スケッチブック

写真と文章で、日常を記録に残す

ショートショート 2

2005-09-01 10:47:19 | Short shorts
息子が必要だったのだ

作者:不詳   翻訳:polo181

看護士は、見るからに疲れ果てて不安げな様子の青年を見つけて、老人のベッドの処へ案内してきました。「息子さんが来られましたよ」と彼女は患者の耳元で囁きました。患者が目を開くまで何度も何度も同じ言葉を繰り返しました。老人は心臓の痛みを和らげるために、かなりの量の鎮静剤を投与されていたのです。でもそのうち、虚ろな目を重そうに開いて、酸素テントの外に立っている若者の方を見ました。老人は右の手をテントの外に出しました。すると、その若者はまるで喉から絞り出すような声で励ましの言葉を述べながら、老人の手を包み込むようにして握りしめました。看護士は青年のためにイスを持ってきました。

その夜、一晩中青年は老人の手を握って励ましの言葉をかけ続けました。青年がしっかりと手を握っていたので、老人はすやすやと眠り続けたのでした。夜明けが近づいた頃に、老人は息を引き取りました。青年はぐったりとした老人の手を胸の上に置いてあげてから、そのことを看護士に告げに行きました。

看護士が死後の処置をほどこしている間、青年は無言で待っていました。看護士は仕事を終えてから、青年に向かって丁重なお悔やみの言葉を述べました。でも、彼は彼女の言葉をさえぎって、「このご老人はだれなのですか?」と尋ねました。驚いた看護士は「貴方のお父様でしょう!」と大きな声で言いました。

彼は、「いいえ、私の父ではありません。一度も会ったことがない人です」と答えました。「それじゃ、何故私がここへ連れて来たときに、そのことを言わなかったの?」と看護士が尋ねました。「だって貴女が強引に・・。あの時、私も貴女と同じようにご老人には息子さんが必要なのだと思いました。でも本当の息子さんはいらっしゃいませんでしたよね。」と青年は答えました。


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13 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
みなさまへ (polo181)
2005-09-01 10:49:37
ご覧戴いてありがとう。バークレーはとても元気です。大好きな小さなアンパンをパクリと食べます。元気にしています。

本日こちらは快晴で照りつける太陽は真夏並です。でも吹き込んでくる風は涼しい。もう少しで快適な秋が訪れることでしょう。
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善意の勘違い (熊子)
2005-09-01 11:18:34
この老人は幸せな、そして穏やかな気持ちで天国に召されたと思います。互いの思い違いが善意に変わり、寂しがらずに召された老人。きっと、サンキュー、アイ、ラブ、ユーと、看護師と若者を上から眺めて昇ったことでしょう。びっくりしたけど、いいお話でした。バークレー君、元気が出て来たね。やっぱり若さかな。(^ー^)
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熊子さん、こんにちは (polo181)
2005-09-01 11:28:30
コメントを有難う。私も良いお話だと思いました。100以上あるすべての話を翻訳するつもりです。(できるかなぁ?自信がないけれど)それも順番を守ってね。錆び付いた頭だから、適当な言葉を探すのに苦労します。笑 明日は自作の小品を入れようかどうか迷っています。
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おもいやり (あまもり)
2005-09-01 11:47:12
見知らぬ老人の手を握り一晩中・・・

父親が亡くなった時のことを思い出しました。

臨終を看取ることができなかった後悔があります。

この老人はなんと幸せなのか、思わず青年に手を合わせたくなりました。
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ポロさま作 (熊子)
2005-09-01 12:00:40
楽しみです。私も中学時代から短篇、詩など書き綴ってきました。簡潔明瞭、されど素晴らしい訳文です。次回作をどんどんお願いします。
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あまもりさん、こんにちは (polo181)
2005-09-01 12:09:25
コメントを有難う。そうでしたか。お父様を亡くされているのですね。後悔をなさいませんように。おわりにのぞむと書いて臨終ですよね。私は大切な人を何人もなくしていますが、一人も臨終に間に合っていません。ちょっと目を離した隙に昇天してしまっています。母の場合などはすぐ隣りにいて、ちょっと自宅に帰った間に息を引き取っていましたのですよ。
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熊子さん、こんにちは (polo181)
2005-09-01 12:12:33
コメントを有難う。いま取りかかっている明日の作品は難解で未だに全体像を掴んでいません。さぁ、これから取りかかろう!元気が出てきたぞぉ。
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今一番必要なもの (じゃこしかです)
2005-09-01 16:52:52
 とても良い仕上がりになりましたね。今の世の中で一番必要なものは、それは他人への思い遣りでは無いかと信じます。その大事なことが、さり気ない言葉の中に良く表れています。



 バークレー君をお大事に!
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じゃこしかさん、こんばんは (polo181)
2005-09-01 21:53:44
コメントを有難う。仰るとおり、他人への思い遣りが大切ですね。人々はもう自分のことで精一杯で、目を外に向ける心の余裕がないようです。ちょっと社会のスピードが速すぎるように思います。もうすこしスローダウンすればいいのにね。
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孤独な老人の死 (anikobe)
2005-09-01 21:55:50
多分幸せに遠い老人だったのでしょう。

死の間際になって、全ての不幸せを払拭してやれたのは、その青年であり、孤独な老人にとって、終わりよければ全て良しの、最期のときを迎えることが出来たのですね。その青年の優しさで・・・



黒ラブちゃん日にち薬で元気な様子。poloさん、安らいでいらっしゃることでしょう。
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