江戸川教育文化センター

「教育」を中心に社会・政治・文化等の問題を研究実践するとともに、センター内外の人々と広く自由に交流するひろば

学びは関係性で決まる ⑨

2017-12-05 | 随想
グループの代表の発言を次々に板書する手の動きは速かった担任だが、発言内容を分類しながら書くことはできなかった。
ところが、側で見ている私には、子どもたちの発言は大きく二つに分けられている様に思えた。


一つが投票率低下の原因分析ともいうべきものである。
・若い人があまり選挙に行かなくなった。
・選挙に興味を持つ人が少なくなった。
・忙しくて選挙に行く暇もない。
etc

もう一方は投票率低下に対する自分の意見ともいうべきものであった。
・選挙に行く人が少なくなると、多くの意見が政治に反映されなくなる。
・できるだけたくさんの意見を出した方がいいので、もっと選挙に行ったほうが良い。
・なぜ選挙に行かない人が増えてきたのか、このままでは国民の意見が広まらない。

子どもたちに与えられた課題が「なぜ、投票率が下がってきたのか?」なのに、後者の子どもたちはその課題を突き返すかのように、「なぜ選挙に行かないのか!」と意見をぶつける。

活発に意見を言いたい子どもたちは、既に投票率低下の理由などより、その結果どうなるのか…の方へ関心は移っているようだった。
一通り代表発表が終わると、友だちの意見を聞いて、それに絡めた発言をする子が何人か出てきた。
この場面がいわゆる全体での話し合いであるが、ここまで来れば担任は交通整理だけすればよい。
勝手に次々に発言をさせておけばよかったのだが、何とか課題についてまとめようとした。

かなり子どもの自由な表現を重視する教員なのだが、私との事前打ち合わせを意識したのか、一時間の授業としてのまとまりを考えたようであった。
そして、せっかく盛り上がりつつあった雰囲気を抑えて、各自にノートへまとめるよう指示した。
しかし、子どもたちにしてみれば、予想の発表をしている最中なのに、一気に問題に対する答えでもあるまとめをすることはできない。
案の定、子どもたちは鉛筆を持つ手が動かない。

このままでは、せっかくの良い授業の結末が残念な結果に終わりかねない。
しかし、そこが彼女の勘の良さ。
ノートに書かせるのをやめて、こう言った。
「時間がなくなってきたし、まとめると言っても難しい気もします。そこで、誰かに今までの話の続きでもいいからまとめ的に発表してもらいたいのですが…」

普段からの関係ができているとは良くしたもので、すぐ手が上がった。
一斉の話し合いでは吾先にと発言するタイプではない男の子が、静かな声で語った。
「こんなに投票率が下がっていって国民の意見が弱くなると、少ない意見で政治が決まるようになる。太平洋戦争の時みたいに、上の人の考えで政治が決まってしまうかもしれないので選挙に多くの人が行った方が良い。」

この子の発言こそ歴史学習をしっかりふまえたものだった。
クラスのみんなは黙って聞いていた。
担任は、ニッコリして、「ありがとう!」と言って授業は終わった。

(つづく)

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