江戸川教育文化センター

「教育」を中心に社会・政治・文化等の問題を研究実践するとともに、センター内外の人々と広く自由に交流するひろば

大人も子どもも民主主義を学ぼう!(4)―「正解主義」を超えた教育実践 ―

2024-07-24 | 随想
2015年に公職選挙法が改正されて「18歳選挙権」が成立しました。
当然ながら、これに伴い高校生の政治活動を抑制していた「1969年通知」が廃止となりました。
これが「2015年通知」というものです。

そして、いよいよ10代の若者が主権者として登場するわけですが、これが容易に投票率が上がらず政府も困惑する中、
2018年に文科省が「主権者教育推進会議」を設置して議論を進めてきました。
2021年、「今後の主権者教育の推進に向けて」という最終答申を出しました。

この内容は、イギリスのシティズンシップ教育や先に紹介したドイツの政治教育を参考にして一部取り入れた内容になっています。
即ち、授業で具体的な政治的事象を取り扱うよう促しており、「正解主義」ではなく「学びの主体」である子ども自身の力量を高める授業改善が求められました。

これは、授業内容を論争的なものに変えていく必要性を訴えているものと理解できます。
そのために「政治的中立性」を改めて周知すべきだとしています。

しかし、実際に授業を行う際には「現実の具体的な政治的事象を取り扱うにに当たり、配慮のなされた教材」が必要とされ、
学校や教育委員会が第三者的立場にあるNPOやシンクタンク等の外部団体と連携して「適切な教材」活用が求められています。

要するに教員が自ら教材を求め、目の前の児童や生徒としっかり向き合って、自分なりに工夫して授業を展開していくことは軽視されがちです。
これでは、従来の上からの「お膳立て押し付け型授業」の域を一歩もでることはできません。

いや、それ以前の問題として、2015年通知が「指導に当たっては、教員は個人的な主義主張を述べることは避け、
公正かつ中立な立場で生徒を指導すること」とされており、これが教員を委縮させる原因にもなっている可能性もあります。
さらに日本の場合は、教員の政治教育を理解できない保守系の議員たちが問題視して、議会で取り上げ、
それを受けて教育委員会が現場に聞き取り調査等をすることもありました。

こうしたことから、現場での授業は投票箱を選管から借りてきて模擬投票する程度で終わる可能性もあります。
現実の政治に参加するとは選挙による投票行為だけではありません。
街頭デモや集会に参加することも政治参加の一つのはずです。

そして、大切なのは自分が置かれている社会を見つめること、行動することです。
生徒にとっては、自分たちの最も身近な社会とは学校です。
例えば、学校の校則や授業の在り方に意見を具申して、より良いものに変えていくのも立派な政治参加と言えます。
民主主義とは足もとの問題をしっかり見つめることから始まると言っても過言ではありません。

教員にしても、ドイツと同じように生徒から「先生はどう考えますか?」と問われたら「私の意見は言えません」では済ませられないでしょう。
それこそ「正解主義」を超えた授業ならば、教員の意見は一つの意見に過ぎず、生徒たちが議論しながらそれぞれの意見を持つようになるはずです。

教員は特定な主義主張へ生徒を誘導するような授業は行ってはならないし、仮にそんな授業なら生徒自身が離れていくことでしょう。

それにしても、「主権者教育」などと言われる以前の授業は、生徒を誘導するような授業が当たり前に行われていたのが現場の実態です。
いや、もしかしたら今でも他の様々な教科において、押しつけ型の授業を百年一日のごとく行われているかもしれません。
その意味では、「主権者教育」や「政治教育」なるものが意識され始めた今、この国の教育を根本から変えていく良い機会になるのではないでしょうか。


(つづく)



<すばる>


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