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田舎ぐらし(72)

ー 生きかはり死にかはりして打つ田かな ー


 
 そここでトラクターが動いている。今年も田植えの時季がやって来た。
歳時記に鬼城の句が出ている(上掲)

 古くから農民は地主から田を借り、小作料を払って暮しを立ててきた。
戦後、自作農創設特別措置法という法律ができたおかげで自分の農地が持てるようになった。中学の先生が黒板に書いて教えてくれたこの法律の名は不思議と覚えている。

 自分の農地が持てたといっても、地主一人で持っていた農地を多くの小作人が持つようになったわけだから、おのずと一人当たりの農地は小さくなる。
 相続になって、小さい農地を兄弟姉妹で分けたら家業が立ち行かなくなるので、多くは長男が跡をとる。他の兄弟姉妹は家を出てそれぞれの家庭をつくる。

 機械が普及して、昔のように60歳前に腰が曲がるということはない。個人事業主だからクビになることはないし、田はなくならないからまず食うに困ることもない。しかし、転職はもとより、転勤も、昇任もない。

 一方、サラリーマンの世界では終身雇用は早晩過去のものとなり、人々は身に付けたスキルを手に仕事を探して歩く。こうした、転職が当たり前の社会がやってくるという人がいる。

 農家とサラリーマン家庭を分けるのは昔ながらの「家」の考え方だろう。民法など脇にどかして、「長男だから」で決まるケースが多いように見える。

 生きていくのはどちらも苦労が多いが、生きかはり死にかはり・・・には悲哀が漂う。しかし、生きかはり死にかはりして田を打つ人間がいなければ、夕食の膳からご飯のお椀が消える。
 ※鬼城
   村上鬼城。俳人。本名村上荘太郎(慶応元年5月17日ー昭和13年9月17日)(ウィキペデ  
   ィア)。 

(  次回は ー 医者にはかからない ー )

 

 
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