スケッチブック

写真と文章で、日常を記録に残す

ショートショート 5

2005-09-05 15:55:23 | Short shorts
ぼく、ひとりぼっち

原作:不詳 1904
翻訳:polo181


年の頃は6,7歳の子供が駅のベンチに縮こまって座っていました。その子は初老の女性のすぐそばに座っていたので、みんなはその人の子供だと思っていました。彼の足には泥んこの長靴。足はまだ短いので地に着かず、二本の棒のようにベンチから突き出していました。この子はお尻で体を動かせてもう少しだけ右側のその女性に近寄りました。そのはずみで、彼の汚い靴が左側の女性のスカートを汚してしまいました。高級なベッチンのロングスカートでした。「すみませんが、貴女の息子さんをもう少しお行儀良くさせて頂けませんこと?この子の靴で私のスカートが汚れてしまいましたわ。」と穏やかにお願いしました。するとその初老の女性は少し顔を赤らめて「私の息子ですって?!とんでも御座いませんわ。知りませんよ、こんな子は。」とさぞいまいましそうに答えました。

「ぼく、すみません、貴女のドレスを汚してしまって。ブラシで取れるといいのだけれど。」と少年はその女性を真っ直ぐに見ていいました。「いいわよ、心配しないでね。なんとかなるわ。」と言ってから、「ところで、郊外まで一人で行くの?」と尋ねました。「はい、ボクはいつも一人で行きます。一緒に行ってくれる人は誰もいません。父ちゃんも母ちゃんも死んだので、いつもはブルックリンのクララ叔母さんと住んでいるんだけれど、アンナ叔母さんもボクの面倒をみなくちゃいけないと言うんだ。だから、週に2,3日はアンナ叔母さんのところへ行きます。クララ叔母さんは疲れると機嫌が悪くて、ぼくを追い出すのさ。今から行くんだけれど、アンナ叔母さん、お家にいるといいけれど。時々、留守なんだ。すると外で夜まで待つことだってあるし。雨が降ってきたりすると、とても困るんだよ」と答えました。

その女性は少し喉が詰まるように感じて、「あなたはまだ小さいからこの方面は何時間もかかるから、一人ではちょっと無理だわねぇ」と言いました。「いいえ、ぜんぜん。迷子になんかならないよ。でもいつものことだけれど、一人だとさびしいので誰かボクの心の中のお母さんになってくれそうな人を探してその人のそばにくっつくんだ。さっきもそのことばかり考えていたから、あなたのドレスを汚したの。」と少年は答えました。

その女性は右腕を少年の肩に回して強く引き寄せました。あまりにも強く抱きしめたので彼は息が詰まりそうになりました。「いいわよ、私は終点まで行きますから、私のそばにくっついていなさい。」と言いました。<写真は鬼押し出し>

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8 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
良い物語です (じゃこしかです)
2005-09-05 16:26:04
 こんにちは。

本当に良く出来た物語です。年号からするとかなり古い時代の話ですが、旧き良き時代の人々の人情や機微が良く表現されています。ご立派ですよ。

 続けて下さい。楽しみです。
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たとえ、ひとときでも (あまもり)
2005-09-05 17:43:22
ひとりぼっちの少年はひとりぼっちじゃなくなった。

高級なベッチンのロングスカートの女性は終点まで行く予定はなかったかもしれない。ひとりぼっちの少年のためにきっと予定を変更したに違いない。

グッときます。

今までのショートショートの翻訳には共通したものがありますね。「ひとりぼっち」にさせないという。



この短編集の洋書を選ばれたpoloさんの気持ちと翻訳の素晴らしさに感謝します。読むのが楽しみです。
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じゃこしかさん、こんばんは (polo181)
2005-09-05 20:27:36
コメントを有難う。英文の方が遙かに良くて、翻訳するのが無謀だと思うほどです。100年も前の話ですがちっとも古くなくて、いまでもありそうなお話です。子供のいじらしい気持ちと、それを優しく包んであげる見知らぬ女性。話はまだまだ続きます。読んでくださって、有難う。
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あまもりさん、こんばんは (polo181)
2005-09-05 20:35:17
コメントを有難う。またまたお褒め戴いて恐縮です。じゃこしかさんへも書いたのですが、私ごときが翻訳するのは原作者に申し訳ないと感じるほど原作は優れています。貴女の、少年を抱きしめた女性は、予定を変更して終点まで行くことにしたのだとの推察は当たっているのかも知れませんね。翻訳に精一杯で、そこまで想像がつきませんでした。仰る通り独りぼっちにさせないという共通点がありますね。ちっとも気が付きませんでした。お読みいただいて有難う。
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心のお母さん (熊子)
2005-09-05 21:21:03
いい台詞ですね。あるお坊さんの言葉ですが、「世の中に、たくさんの母あれど、我が母は、一人なり」、こんな言葉を思い出しました。あどけない子供の素直な言葉に、心有る人なら抱きしめますね。この経験がこの子の将来に、きっといい影響となり、人の肌の温もりを大事にする大人になったことでしょう。あまもりさまは、いい視点でポロさまの短編を読まれて、ああ、そうだわ、独りぼっちさせない…、そう、短編集の意図があったのではないでしょうか。本当にいい話いっぱいで、心が安らぎます。また仲間に披露しますね。
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熊子さん、こんばんは (polo181)
2005-09-05 21:51:26
コメントを有難う。バー君の病気が判明してから心の元気をなくしてしまった。右手に犬の綱はないので散歩に出てもつまらない。例えば熊子さんは料理が上手だし、新しい料理も考案する。ところが私には何もない。で、ふと思い当たったのがこのショートショートです。他人様の目に触れるのだからいい加減な翻訳ではいけない。なるべくきちっとしたものを出そうとする。これで、かなり気持ちが引き締まるようになりました。

私も貴女と同じように、この子供は真っ直ぐに育っていったと信じます。人は理解してくれる誰かがいないと、数千人の雑踏の中で孤独を感じます。いつも有難う。
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訂正をお許しを… (熊子、再度)
2005-09-05 22:17:12
名僧の言葉を間違えました。では、改めて、「世の中に、たくさんの母あれど、我が母に、まさる母なし」でした。母冥利に尽きる、ありがたい言葉です。最初に聞いたときは、ホロリ、ポロリとしました。母の顔を見たくなりました。それと、料理上手って言葉は、パパカーが卒倒しますから、ここだけの誉め言葉と受け止めます。ありがとうございます。
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熊子さん、こんにちは (polo181)
2005-09-06 11:54:21
コメントを有難う。「我が母にまさる母なし」は何処かで聞いたことがあります。母はもう亡き人ですが、少年時代を振り返ると、文字通り「そうだったなぁ」と思います。母が作ってくれる弁当が美味しくて、中でも牛肉を生姜と一緒に甘辛く煮て佃煮風にしたのがありましたが、これは自分で試してみてもどうしても、同じ様な味が出ません。懐かしいなぁ。
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