スケッチブック

写真と文章で、日常を記録に残す

蹉跌

2005-09-02 11:28:50 | Weblog


青年は悲しみに打ちひしがれて、両手で頭を抱えて正座をしている。ブロンズ像のように堅く冷たく動かない。息を詰めては大きく吐き出し、さらにまた吐き出すのだった。たった一つくり抜かれた小窓からネオンが明滅して青白い彼の頬を照らす。部屋には裸電球がぶら下がっていて、机代わりのミカン箱がぼつりとひとつ。両側の板壁の向こうから、夕餉の楽しい会話がときおり伝わってくる。彼は小刻みに体を震わせてポタポタと涙を落とす。高ぶった心臓の音が聞こえる。

薄暗い階段を上り、共同炊事場をすり抜けてこの部屋へと急いだのだった。案の定あった。郵便受けの中に白い角封筒。見慣れた文字だ。不安は的中していた。昼間のなんとなくよそよそしい態度でそれは察しがついていた。だが、よもや他家へ嫁ぐとは。キャンパスの白いベンチで約束した「就職したら所帯を持とうね」の言葉はどうなったのか。時は空しく流れてゆく。いつしかネオンの光りも消えて下町の喧噪も引いていった。空が白ばむ頃、彼はまだ座ったままだった。

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11 コメント

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みなさまへ (polo181)
2005-09-02 11:41:50
いつもアクセス有難う御座います。いろいろ考えたすえ、「翻訳物はなにも必ずしも私のものでなくてもよい。巷にいくらでもあるじゃないか」と思うようになりました。バークレーは、散歩には連れて行けないものの、とても元気だし、もう余り心配もしなくなりました。ですから、今後はこれまで通りのブログの編集に戻ります。たまには、翻訳物も掲載させて戴きます。宜しくお願い致します。
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いえいえ (熊子)
2005-09-02 11:52:36
いいお話ばかりで楽しかったわ。もっともっと読みたいなぁ。身近な出来事も楽しいけれど、考えさせられる内容ばかりで、久しぶりに気持ちがいい数日でした。ポロさま、ありがとうございました。
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青春時代の (かと)
2005-09-02 11:59:13
ほろ苦い思い出、今思えば甘い思い出ですね。



今日は翻訳はなしですか。

言葉が思い浮かばなくてコメントできませんでしたがちゃんと読ませて頂いてますよ。

日本の浪花節のようなお話。

人情話とでも言いますか。

山本周五郎の短編にでもありそうな。

うまくは言えませんがそんなものを感じながら読ませて頂きました。



やっぱり写真付きがいいですね。

poloさんのダイナミックな写真大好きです。
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熊子さん、こんにちは (polo181)
2005-09-02 12:24:25
コメントを有難う。決した翻訳を止めたのではありません。これからも続けて、折りをみては掲載します。楽しみにしていてください。ただ、翻訳物となるとなんだか、押しつけがましくてね、躊躇したわけです。いろいろなものを載っければ、より楽しいかなともね。
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かとさん、こんにちは (polo181)
2005-09-02 12:30:03
コメントを有難う。私の身近なお話しならば、コメントもしやすいだろうけれど、他人様が書いた物を訳すだけでは、感想を何と書いていいのか困ると思った次第です。いろいろな記事の間に、チラリホラリと翻訳をしのばせもらいます。笑 かとさん、いつも読んでくれて有難う。
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これは (あまもり)
2005-09-02 13:54:41
翻訳ものではないんですか?

共同炊事場が出てくるから日本・・・

poloさんの若き日の想ひ出(笑)



poloさんの翻訳のファンになってしまいました。

時々は出してくださいね。
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あまもりさん、こんにちは (polo181)
2005-09-02 16:07:02
コメントを有難う。あれっ!そこまで言ってくれるとなると、期待に応えなくちゃ。。ホント?本気になるたちだから、よーし明日載せます。ヒンシュクを買うかも知れないけれど。いや、今日載せましょう。
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poloさんの青春 (anikobe)
2005-09-02 16:39:24
チョット苦い思い出の一こま。

そんな思い出さえない人生は寂しすぎます。
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この物語は (じゃこしかです)
2005-09-02 16:43:10
 polo181さんこんにちは。

この物語はpoloさんの創作物ですね。書き出しがとても印象的です。poloさんの青春時代をダブらせての作品なのでしょうか。いずれにしても次の展開が楽しみです。
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anikobeさん、こんばんは (polo181)
2005-09-02 20:42:46
コメントを有難う。翻訳物を載せるのか、それともこれまでの様に身近な話題にシフトするのか迷っています。まぁ、ブログは自分の為でもあるのだから、よく考えて決めます。
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