(2002/ロマン・ポランスキー監督/エイドリアン・ブロディ、トーマス・クレッチマン、エミリア・フォックス)
2002年度のアカデミー賞他たくさんの映画祭で賞賛された作品。米国アカデミーでは、監督賞と主演男優賞、脚色賞をとった。実在のユダヤ系ポーランド人のピアニスト、ウワディスワフ・シュピルマンが第二次世界大戦の終戦直後に書いたといわれる回想録等を元に作られた。原題は「THE PIANIST」。ナチス・ドイツのユダヤ迫害を扱った映画だが、集団劇ではなく一人の男が戦争中の理不尽な迫害の中で生き延びていく姿を、彼の視点で描いている。途中から、ポルポト圧政下のカンボジアを描いた傑作「キリング・フィールド(1984)」を思い出した。あれも、実話だったなあ。
1939年のナチス・ドイツのワルシャワ侵攻から1944年の解放後までの6年余りの話で、時々入る年月の表示が、歴史をある程度分かっている人には効果的だったろう。原作の方が本人の心情などが詳しく表現されていて面白いらしい。しかし、実話なのにストーリーの展開に乱れはなく、先読みされてだれることもなく、それ故の脚色賞でしょう。
色調を抑えた美しい画面構成は、リアルだが「プライベート・ライアン」のように惨くはない。やっぱり、ポランスキーは優れた映画作家ですな。終盤の廃墟と化したワルシャワの街に漂う虚無感。戦後のユダヤ復興の原風景のような感じがしました。
ナチス・ドイツに制圧されたポーランド、ワルシャワでは、ユダヤ人への迫害が始まる。外出時にはユダヤ人であることを示す腕章をしなければいけなくなったり、カフェなどでも<ユダヤ人お断り>の看板が掲げられたりする。やがて、周囲に新設の壁を巡らしたユダヤ人のみの居住区(ゲットー)が定められ、大勢のユダヤ人が閉じこめられる。仕事もなく、食料の配給なども滞り、路上に死人が横たわる悲惨な状況となっていく。更に、強制収容所への移送が始まり、多数のユダヤ人が殺されていく。戦時下なので、ちょっと口答えしただけでも撃ち殺されたりする。この辺も「キリング・フィールド」に似ている。人間の狂気は、いつの時代も同じような顔をしている。
ゲットーの中のカフェでピアノを弾いているシュピルマン。やがて彼の家族も収容所へ送る貨物列車に乗せられることとなるが、知り合いのユダヤ人警察官に見つかった彼だけは奇跡的に助けられる。ナチス傘下に配置されたユダヤ人警察官が、強制収容所への移送にも手を貸していたというのは驚きだった。(アメリカ制圧下のイラクにもイラク人警察があるのとは、ちょっと違うか・・・)
生き残った若いユダヤ人達もドイツ軍の建設工事などにかりだされ、工事の進捗状況により、不要となりそうな数だけ無情にも殺されていく。「俺たち民族を抹殺するつもりだ」。誰かがつぶやく。そして、シュピルマンはゲットーからの脱出を決意するのだが・・・。
▼(ネタバレ注意)
この後は、色々なポーランド人に匿われていくわけだが、ポーランド人にもユダヤ迫害に手を貸す人もいたり、一歩間違えば殺されていただろう状況が何度も出てくる。結局この人は、戦時中一歩もワルシャワから出ることなく、敵の目の前で生き延びたんですな。ゲットーのユダヤ人とナチスの戦闘や、ポーランド人のレジスタンス闘争も目のあたりにしている。
最後は、皮肉にもドイツ軍将校に助けられる。原作本にはこのホーゼンフェルト大尉の日記も付けられていて、この人はシュピルマン以外のユダヤ人も数多く助けているらしいです。
▲(解除)
二度目の奥さん(シャロン・テート)がカルト集団に惨殺されたり、少女へのわいせつ行為で有罪判決などゴシップには事欠かないポランスキー監督は、「吸血鬼(1967)」、「チャイナタウン(1974)」等では俳優としても出てきて、ダスティン・ホフマン似の風貌を見せている。その他の日本公開作品は「フランティック(1988)」、「テス(1979)」、「マクベス(1971)」、「ローズマリーの赤ちゃん(1968)」、「袋小路(1965)」、「反撥(1964)」、「水の中のナイフ(1962)」など佳作揃い。70歳を前にして代表作ができましたな。
ところで、2003年のことだが、シュピルマンの実の息子さんが福岡市に在住されていて、彼がこの映画の関連で西日本新聞にインタビューを受けた時の記事が出ていた。その中で、今回のイラク戦争にもふれて『戦争はいけないことだが、平和主義者は結局、ヒトラーの暴走を止められなかった。フセインがヒトラーになるかどうかはわからないが。』というような主旨の発言をしていた。平和とはなにか。
こういう映画を見ると、イスラエルの強硬な対外軍事行動もわかるような気がするんだが・・・。平和とはなにか、考えさせられます。
2002年度のアカデミー賞他たくさんの映画祭で賞賛された作品。米国アカデミーでは、監督賞と主演男優賞、脚色賞をとった。実在のユダヤ系ポーランド人のピアニスト、ウワディスワフ・シュピルマンが第二次世界大戦の終戦直後に書いたといわれる回想録等を元に作られた。原題は「THE PIANIST」。ナチス・ドイツのユダヤ迫害を扱った映画だが、集団劇ではなく一人の男が戦争中の理不尽な迫害の中で生き延びていく姿を、彼の視点で描いている。途中から、ポルポト圧政下のカンボジアを描いた傑作「キリング・フィールド(1984)」を思い出した。あれも、実話だったなあ。
1939年のナチス・ドイツのワルシャワ侵攻から1944年の解放後までの6年余りの話で、時々入る年月の表示が、歴史をある程度分かっている人には効果的だったろう。原作の方が本人の心情などが詳しく表現されていて面白いらしい。しかし、実話なのにストーリーの展開に乱れはなく、先読みされてだれることもなく、それ故の脚色賞でしょう。
色調を抑えた美しい画面構成は、リアルだが「プライベート・ライアン」のように惨くはない。やっぱり、ポランスキーは優れた映画作家ですな。終盤の廃墟と化したワルシャワの街に漂う虚無感。戦後のユダヤ復興の原風景のような感じがしました。
ナチス・ドイツに制圧されたポーランド、ワルシャワでは、ユダヤ人への迫害が始まる。外出時にはユダヤ人であることを示す腕章をしなければいけなくなったり、カフェなどでも<ユダヤ人お断り>の看板が掲げられたりする。やがて、周囲に新設の壁を巡らしたユダヤ人のみの居住区(ゲットー)が定められ、大勢のユダヤ人が閉じこめられる。仕事もなく、食料の配給なども滞り、路上に死人が横たわる悲惨な状況となっていく。更に、強制収容所への移送が始まり、多数のユダヤ人が殺されていく。戦時下なので、ちょっと口答えしただけでも撃ち殺されたりする。この辺も「キリング・フィールド」に似ている。人間の狂気は、いつの時代も同じような顔をしている。
ゲットーの中のカフェでピアノを弾いているシュピルマン。やがて彼の家族も収容所へ送る貨物列車に乗せられることとなるが、知り合いのユダヤ人警察官に見つかった彼だけは奇跡的に助けられる。ナチス傘下に配置されたユダヤ人警察官が、強制収容所への移送にも手を貸していたというのは驚きだった。(アメリカ制圧下のイラクにもイラク人警察があるのとは、ちょっと違うか・・・)
生き残った若いユダヤ人達もドイツ軍の建設工事などにかりだされ、工事の進捗状況により、不要となりそうな数だけ無情にも殺されていく。「俺たち民族を抹殺するつもりだ」。誰かがつぶやく。そして、シュピルマンはゲットーからの脱出を決意するのだが・・・。
▼(ネタバレ注意)
この後は、色々なポーランド人に匿われていくわけだが、ポーランド人にもユダヤ迫害に手を貸す人もいたり、一歩間違えば殺されていただろう状況が何度も出てくる。結局この人は、戦時中一歩もワルシャワから出ることなく、敵の目の前で生き延びたんですな。ゲットーのユダヤ人とナチスの戦闘や、ポーランド人のレジスタンス闘争も目のあたりにしている。
最後は、皮肉にもドイツ軍将校に助けられる。原作本にはこのホーゼンフェルト大尉の日記も付けられていて、この人はシュピルマン以外のユダヤ人も数多く助けているらしいです。
▲(解除)
二度目の奥さん(シャロン・テート)がカルト集団に惨殺されたり、少女へのわいせつ行為で有罪判決などゴシップには事欠かないポランスキー監督は、「吸血鬼(1967)」、「チャイナタウン(1974)」等では俳優としても出てきて、ダスティン・ホフマン似の風貌を見せている。その他の日本公開作品は「フランティック(1988)」、「テス(1979)」、「マクベス(1971)」、「ローズマリーの赤ちゃん(1968)」、「袋小路(1965)」、「反撥(1964)」、「水の中のナイフ(1962)」など佳作揃い。70歳を前にして代表作ができましたな。
ところで、2003年のことだが、シュピルマンの実の息子さんが福岡市に在住されていて、彼がこの映画の関連で西日本新聞にインタビューを受けた時の記事が出ていた。その中で、今回のイラク戦争にもふれて『戦争はいけないことだが、平和主義者は結局、ヒトラーの暴走を止められなかった。フセインがヒトラーになるかどうかはわからないが。』というような主旨の発言をしていた。平和とはなにか。
こういう映画を見ると、イスラエルの強硬な対外軍事行動もわかるような気がするんだが・・・。平和とはなにか、考えさせられます。
・お薦め度【★★★★★=大いに見るべし!】
一見、気の弱そうな風貌ですが、映画は一級。
その辺は、ウディ・アレンと似てるかも^^
この「ピアニスト」以降は、芳しくないようです。
この映画は今年の深夜に放映されていたのをひさしぶりに、観ました。
戦争の悲惨さと、文化の享受には人種も民族も関係ないことを思い知らされた一作。
けっこういわくつきの監督なんですね。もりだくさんの情報で読み応えあって、助かりました。
未だに世界中で殺し合いが行われているのが残念ですが。
TBができないのは本当に残念です。
この作品は生命の尊厳と戦争そのものを描いた作品ですよね。これだけ巧みに作ってもその狙いが見えてこない人が哀れに思えますが、私の造語で言えば<映画知能指数>が低いのだから仕方ないですか。
「キリング・フィールド」と重なる部分が多いですね。あの映画にも戦慄を覚えました。隣に座っていた女性二人が(英語の発音から判断して)米国人で、「"Imagine" is a suitable song to this movie!"などと感想を述べ合っていたのを思い出します。
別の視点からも、この映画を考える事ができて良かったです。
>人間の狂気は、いつの時代も同じような顔をしている。
呆気にとられる程、適切な表現だと思います。
シュピルマンさんの実の息子が福岡に住んでいたとは・・・。知らなかったです。
>『戦争はいけないことだが、平和主義者は結局、ヒトラーの暴走を止められなかった。フセインがヒトラーになるかどうかはわからないが。』
日本人としても戦時中の事を考えると色々考えさせられますね。
こちらからもTBさせて頂きます。