江戸川教育文化センター

「教育」を中心に社会・政治・文化等の問題を研究実践するとともに、センター内外の人々と広く自由に交流するひろば

「3みつパトロール隊」が出現する日本の教育風土

2020-07-08 | 随想

コロナ禍の一つともいうべき現象がまた一つ加わった。
小学校の子どもたちが昼休みに「3密パトロール」を行っているというNEWSだ。

北國新聞7/5配信記事によると、次のように伝えている。

「新型コロナウイルスの脅威から児童を守ろうと、〇〇〇小の児童自ら『3みつパトロール隊』を結成した。授業中の換気やマスク着用を徹底しているものの、休み時間は『3密』で談笑する児童の姿もしばしば。昼休みを重点的に4~6年の39人が2人一組で歩いて目を光らせており、教職員からも「効果は上々」と評判だ。(中略)気が緩んで『3密』になっている児童はいないか。見つけるとすぐに『密です。離れましょう』と警告。元気な声が響くと、注意された児童ははっとした表情を見せた。(中略)教員がコロナ対策について話し合った際、児童自らパトロールを行えば、学校全体の感染防止の意識が高まると考えた。活動を始めた当初は、遊具の順番を待つ児童の距離は『密』だったが、パトロール効果もあって、今では自然と距離を置くようになった。(中略)校長は『教員が注意するよりも効果があるように感じている。今後もできる限りの活動を行いたい』と話した。」

新聞記事によると児童自ら結成したかの様な書き出しだが、教員がコロナ対策で話し合った際に考えられたということから、やはりこのパトロール隊は教員たちによる「やらせ活動」に他ならない。

少し前には「自粛警察」が話題になったが、今度は学校内における「3密警察」の登場だ。
それも子どもたちがやっている(やらされている)というのだから一層質が悪い。

校長が語るように、「教員が注意するより効果がある」かもしれない。
戦時中の「隣組」が果たした役割を想起すれば容易に分かることだが、当局等の権力が直接手を下す手間が省け、普段からの顔見知りに注意されると嫌とは言えない空気が漂うものだ。

したがって、このパトロール隊の存在は結果的に子どもの間に密告体制のようなものを作り上げる可能性が大である。
なんと恐ろしいことか・・・。

こうしたことを得意気に語る校長はもちろんだが、それを許している教員たちの感覚は完全に麻痺している。
人権をどのように考えているのだろうか、教育をどう考えているのだろうか・・・?

いや、もしかしたら彼らは特段間違ったことをしている意識はないのかもしれない。
日常的にこうした方法を、授業を始めとした子どもとの関わりの中に採り入れているのだろう。
そして、それによって成し遂げられた結果を「教育の成果」として誇らしげに語っているのかもしれない。

このように教育された子どもたちは、将来どうなっていくのだろうか?
反面教育となって育ってくれれば有難いが、一時的にせよ誤った在り方を体得させられるのは重大な問題だ。

友だちと楽しく喋っていた所に「パトロール隊」がやって来て、「密です。離れましょう」という場面は、全く中身は異なるもののミヒャエル・エンデの『モモ』の中に出てくる「灰色の男たち」の存在が目に浮かぶ。

「時間泥棒」の彼らは世界中の「時間」を独占しようと、巧みに人々の「時間」を倹約をさせることで人間から「時間」を奪っていく。
その結果、町中の人々はとりとめのないお喋りや、ゆとりある生活を次第に失っていくというストーリーだ。

昼休みに現れる「パトロール隊」が、次第に全校の子どもたちから何かを奪っていくことにならなければ良いのだが・・・。

もし、この学校で普段から学ぶ主体である子ども中心の教育をしているならば(もっとも、そうであればこんな事態にはなっていないが)、何人かの子どもたちは「やめてよ!そんなことするの!」と反対の意思表示をするだろう。

本来ならば、そうした子どもたちが育つことをねらった教育が必要なのじゃないのか。
おかしなこと、理不尽なこと、納得できないことには自由に反対の意思を表明できる子どもこそ自ら学ぶ子どもの姿ではないだろうか・・・。

残念ながらこの学校は、それとは真逆な子どもを育成しているように思える。
いや、この学校だけではないかもしれない。
日本における学校教育の在り方が、基本的にはこの学校と似たようなものを備えている気がしてならない。
もしかしたら、日本の学校における「教育」の本質が究極的に表現されたのかもしれない。

そう考えると、学校においては何を「教える」のか、どこまで「やらせる」のかを、「教育」を許容できる範囲として予め設定としておく必要がある。
そうしないと、「教育の自由」の概念が崩壊し、限りなく強制的教育体制が蔓延することになる。

「コロナ」で見えた日本の教育風土を今、根本から見つめなおしていくべきだと思う。


<すばる>

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