大空へ飛び立つ

昨日の朝９時頃。まだベッドの中でゴロゴロしているときに、娘の声で「お母さん色が変わったね」と言ったのが階下から聞こえてきた。最初私は、いよいよ駄目か。死んだ蛹が腐敗して変色してきたのだろうと思った。それまで毎日のように指で押したり、ツマヨウジでコツコツ叩いたりしてもびくともしなかったから、もうとっくに死亡宣言を出しても良いのではないかと思っていた。書物でも、ネットでも前蛹化から一週間で羽化すると書いてあったからだ。もう１０日が経過していた。ところが、階下に下りて、お尻の方を触ってみると柔らかいし、驚いたことにくねくね動くじゃないか。「おお、やったぞ！明日こそは羽化するだろう」と確信したのでした。（変色して２４時間で羽化するとネットで読んでいた）

朝食を終えて１時間も経たない１１時頃に、そのことをブログに書いていた。その最中に妻が駆け上がってきた。ちょっと目を離した隙にもう羽化を終えて二匹ともぶら下がっていると言う。驚いて下りた。４枚の羽はちり紙を丸めたようにくしゃくしゃではあったが、まさしく蝶だ。みるみる内に羽が伸びてそれらしい姿に変化してゆく。ヒラヒラとゆっくり羽を動かす。まるで呼吸をしているように動く。私は座布団を枕にして仰向けの姿勢でミドリちゃんの写真を撮り続ける。

その間テンコは天井にぶら下がったまま。個体差があるのか、羽による息づかいがない。飛び立つ機会をうかがっているのかも知れない。飛んだ！部屋の中をヒラヒラ飛んで台所の網戸の方へ一直線だ。明かりを求めてバタバタもがいている。そっと扉を開いてやると、空中に飛び立った。しばらく私の頭上で旋回していたが、思いっきり良く屋根の上へと飛び去った。

一方ミドリちゃんはまだ羽で「呼吸」をしている。羽化が始まってからちょうど９０分後に羽を水平に開ききった。その瞬間窓を目掛けて飛び立った。ガラスに衝突して墜落した。上に上ろうとするが足がつるつる滑る。私が指を出してやると這い上がってきた。そのままの姿勢で庭へ出た。羽を伏せるようにして飛び立とうとしない。多分羽を乾かしているのだろう。間もなく飛んだ。でも私の回りをグルグル飛ぶだけでフェンスを越えることができない。彼女は一旦エアコンの室外機の上に舞い降りた。一時の休憩ののち、今度はためらいなくヒラヒラと体全体を揺すりながら梢の向こうへと飛んでいった。＜上の写真をクリックしてください。大きくなります。左側がテンコちゃんで右がミドリちゃんです。下のはなかなか飛び出さなかったミドリちゃん。＞

※抜け殻の糸を切って丹念に調べてみた。ちょうど、戦闘機のパイロットがキャノピーを開いて出てくるように、胴体上部が　U　の字に開いていた。そこから抜け出したに違いない。しっぱの方に飴色の粘りのある液体があった。羽化の時に出した排泄物と思える。手にとって匂いを嗅いでみた。青臭い葉っぱの香りだった。おわり。