
ぼく、ひとりぼっち
原作:不詳 1904
翻訳:polo181
年の頃は6,7歳の子供が駅のベンチに縮こまって座っていました。その子は初老の女性のすぐそばに座っていたので、みんなはその人の子供だと思っていました。彼の足には泥んこの長靴。足はまだ短いので地に着かず、二本の棒のようにベンチから突き出していました。この子はお尻で体を動かせてもう少しだけ右側のその女性に近寄りました。そのはずみで、彼の汚い靴が左側の女性のスカートを汚してしまいました。高級なベッチンのロングスカートでした。「すみませんが、貴女の息子さんをもう少しお行儀良くさせて頂けませんこと?この子の靴で私のスカートが汚れてしまいましたわ。」と穏やかにお願いしました。するとその初老の女性は少し顔を赤らめて「私の息子ですって?!とんでも御座いませんわ。知りませんよ、こんな子は。」とさぞいまいましそうに答えました。
「ぼく、すみません、貴女のドレスを汚してしまって。ブラシで取れるといいのだけれど。」と少年はその女性を真っ直ぐに見ていいました。「いいわよ、心配しないでね。なんとかなるわ。」と言ってから、「ところで、郊外まで一人で行くの?」と尋ねました。「はい、ボクはいつも一人で行きます。一緒に行ってくれる人は誰もいません。父ちゃんも母ちゃんも死んだので、いつもはブルックリンのクララ叔母さんと住んでいるんだけれど、アンナ叔母さんもボクの面倒をみなくちゃいけないと言うんだ。だから、週に2,3日はアンナ叔母さんのところへ行きます。クララ叔母さんは疲れると機嫌が悪くて、ぼくを追い出すのさ。今から行くんだけれど、アンナ叔母さん、お家にいるといいけれど。時々、留守なんだ。すると外で夜まで待つことだってあるし。雨が降ってきたりすると、とても困るんだよ」と答えました。
その女性は少し喉が詰まるように感じて、「あなたはまだ小さいからこの方面は何時間もかかるから、一人ではちょっと無理だわねぇ」と言いました。「いいえ、ぜんぜん。迷子になんかならないよ。でもいつものことだけれど、一人だとさびしいので誰かボクの心の中のお母さんになってくれそうな人を探してその人のそばにくっつくんだ。さっきもそのことばかり考えていたから、あなたのドレスを汚したの。」と少年は答えました。
その女性は右腕を少年の肩に回して強く引き寄せました。あまりにも強く抱きしめたので彼は息が詰まりそうになりました。「いいわよ、私は終点まで行きますから、私のそばにくっついていなさい。」と言いました。<写真は鬼押し出し>
本当に良く出来た物語です。年号からするとかなり古い時代の話ですが、旧き良き時代の人々の人情や機微が良く表現されています。ご立派ですよ。
続けて下さい。楽しみです。
高級なベッチンのロングスカートの女性は終点まで行く予定はなかったかもしれない。ひとりぼっちの少年のためにきっと予定を変更したに違いない。
グッときます。
今までのショートショートの翻訳には共通したものがありますね。「ひとりぼっち」にさせないという。
この短編集の洋書を選ばれたpoloさんの気持ちと翻訳の素晴らしさに感謝します。読むのが楽しみです。
私も貴女と同じように、この子供は真っ直ぐに育っていったと信じます。人は理解してくれる誰かがいないと、数千人の雑踏の中で孤独を感じます。いつも有難う。