糖尿病で瀕死の状態であるm氏に、今の彼にとっては唯一の心の支えとも言うべき、彼の自慢の中国妻が彼を見捨てて離婚したいという・・
彼の妻は俺とおんなじ職場の同僚であり、仕事上で彼女のとも親しく話をし、彼女の気質とか性格みたいなものに触れる機会があるのだが、
決して彼女は病で苦しむ、落ちぶれ果てた旦那を見捨てるという事をするような薄情な性分の人間とは思えない
むしろ、そんな旦那m氏を愛しているという言動とか気持ちみたいなものが・・
ずいぶんと、俺が彼女と彼の話題になるたびに、そんな、夫婦愛みたいな、同じ中国人妻を持つ俺から見ても、うらやましいような彼女が彼を思い、いたわる挿話みたいなものを聞かされてきたものだった。
彼が人工透析を受けなければならない境遇になったとしても、週三回の人工透析、病院にもいつも彼と共に付き添っていき、彼の寝ているベットの隣で、彼の手を摩って、彼の健康を気遣った・・
そんな彼女の彼を思う美談みたいなものは、幾度も職場で彼女の職場で働く共通の中国人女性の同僚から聞かされきたし、普段の彼女の職場での優しい気質からして、それは俺の中で思う彼女、m氏夫婦の愛の姿として、イメージとして焼き付けられたものであった
しかし、その彼女がm氏と離婚したいという・・なぜなのか?
俺に手伝ってほしい という彼女の同じ職場で働く同僚の中国女性たちに聞いてみる
どうして離婚したいというのだろう?あれだけ仲のいい夫婦だったじゃない?彼が病気になってっても、献身的に尽くしてきたじゃないの?
いったい彼女ら夫婦はどうしたっていうの?
すると中国人女性の同僚の一人がこう言った
プヨプヨというだけで・・ナイというだけで・・彼女が言うの..おっちゃん(m氏の事)は・・
ナイ、無い、ブヨだと
その言葉聞いて、俺は彼女らに聞く
ない? 何がないの? 何がプヨなの?
離婚理由が ナイという言葉だけではよくわからないなぁ と
そのナイという言葉を俺は口ずさんで、ハッと彼女の言う言葉の意味を連想してしまった
セックスのことなのか?
糖尿病の合併症の一つに勃起不全という症状がある・・・・・
病気の影響で彼女ら夫婦の間にはセックスすることもままならないことになっているのかも知れず・・
以前、m氏が俺に言った 彼女の妻を男として完全に支配している
つまりセックスおいて中国人妻を奴隷化しているという、その状態というものが、少なからず糖尿病によるものからくる、
その男としての支配 という彼のイメージするものが支障をきたしていることだけは彼の病気から想像できた
しかし、俺はその セックスがない という俺の貧相なイメージからくる言葉を発して彼女たち同僚に尋ねる事を躊躇し、そんな自分の恥ずかしい離婚の動機の連想に罪悪感を感じながら、その言葉をかろうじて喉元に収めて、彼女ら同僚の中国人女性たちにあらためて聞いてみる
俺に手伝って欲しいということはなんだろう?もう、彼らは離婚を決めてしまったのかい?どうしても離婚しなければならないのだろうか?
mさんは確かに糖尿病で元気がないし・・今は仕事もお金もない状態なのかもしれないけれど・・
それは、やはりお互いが夫婦になって、一生添い遂げると契りを結んだ関係なのだから・・何が ナイのか理由がわからないし、その事で・・
離婚ということになってしまうことが俺には彼ら夫婦のよい頃を知っているだけに、寂しいものがあるものね なんとかならないのかな?
その俺の言葉聴いて彼女ら中国人女性の同僚たちの身体があきらかにユラユラとゆれていく・・・
一人は苦笑して俺の日本語を聞いているもの・・
一人は怒りに満ちた表情で俺の話に納得できないという感じでうつむき加減で足をタタンと跳ね上げたりしている
彼女らは何故か俺の 一生添い遂げる契りという甘い言葉に鬱屈な気持ちがうごめいているようだった・・
その甘い言葉に反論すべき日本語を彼女らのタドタドシイ日本語では上手く伝えられなくて、どうしてもそれがジレンマになって身体が動くらしかった・・・
彼女ら中国女性の日本語に訳せない腹立たしい思い・・・、
その説明できないに中国的に日本語に訳せない表現として、ただ単にこういい続けるだけだった
オッチャンはナイ プヨだ と
中国人女性同僚の一人がそのナイを連すると、彼女ら同僚らがすべて同じように、同じ言葉で オッチャンはナイ、ナイと日本語で俺に言うのだった・・
その光景を見ていると、なにか不気味な彼女ら中国人の底知れぬネットワークというのか、コミニティーというのか、日本人には理解できない共通の認識というものが横たわっているようで、なにか救いようのない彼女ら中国人との壁みたいなものを痛感さざるをえなかった
俺は日本という国にいながら、まるで別の国いているような・・そんな孤独感というもの、何か取り留めのない絶望感みたいなものが、この場やり取りとして残った 俺はそんな場の雰囲気におされて、彼女らの前では異邦人にならざるをえなくなり、沈黙せざるをえなかった
そんな俺の態度を見かねて、彼女らの中国人 女性の同僚の一人が慌しくメモ紙を取り出し、ペンで何か走り書きして、俺にすばやく渡した
俺は何か怖いものを見たかの表情で彼女を見、彼女の走り書きしたメモ紙の文字を見た 彼女は漢字でこう書いていた
造反有理 不要问我任何事
俺はその言葉の意味を理解できず、メモ紙を渡した彼女に問いただすような表情で目線だけで問うが、彼女は苦笑し晴れやか表情で、俺にこういった
今夜、私達はmさんの引っ越す荷物を持っていきます
テレビとか冷蔵庫とか重たいものばかりなので、車と男の人たちの力が必要なんです
0さんの車貸してください それと0さんも冷蔵庫とか運ぶの手伝ってください お願いとはそのことなのです
と ちょっと聞き取りにくい発音の日本語で俺に言った 俺はそれまでのやり取りの重苦しい気持ちとして開放されたように、その彼女の言葉に答えた
冷蔵庫?テレビ それはかまないけれど、それじゃもう離婚は決まってしまっているのだね
その持って行く電化製品とかも彼ら夫婦の間で彼女がもらう事とか話し合いはできているねんだね?
彼女は答えた
そうです 話はできています おっちゃんは了解しています
でも、この冷蔵庫もテレビも奥さんが買ったものです おっちゃんはお金がないので、これらのものはオッチャンは買ってません だから、この電気のものはすべて、奥さんが買ったのよ だから、それを奥さんが離婚して、もらう事は当たり前ですよ
と彼女ら同僚の中国人女性は言った
俺はとりあえず、その言葉にうなずき、彼女ら聞いた
mさんはどうしているの?今夜その電化製品をもらいに行くときに彼はいるのかな?
彼女らは言った
たぶん 会えるでしょう・・よくわからないけれど・・
俺は言った
彼は元気にしているのかな?久しぶりに彼に会えるので、ちょっとうれしい気もするけれど・・
でも、離婚して、彼ら夫婦が別れるお手伝いするために・・そんな場で久しぶりの再会というのも悲しい気がするけれどね・・
・・・・・
彼女はこの俺の言葉に直接反応しないまま、うんざりした表情で、こんな言葉で俺に問うた
でも、0さんは手伝いに来るでしょう mさんと友達だから・・
そう彼女が言うと・・俺は答えに詰まってしまった
本当の意味で日本語で言葉のやり取りができないこの状況の中で、
なんとか自分のこの夫婦の別離の状況というものを彼女らに伝えたかったものが、
その百分の一も彼女ら中国人女性たちは伝わっていない物悲しさというのが、
そんな彼女ら日本語の伝わらない中国人女性の前では一人芝居でしかすぎない言動で終始してきた自分というものが、
彼女ら中国人たちの前では、とても子供っぽく思えることに気づいて、ものすごく自分自身憤りを感じざるを得なかった
そして、mさんは友達 という彼女らの、とても関係として割り切った俺に対する表現として、言葉に俺はこういわざるをえなかった
そう たぶん 友達だと思う だから、俺も今夜、手伝いに行くよ・・
と その晩、仕事を終えて、俺は自分のバントラに乗って、m氏の夫婦の離婚の手伝いをする羽目となった
それでも、m氏とは久しぶりの再会であった それだけに俺にとっては彼と再会するのはどんな形にしろ楽しみだった
しかし、そんな気持ちは、またしても、俺の甘いセンチメタルなものにすぎなかった
まさか、あんな不幸な再会になってしまうものとは・・・その時の俺は考えてもみなかった・・
続く