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17歳の瞳に映る世界

2022年07月02日 | 映画

新鋭エリザ・ヒットマン監督の3作目となる長編映画。望まない妊娠をした女子高生の苦悩を描いたヒューマンドラマです。

17歳の瞳に映る世界 (Never Rarely Sometimes Always)

公開時に気になりながら見逃してしまった本作が、Amazon Primeに上がっていたので見てみました。ドキュメンタリー映画のような淡々とした展開と、感情を抑えた描写がみごとで、静かに心揺さぶるすばらしい作品でした。

折しも先週の6月24日アメリカ最高裁が、女性の人工中絶を合憲とする1973年の歴史的判決を覆す判断をしたことが、女性の権利を揺るがし、時代に逆行する判決として、大きな議論となっている今、タイムリーな鑑賞となりました。

米連邦最高裁、人工中絶権の合憲性認めず 重要判決を半世紀ぶりに覆す (BBC.com)

歌うことが好きな孤独な女子高生のオータムは、体調の変化を覚えて受診し、妊娠10週目であることを告げられます。しかしオータムが住むペンシルベニア州では、未成年は両親の同意なく中絶手術を受けることができません。

オータムは唯一の親友であるスカイラーに支えられ、いっしょに長距離バスに乗って、(両親の許可なく)手術を受けられるニューヨークへと向かいます。

本作、ことばで多くを語らず、淡々とした描写を通じて見る者に想像させ、考えさせるところがとてもよかったです。エモーショナルにあおられることもなく、真摯に作品と向き合うことができました。

オータムの妊娠の相手やきっかけについても、一切語られませんが、オータムが歌う自作の歌や、家族とのやりとりを通じて、母親が再婚相手と作った家庭に自分の居場所はなく、ボーイフレンドに愛を求めては裏切られる彼女の孤独と苦悩を想像しました。

妊娠を知って、最初は自力で中絶しようとおなかをげんこつでたたいていたオータム。ニューヨークの病院で、さりげなく映し出された彼女のあざだらけのおなかに、胸がしめつけられるような痛みを覚えました。

唯一の救いは、オータムにスカイラーという親友がいたこと。明るくて、優しくて、勇気も行動力もあるスカイラーは、オータムにとって絶対的な味方となってくれる存在。帰りのバス代が足りなくなって絶対ピンチとなった時にスカイラーがとった行動に泣けました。

それにしても、オータムやスカイラーの行く先々で現れる不快な男たちを見ていると、女の子が生きていくことは、かくもたいへんなことなのか、と思わずにはいられませんでした。

ニューヨークの病院でのカウンセラーによる問診は、忘れられないシーンとなりました。是非多くの方に見ていただきたい作品です。

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