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まだまだ言い足りないのですが、静岡県知事選も残り数時間という状況ですので、溝口紀子候補のおかしな主張についての私なりの(つまりあくまでも私個人の見解です)解説はこれで最後にしたいと思います。
溝口候補は当初は完全に無所属の状態で立候補表明をされました(と私は理解しています)。しかし、結果としては、全県とまではいかないものの、独自候補を擁立できなかった自民党の地域支部等から強力な支援をもらいながら選挙戦を展開したようです。
だからというわけではないかもしれませんが、溝口候補の主張や考えを聞いていると、溝口候補は従来の自民党型の補助金行政や公共事業重視の政治を志向しているように私には思えてなりません。
例えば、溝口候補は、「県の防潮堤整備は1%しか進んでいない」と川勝候補を批判し、自分が知事になったらもっと積極的に整備を進めるという趣旨の発言をされています。しかし、まず、この「1%しか防潮堤整備が進んでいない」という表現が、かなり誤解を生む言い方になっています。何故なら、それだけ聞きますと、静岡県では防潮堤整備が全く進んでいないかのように思えますが、レベル1地震に伴う揺れや津波を防ぐための防潮堤等の整備は、これまでの対策により既に58%が完了しています(防潮堤等の整備が必要な海岸線290.8kmのうち、169.3kmは既に整備済み)。残りの42%、121.5kmのうち、2013年から16年までに整備が済んだのが「0.28/121.5=1%」なのです。
防潮堤等の整備が必要な海岸線や地域については、1日も早く完成することが基本的に望ましいとは思います。しかし、東日本大震災以降、かつてなかったような立派な防潮堤が完成した被災地域において、「本当にこんな立派な防潮堤が必要だったのか」「これではせっかくの美しい景観が台無しではないか」等の声が多く聞かれることも考えれば、闇雲に整備するのではなく、整備対象の地域で十分な議論や調整が行われることが不可欠です。地震津波対策を全面的に見直した2013年以降、今後整備が必要な海岸線のうちまだ1%しか進んでいないというのは、正にそうした対話が行われているからこそです。そうしたプロセスを無視した主張は、かつて、地域住民の反対を押し切って次々と公共事業を進めた自民党の土建政治を彷彿させるもののように私には聞こえてなりません。
また、驚いたのは、県民の命や生命を守るために進めるというよりも、静岡県の経済を発展させるための手段として防潮堤等の整備が位置付けられている点です。溝口候補の選挙公報等には、「強くて安心な県土をつくるため、防災の強化を図ります」という項目が「1.経済の発展 速やかな経済政策の実行」の中の一つに置かれています。これは正に、従来の自民党的土建政治の発想そのものではないでしょうか。
そして、公開討論会等で溝口候補が主張されていて、おかしいと思わずにいられなかったのが、「人口が静岡県よりも少ない長野県は国から60件、6億円余りの補助金を獲ってきているのに、静岡県はわずか22件、4億円ほどしか補助金が獲れていない。これは市町との連携が出来ていなかったり、国とのパイプが細いからだ。私が知事になったらもっと補助金を獲ってくる」という趣旨の発言です。
これは内閣府が進める「地方創生推進交付金対象事業」のことを指しているようです。本年度予算で国が1000億円計上している「地方創生推進交付金」を都道府県や市町村が行なう事業に対し交付するというものです。確かに、どうせもらえるならもらった方がいいと考える方もいらっしゃるかもしれませんが、この「地方創生推進交付金」の場合、国が交付するのはあくまでも事業費全体の半分です。残りの半分は事業を実施する都道府県や市町村がまずは負担する必要があります。「まずは」としたのは、この地方負担分は「地方財政措置を講じる」とされているからです。簡単に説明すれば、財政的に余裕のある一部の自治体を除き、毎年、国から地方自治体には地方交付税が交付されます。その地方交付税交付金の金額を算定する際に、地方が負担した半額の分を算入するというものです。つまり、制度上は、当初、自治体が負担した分も後で地方交付税交付金という形で戻ってくることになっており、それだけを見れば、補助金はもらわないと損ということになるかもしれません。
しかし、現在は、本来、地方に交付されるべき交付金が全額、地方に支払われているわけではありません。国も財政が厳しいということから、交付金の一部は、臨時財政対策債という形で自治体がまずは借金をしているのです。この臨時財政対策債もいずれは国が面倒を見るということになっていますが、臨時とは言いながら2001年から現在までずっと続いている制度であり、そのため、例えば、静岡県における臨時財政対策債の発行残高は既に1兆1千億円を超え、未だに増え続けています。つまり、今後、ますます国・地方とも財政状況が厳しくなることを考えれば、約束している通り、国が臨時財政対策債の償還に必要な金額全てを負担するとは考えにくいと言わざるを得ません。
加えて、この「地方創生推進交付金」は今後ずっと続く制度であるとは限りませんから、人材育成や観光促進等のソフト事業を新たに行う場合には、交付金が無くなった後(この制度では3~5年後は交付金に頼らずに進めることが求められています)も地方独自の負担等だけで継続できるようにする必要が当然ありますし、この交付金を活用して施設等を整備する場合には、交付金が無くなった後も、地方の負担だけで維持管理等が出来るようにしておく必要があります。
地方財政措置も含め、当初は国が実質全額を負担するとしても、いずれそれなりに地方独自の財政負担も発生するのですから、とにかく補助金を獲ってくるべきというのは、財政規律を無視した主張と言うべきものです。人口減少や超高齢化がますます進む以上、財政上状況も更に厳しくなるのですから、後に様々な負担を生むこととなる事業は最大限少なくする、理想を言えば、いずれは無くなる補助金に頼ることなく、独自の財源内で必要な事業を行なえるようにしていくことが現在特に求められているはずです。
前述のように、溝口候補は、長野県より静岡県は国から獲った補助金が少ないと川勝候補を批判していますが、静岡県より大規模な自治体、例えば、東京、神奈川、愛知、大阪等が獲得した交付金の額は静岡県よりも少ないのです。こうした自治体に対しても、溝口候補は同様の主張をされるのでしょうか。
※内閣府地方創生推進事務局「地方創生交付金の交付対象事業の決定について」より
私は今回、知事選の前に県内で行われた計3回の公開討論会全てに参加し、溝口候補の主張や意見を聞いてきました。川勝候補も言っていますが、私も、あれだけ川勝候補を批判し、独自の候補を擁立すると言ってきた自民党が断念するという厳しい状況の中で溝口氏が立候補されたことについては、心から敬意を表したく思います。そして実際に溝口候補の堂々たる話し振りを見聞きして「さすが元オリンピック選手」と素直に感じました。ただ、そうした話し振りであるが故に、これまで説明してきた、誤解を生みかねないおかしな主張を、疑うことなく受け入れてしまう方々も少なくないのではないかと危惧しています。そこで、投票日の直前にはなってしまいましたが、敢えて、溝口候補の主張の問題点の一部について、私の責任で、解説致しました。知事選での投票における判断材料に少しでもなれば幸いです。
お読み下さり、ありがとうございます。子ども達や更に先の世代の将来のためにも、必ず投票に行きましょう!
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だからというわけではないかもしれませんが、溝口候補の主張や考えを聞いていると、溝口候補は従来の自民党型の補助金行政や公共事業重視の政治を志向しているように私には思えてなりません。
例えば、溝口候補は、「県の防潮堤整備は1%しか進んでいない」と川勝候補を批判し、自分が知事になったらもっと積極的に整備を進めるという趣旨の発言をされています。しかし、まず、この「1%しか防潮堤整備が進んでいない」という表現が、かなり誤解を生む言い方になっています。何故なら、それだけ聞きますと、静岡県では防潮堤整備が全く進んでいないかのように思えますが、レベル1地震に伴う揺れや津波を防ぐための防潮堤等の整備は、これまでの対策により既に58%が完了しています(防潮堤等の整備が必要な海岸線290.8kmのうち、169.3kmは既に整備済み)。残りの42%、121.5kmのうち、2013年から16年までに整備が済んだのが「0.28/121.5=1%」なのです。
防潮堤等の整備が必要な海岸線や地域については、1日も早く完成することが基本的に望ましいとは思います。しかし、東日本大震災以降、かつてなかったような立派な防潮堤が完成した被災地域において、「本当にこんな立派な防潮堤が必要だったのか」「これではせっかくの美しい景観が台無しではないか」等の声が多く聞かれることも考えれば、闇雲に整備するのではなく、整備対象の地域で十分な議論や調整が行われることが不可欠です。地震津波対策を全面的に見直した2013年以降、今後整備が必要な海岸線のうちまだ1%しか進んでいないというのは、正にそうした対話が行われているからこそです。そうしたプロセスを無視した主張は、かつて、地域住民の反対を押し切って次々と公共事業を進めた自民党の土建政治を彷彿させるもののように私には聞こえてなりません。
また、驚いたのは、県民の命や生命を守るために進めるというよりも、静岡県の経済を発展させるための手段として防潮堤等の整備が位置付けられている点です。溝口候補の選挙公報等には、「強くて安心な県土をつくるため、防災の強化を図ります」という項目が「1.経済の発展 速やかな経済政策の実行」の中の一つに置かれています。これは正に、従来の自民党的土建政治の発想そのものではないでしょうか。
そして、公開討論会等で溝口候補が主張されていて、おかしいと思わずにいられなかったのが、「人口が静岡県よりも少ない長野県は国から60件、6億円余りの補助金を獲ってきているのに、静岡県はわずか22件、4億円ほどしか補助金が獲れていない。これは市町との連携が出来ていなかったり、国とのパイプが細いからだ。私が知事になったらもっと補助金を獲ってくる」という趣旨の発言です。
これは内閣府が進める「地方創生推進交付金対象事業」のことを指しているようです。本年度予算で国が1000億円計上している「地方創生推進交付金」を都道府県や市町村が行なう事業に対し交付するというものです。確かに、どうせもらえるならもらった方がいいと考える方もいらっしゃるかもしれませんが、この「地方創生推進交付金」の場合、国が交付するのはあくまでも事業費全体の半分です。残りの半分は事業を実施する都道府県や市町村がまずは負担する必要があります。「まずは」としたのは、この地方負担分は「地方財政措置を講じる」とされているからです。簡単に説明すれば、財政的に余裕のある一部の自治体を除き、毎年、国から地方自治体には地方交付税が交付されます。その地方交付税交付金の金額を算定する際に、地方が負担した半額の分を算入するというものです。つまり、制度上は、当初、自治体が負担した分も後で地方交付税交付金という形で戻ってくることになっており、それだけを見れば、補助金はもらわないと損ということになるかもしれません。
しかし、現在は、本来、地方に交付されるべき交付金が全額、地方に支払われているわけではありません。国も財政が厳しいということから、交付金の一部は、臨時財政対策債という形で自治体がまずは借金をしているのです。この臨時財政対策債もいずれは国が面倒を見るということになっていますが、臨時とは言いながら2001年から現在までずっと続いている制度であり、そのため、例えば、静岡県における臨時財政対策債の発行残高は既に1兆1千億円を超え、未だに増え続けています。つまり、今後、ますます国・地方とも財政状況が厳しくなることを考えれば、約束している通り、国が臨時財政対策債の償還に必要な金額全てを負担するとは考えにくいと言わざるを得ません。
加えて、この「地方創生推進交付金」は今後ずっと続く制度であるとは限りませんから、人材育成や観光促進等のソフト事業を新たに行う場合には、交付金が無くなった後(この制度では3~5年後は交付金に頼らずに進めることが求められています)も地方独自の負担等だけで継続できるようにする必要が当然ありますし、この交付金を活用して施設等を整備する場合には、交付金が無くなった後も、地方の負担だけで維持管理等が出来るようにしておく必要があります。
地方財政措置も含め、当初は国が実質全額を負担するとしても、いずれそれなりに地方独自の財政負担も発生するのですから、とにかく補助金を獲ってくるべきというのは、財政規律を無視した主張と言うべきものです。人口減少や超高齢化がますます進む以上、財政上状況も更に厳しくなるのですから、後に様々な負担を生むこととなる事業は最大限少なくする、理想を言えば、いずれは無くなる補助金に頼ることなく、独自の財源内で必要な事業を行なえるようにしていくことが現在特に求められているはずです。
前述のように、溝口候補は、長野県より静岡県は国から獲った補助金が少ないと川勝候補を批判していますが、静岡県より大規模な自治体、例えば、東京、神奈川、愛知、大阪等が獲得した交付金の額は静岡県よりも少ないのです。こうした自治体に対しても、溝口候補は同様の主張をされるのでしょうか。
※内閣府地方創生推進事務局「地方創生交付金の交付対象事業の決定について」より
私は今回、知事選の前に県内で行われた計3回の公開討論会全てに参加し、溝口候補の主張や意見を聞いてきました。川勝候補も言っていますが、私も、あれだけ川勝候補を批判し、独自の候補を擁立すると言ってきた自民党が断念するという厳しい状況の中で溝口氏が立候補されたことについては、心から敬意を表したく思います。そして実際に溝口候補の堂々たる話し振りを見聞きして「さすが元オリンピック選手」と素直に感じました。ただ、そうした話し振りであるが故に、これまで説明してきた、誤解を生みかねないおかしな主張を、疑うことなく受け入れてしまう方々も少なくないのではないかと危惧しています。そこで、投票日の直前にはなってしまいましたが、敢えて、溝口候補の主張の問題点の一部について、私の責任で、解説致しました。知事選での投票における判断材料に少しでもなれば幸いです。
お読み下さり、ありがとうございます。子ども達や更に先の世代の将来のためにも、必ず投票に行きましょう!