道の辺の壱師の花のいちしろく人皆知りぬわが恋妻は 柿本人麻呂 万葉集
巻十一 2480の壱師についての論争が古今囂しい。
最近の句会で、「「いちし」は、白い花の咲く「イタドリ(虎枝)」なので、自句に読み込んだ。」という方がおられたので、全く知らなかった私は、さていかにと調べてみることにした。
矢富巌夫『万葉花 植物編』では、「「いちし[ひがんばな] イチシの歌は集中、この一首のみ。」とされているがギシギシ(羊蹄)、ダイオウ(大黄)、クサイチゴ(草苺)、エゴノキなど諸説がありますが、今ではヒガンバナの古名。」という解説があり、この中に「イタドリ(虎枝)」は入っていない。花の色は、ヒガンバナは鮮やかな赤、ギシギシは薄い赤、クサイチゴ・エゴノキ・ダイオウは白、イタドリの花も白である。これらの植物はそれぞれ薬効があり、万葉の時代には大切に使われていたと推察される。その中のヒガンバナは、現在、田畑を荒らすモグラやネズミなどを駆除する働きを有効に使われているし、墓地の供物についても同様で、秋の墓地を鮮やかに彩る供花のように見られていることもある。万葉の時代に鱗球を食用とした場合には、毒素のアルカロイド/リコリンを水にさらすなどして食べたのではないかと思われる。アク抜きのために水に晒す方法は、縄文時代の人々がすでに獲得していたことが分かっている。
ちなみに、現在の植物分類では、ヒガンバナ(ヒガンバナ科)、クサイチゴ(バラ科)、エゴノキ(エゴノキ科)、ダイオウ(タデ科)、ギシギシ(タデ科)、イタドリ(タデ科)である。
壱師の花のいちしろくを花の色と考えると「壱師」は、クサイチゴ、エゴノキ・ダイオウ、イタドリと思われるが、ヒガンバナには白花もあるので、妻を思う情熱が白花を赤く染めたと考えることもできる。なかなか奥の深い歌である。
集中、唯一の歌には、
萩の花雄花葛花なでしこの花女郎花また藤袴朝顔の花 山上憶良 万葉集
巻八 538 がある。
秋の七草に読み込まれた藤袴はこの歌のみに登場し、憶良が中国に留学中に
珍重されていた藤袴は、有毒物質のピロリジジンアルカロイドを含有している。浅葱斑は蜜を吸い体内にこのアルカロイドを蓄積し、捕食を逃れアフリカまでの長旅を成し遂げるのである。藤袴を乾燥させたものは、桐箪笥の防虫剤としても活用されている。
移動が困難な植物は、様々な工夫で子孫を増やしている。身近な植物はそれぞれ薬効を有するものが多いが、私たちの祖先は毒も含めて、使用目的によって植物たちを食用・薬用としての多彩な活用を勧めてきた。薬用植物の栽培は、製薬会社との契約でも進められている。さらに、土中の酵母などの採取も盛んに行われている。地球の営みは、複雑で夢に溢れている。
巻十一 2480の壱師についての論争が古今囂しい。
最近の句会で、「「いちし」は、白い花の咲く「イタドリ(虎枝)」なので、自句に読み込んだ。」という方がおられたので、全く知らなかった私は、さていかにと調べてみることにした。
矢富巌夫『万葉花 植物編』では、「「いちし[ひがんばな] イチシの歌は集中、この一首のみ。」とされているがギシギシ(羊蹄)、ダイオウ(大黄)、クサイチゴ(草苺)、エゴノキなど諸説がありますが、今ではヒガンバナの古名。」という解説があり、この中に「イタドリ(虎枝)」は入っていない。花の色は、ヒガンバナは鮮やかな赤、ギシギシは薄い赤、クサイチゴ・エゴノキ・ダイオウは白、イタドリの花も白である。これらの植物はそれぞれ薬効があり、万葉の時代には大切に使われていたと推察される。その中のヒガンバナは、現在、田畑を荒らすモグラやネズミなどを駆除する働きを有効に使われているし、墓地の供物についても同様で、秋の墓地を鮮やかに彩る供花のように見られていることもある。万葉の時代に鱗球を食用とした場合には、毒素のアルカロイド/リコリンを水にさらすなどして食べたのではないかと思われる。アク抜きのために水に晒す方法は、縄文時代の人々がすでに獲得していたことが分かっている。
ちなみに、現在の植物分類では、ヒガンバナ(ヒガンバナ科)、クサイチゴ(バラ科)、エゴノキ(エゴノキ科)、ダイオウ(タデ科)、ギシギシ(タデ科)、イタドリ(タデ科)である。
壱師の花のいちしろくを花の色と考えると「壱師」は、クサイチゴ、エゴノキ・ダイオウ、イタドリと思われるが、ヒガンバナには白花もあるので、妻を思う情熱が白花を赤く染めたと考えることもできる。なかなか奥の深い歌である。
集中、唯一の歌には、
萩の花雄花葛花なでしこの花女郎花また藤袴朝顔の花 山上憶良 万葉集
巻八 538 がある。
秋の七草に読み込まれた藤袴はこの歌のみに登場し、憶良が中国に留学中に
珍重されていた藤袴は、有毒物質のピロリジジンアルカロイドを含有している。浅葱斑は蜜を吸い体内にこのアルカロイドを蓄積し、捕食を逃れアフリカまでの長旅を成し遂げるのである。藤袴を乾燥させたものは、桐箪笥の防虫剤としても活用されている。
移動が困難な植物は、様々な工夫で子孫を増やしている。身近な植物はそれぞれ薬効を有するものが多いが、私たちの祖先は毒も含めて、使用目的によって植物たちを食用・薬用としての多彩な活用を勧めてきた。薬用植物の栽培は、製薬会社との契約でも進められている。さらに、土中の酵母などの採取も盛んに行われている。地球の営みは、複雑で夢に溢れている。