金属が確実に必要じゃなかろうか。
という事はもしかしたら、金属に匹敵する性能を持つ別の物質があったりしないか。
そうすれば地球人たち、無事に帰れるハッピーエンドもあり得るか。

更に言うなら、星作品だからこの程度の、比較的穏やかな?オチで済んでるのかもしれない。万が一、「地球人たちそのもの」を天からの授かり物だと思ったら、そしたら惨劇一直線。
何が恐ろしいって、もしそういう展開だったとしても、本作の地球人たちの調査では「感情+」(=好意を持ってる)という判定になるだろうって事。
この通り、価値観は立場によって変わる、という教訓が、今回のお話である。

それでは。また次回。


星新一ショートショート再読。(その38)

2023-10-15 | 星新一ショートショート

『診断』
新潮文庫、番号38、『ボッコちゃん』収録。

今回はネタバレして感想を書く。

星作品では、精神疾患をテーマ、というより話のネタに使った作品がしばしば見受けられる。
今まで紹介した『暑さ』もその一つだが、本作はそれと対照を成す内容である。

『暑さ』では、当人は異常性を訴えているが、周囲がそれを認めない。
対して『診断』では、当人が異常性への病識を全く持てておらず、周囲の説得を受け入れない。

……という構造を理解できるのは、本作を読み終えて全体を俯瞰できるようになった後。
初読時、本作の主人公は寧ろ聡明な印象に見え、故に、こちら読者は大いにミスリーディングに振り回されて騙される。そう読むように作られている。

ただし、本作の主人公が、収容されている“患者”である事は事実。
そんな主人公は、本作のラストでこそ取り押さえられ拘束され、ひとまずは事なきを得るが、いずれまた病院側の警戒をくぐり抜けるのは時間の問題と思われる。
自傷されるのも困るが、他害の刃傷沙汰が起こる危険性の方が遥に高いだろう。

さて問題。それでいざ刑事事件が発生した時、“患者”の主人公の顛末や如何に。
抱える妄想によって罪を免れるのか、それとも罰を受けるのか。
この「精神的問題を持つ加害者の刑事責任」という、21世紀現在でも非常にデリケートな問題を、これほど早い時代から扱っていた星作品の先見性に、改めて驚かされた私である。

それでは。また次回。