青年は悲しみに打ちひしがれて、両手で頭を抱えて正座をしている。ブロンズ像のように堅く冷たく動かない。息を詰めては大きく吐き出し、さらにまた吐き出すのだった。たった一つくり抜かれた小窓からネオンが明滅して青白い彼の頬を照らす。部屋には裸電球がぶら下がっていて、机代わりのミカン箱がぼつりとひとつ。両側の板壁の向こうから、夕餉の楽しい会話がときおり伝わってくる。彼は小刻みに体を震わせてポタポタと涙を落とす。高ぶった心臓の音が聞こえる。
薄暗い階段を上り、共同炊事場をすり抜けてこの部屋へと急いだのだった。案の定あった。郵便受けの中に白い角封筒。見慣れた文字だ。不安は的中していた。昼間のなんとなくよそよそしい態度でそれは察しがついていた。だが、よもや他家へ嫁ぐとは。キャンパスの白いベンチで約束した「就職したら所帯を持とうね」の言葉はどうなったのか。時は空しく流れてゆく。いつしかネオンの光りも消えて下町の喧噪も引いていった。空が白ばむ頃、彼はまだ座ったままだった。
今日は翻訳はなしですか。
言葉が思い浮かばなくてコメントできませんでしたがちゃんと読ませて頂いてますよ。
日本の浪花節のようなお話。
人情話とでも言いますか。
山本周五郎の短編にでもありそうな。
うまくは言えませんがそんなものを感じながら読ませて頂きました。
やっぱり写真付きがいいですね。
poloさんのダイナミックな写真大好きです。
共同炊事場が出てくるから日本・・・
poloさんの若き日の想ひ出(笑)
poloさんの翻訳のファンになってしまいました。
時々は出してくださいね。
そんな思い出さえない人生は寂しすぎます。
この物語はpoloさんの創作物ですね。書き出しがとても印象的です。poloさんの青春時代をダブらせての作品なのでしょうか。いずれにしても次の展開が楽しみです。