スケッチブック

写真と文章で、日常を記録に残す

ショートショート 4

2005-09-04 10:27:36 | Short shorts
ビルという青年
原作:Rebecca Manley Pippert
翻訳:polo181


人は彼をビルと呼んだ。彼の髪の毛はボサボサで穴だらけのTシャツを着てジーンズを履いて、いつも素足だった。これは大学生活4年間を通しての文字通り彼の”制服”だった。彼はきわめて頭脳明晰で、ある種神秘的な顔つきをしていて人懐こい性格だった。彼は大学在学中にクリスチャンになった。大学のキャンパスを隔てた向こうに、それはそれは威厳のある立派な教会が建っていました。

ある日彼はそこへ行くことにしました。彼はいつも通り素足で髪はボサボサ、ボロボロのTシャツにジーンズ姿だった。教会の礼拝は既に始まっていたので、ビルは座る席を探して通路を静かに歩いて下りて行きました。教会は完全に満席で座る場所を見つけることが出来ませんでした。すでに、信者たちはかなり当惑気味でいくぶん神経がぴりぴりしているのが感じられました。

それでも、ビルは席を求めてジリジリと司祭の演壇まで近付いて行きました。そして、座る席が無いことを知った彼は、演壇の直ぐ下のカーペットの上に座りました。(大学では明らかに許される行為であったが、信じてください、このようなことはここ教会では決してなかったことです:これも著者の言葉です)この時既に人々の神経はピリピリと張りつめていて、教会内のテンションは高まっていた。

この時、司祭は最後列にいた副司祭が立ち上がってゆっくりビルの方へ歩いてくるのに気が付きました。副司祭はもう80歳を超えていたが威儀正しく、白髪で杖をつき三揃えの胸ポケットには懐中時計の鎖がキラキラ光って見えました。そこに居る人々は皆、この威厳のある老人が杖をつき一歩一歩ゆっくりとビルに近付くのを見て心の中ではこう呟いていました。「誰も彼を責めることはできないわ。たかだか大学生でしょう、子供じゃない、床に座ってもいいじゃなの」と。

老人の歩みが遅いので彼がビルのところに近付くのにかなり時間がかかりました。教会の中は咳払い一つなく、彼の杖の音以外は静寂のただ中でした。すべての人の目がこの老人の上に集まりました。そして、みんなはそれぞれの呼吸の音さえ聞こえないほど何が起きるのか凝視しました。副司祭がなすべきことを終えるまで、司祭は何も語れない状況でした。

ビルに近付いたこの老人は彼の杖を床にそっと落としました。そして、ビルを独りぼっちの状態にしないために直ぐ隣りに、ビルと同じ様な格好で膝を抱えて床の上に座りました。みんなはこの意外な行動に胸を突き上げらてどよめきが起こりました。そして、そのどよめきが治まるのを待って、司祭はこう述べました。「あなた方は私がこれまで述べてきた説教は全部忘れるだろうが、たった今見た行いは決して忘れないことでしょう」と。

最新の画像もっと見る

14 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
どんでん返しの感動 (あまもり)
2005-09-04 11:44:02
人は常識と礼儀にこだわりすぎると心を見る目を失ってしまいがちになりますよね。

感動しました。ビルと副司祭に大拍手。



ボサボサの髪、ボロボロのジーンズ、そこに度のきついメガネをかければビル・ゲイツですね。

彼の学生時代を実際には見たことはないですけど(笑)
返信する
Unknown (かと)
2005-09-04 11:48:25
主はあなたとともにあります。



ビルという青年が餓えと疲れと汚れでみすぼらしい様子だったら話はドラマチックになったと思います。

今の若者にとってTシャツと破れたジーンズは誇れるファッション。

座る場所がなければ私でも床に座るかも知れない。

話の意図するところが判りません。

poloさんの訳が悪いと言っているのではないことは判って下さいね。





サルスベリの並木

みごとですね。

昔は立派なお庭にしかなかった木。

この頃は街路樹にしているところが結構あります。

京都も白や薄いピンク、紫の花が取り混ぜて並んでいるところがあって花の色のグラデーションがきれいです。
返信する
あまもりさん、こんにちは (polo181)
2005-09-04 12:58:49
コメントを有難う。分かっていただきましたか。原文がかなり難解で翻訳にとても手こずりました。ビルと聴衆と副司祭と司祭。みな善意の人たちですね。中でも副司祭の行動はあっけに取られるほど見事で、並み居る人々に感動を与えたものと思います。読んでいてこみ上げるものがある程の小品だと思いました。ビルゲイツ君の学生時代はどうだったのでしょう。やはりただ者ではなかったはずです。笑
返信する
かとさん、こんにちは (polo181)
2005-09-04 13:08:15
コメントを有難う。まずこの小品の時代背景ですが、小さな話3でお分かり戴いたように今日のものではありません。昭和一桁の時代と思ってください。さらに、日曜日の礼拝ではみんな身なりを整えて出席するのが常識でした。今でこそ、ボロボロのジーンズをはくのがファッションでしょうが、当時は全く違います。そのことを踏まえ上でもう一度読み直してください。それでも、この物語の意図するところが分からないので有れば、それは翻訳者の私が翻訳に失敗していることになるかもしれません。
返信する
その後のバークレー (polo181)
2005-09-04 15:25:16
みなさん、こんにちは。彼はとても元気で、余命半年なんて信じられないほどです。第一に食欲が凄い。いつものドッグフード小袋4個をペロリと食べて、まだまだくれよと吠えます。娘が留守の間にこっそり行っては、干し肉や竹輪、それにリンゴなどを与えています。うんちもオシッコも正常です。ご安心下さい。まだ暑いので長距離の散歩は無理ですが、もうすこし涼しくなったら、考えます。
返信する
私の感想は (熊子)
2005-09-04 15:32:50
身なりは貧しいけれど、ビルのかもし出す雰囲気にキリストを感じました。司祭の真ん前に座り込み、膝を抱えるなんて、普通の子にはできない。副司祭は、ゆっくり歩きながらこのビルの様子を観察し、並大抵の子供ではないと感じたはず。だから、非礼に当たるであろう振る舞いにも寛大になり、そして童心を抱き、一緒に座り込んだ。もしかして副司祭は自分の子供時代を思い出したかも。いつも礼儀正しく、窮屈な礼拝に本心はうんざりして時を過ごしたかもしれないね。宗教は自由思想と証明したかも。礼節は大事なことだけれど、棒立ちになっているわけではなく、ちゃんと座り、足さえも投げ出さずに抱える。これも一つの神への礼節。形だけではなく、神を信じる心。大事なことを、ここにいる全員は感じたと思いました。ごめんね、ちょっと生意気かな。いい話だなぁ~。
返信する
バークレー君へ (再度熊子)
2005-09-04 15:41:03
よかったね、パパからいっぱい美味しいものを貰って力を付けてね。緩解時期と思いますが、体力をつけるには口から食べるのが一番ですよ。バー君、熊子も嬉しいな。お天気のいい日に早く外に出れたらいいね。吠えてパパにお願いしてね。
返信する
熊子さん、こんにちは (polo181)
2005-09-04 16:13:52
コメントを有難う。ビルは司祭の説教を聞こうとして来た。非常識ではあるがみすぼらしい洋服だった。両足を抱えて司祭の方を見た。何かを学びたかったのですね。もし私が彼ならば最後列のさらに後ろの通路に目立たないようにしゃがんで、行われていた説教を聞いたことでしょう。状況が非常に複雑なので伝えきっているかどうか、不安ですが、私は副司祭の暖かい気持ちを表現したかった。「私もキミと一緒だよ」という老人の気持ちを表したかったのだけれど・・

いずれにしても、熊子さんの感想を読んで、この翻訳を続ける勇気が湧いてきました。ありがとう。

バー君は、思いの他元気です。残された期間を精一杯楽しく過ごさせてやります。
返信する
見事な並木の写真 (anikobe)
2005-09-04 17:37:16
サルスベリは、長い間楽しめますね。この並木を通る人も、美しさに和まされていることでしょう。



黒ラブちゃん、元気回復良かったですね。

人の場合でも、病気と命は別と言いますから、期限付きの余命なんて考えないことにして、状況に合わせて、poloさんのいいお友達でありますように。

小話については、皆さんお書きになりますので、省かせてくださいね。
返信する
polo181さん今晩は (じゃこしかです)
2005-09-04 18:37:51
 生意気なことで申し訳ありませんが、このブログこそがpoloさんに相応しいブログだと思いました。

 専門家で無いのですから、翻訳の上手下手は関係ありません。ブログの内容で今でも迷っております。poloさんは本当に良いもの手にされたと思います。今後が楽しみです。期待しております。
返信する

コメントを投稿