「蝶の舌」には同じ原作者の別の短編小説「カルミーニャ」と「霧の中のサックス」がミックスされていますが、それは本筋とどう絡んでいるのか? 備忘録はまずはそこから書いてみましょうか。
当然、未見の方には“ネタバレ注意”です。
「カルミーニャ」。
これはモンチョとロケが、村外れで母親と暮らす娘カルミーニャの情事を覗き見するエピソードです。些か小学生には早すぎる体験だと思われますが、台詞にはいかにも子供らしい所もあって微笑ましくなったりもします。
友達になったロケの家は酒屋をしていて、そこは日本の下町のように角打ちができる所謂パブのようなお店なんです。その常連に牛追いの男がいて、いかにも粗暴な感じのその男がカルミーニャとの睦事を自慢げにロケの父親に話すんですね。で、ロケとモンチョは店の裏手でそんな大人の話を聞いた後、ほろ酔い気分の彼の後を二人で追うんです。ロケがリードしている感じですね。途中の道端で出会ったカルミーニャと牛追いは、二人して庭を抜けて納屋へ行き・・・という展開。
カルミーニャはターザンという名の犬を飼っていて、牛追いがやってくるとこのターザンがやたらと吠えるので男は憎々しく思っています。カルミーニャの最初の登場は昼間でしたが、2度目の夜這いはまさに夜。一段と酔いが回っている感じの男はカルミーニャに逢う前についに吠えるターザンを杖で刺し殺してしまいます。映画の流れが暗いムードになりかけた所だったので、この牛追いの行動は更に暴力的な雰囲気を増して行ったように感じましたね。
もう一つの「霧の中のサックス」は、アンドレスが薬局の店員からバンドマンに転身した後の話になるんだろうと思います。
父親ラモンがオーケストラのユニフォームを直した関係で、アンドレスもスカウトされてサックス奏者として働くことになりますが、その巡業先でアンドレスが口のきけない中国人の少女に出逢い恋をするも、それが叶わなかったという悲しいエピソードです。
少女は巡業中の借りの宿となる家に住んでいて、アンドレスはてっきりその家の娘だと思っていたのですが、なんと親子ほども年の離れた男の奥さんでした。男は嫉妬深そうなスケベ親爺。赤ん坊の頃にオオカミに誘拐されて以来この子は声を出さなくなったんだと親爺は言ってました。
巡業からの帰路、娘は木陰に佇んでひっそりとアンドレスを見送り、アンドレスもただ呆然と彼女を見つめるだけというシーンでした。巡業にはモンチョも同行していて木陰の少女に先に気付いたのはモンチョでした。
備忘録としては一気に緊迫感が増す終盤の展開にも触れないわけにはいきませんね。
内戦勃発は、アフリカのスペイン領から始まったようです。
ローサは予てより今の共和党政権でこの国をちゃんと治めることができるのか疑問視していたのですが(ラモンにそれらしいことを話すシーン有り)、その後の現実的な対応が実に早かったですね。
アフリカでのクーデターが発生してすぐに、ローサは家の中にある共和党関連のポスターや新聞、ラモンの共和党の党員証もストーブで焼いてしまいます。共和派の仲間が銃を手に今後の対応を協議するべく召集をかけてきましたが、ローサはラモンの留守を装い、ラモンも部屋にこもって隠れるのでした。
カルミーニャの後日談によって彼女がラモンの娘であること、つまり浮気相手との間に出来た子であることが示され、これは余計なエピソードではないかと感じる人がおられるようですが、僕はこの事がラストシークエンスでラモンが妻に対して反論出来ない要因になっていたのではないかと思っています。ローサに対する後ろめたさが有り、更に内戦で不利な戦いをしてこれ以上家族に悲しい思いをさせられないという気持ちがラモンにあったのではないかと・・・。
同じ村の中で次々と共和派への迫害が強まり、モンチョもアンドレスもベッド脇の窓から夜の闇の中で暴力沙汰が繰り広げられていくのを目撃するのです。
日曜日。何事もないかのように続々と村人が教会へ集まる中、一台のトラックが教会前の広場に停まり、建物の一角から兵士に急き立てられるように共和派の民兵と思しき男たちが連行されて出てきました。教会への拝礼にやって来た人々、その中にはモンチョの家族もいますが、かれらも他の人々と同じように連行される男たちに罵声を浴びせるのでした。
『アテオ(不信心者)、泥棒、アカ、人殺し・・・』
そしてなんとも辛くて哀しいラストシーン。
連行される男たちの中に次々と発見するかつての友人たち。
ロケの父。ロケやロケの母親の悲痛な叫びが辛い。
ハッとするアンドレスの視線の先には巡業に一緒に行ったバンドの仲間が。巡業前に彼が唄った美しい歌が忘れられない。
そして、最後に出てきたのは、ドン・グレゴリオでした。
苦しさに顔を歪めながら先生に罵声を浴びせるラモン。
ローサに促されて同じように叫ぶモンチョ。他の子供たちに交じって、石を投げながら『アテオ!』と叫ぶ。
『アテオ、アテオ・・・ティロノリンコ・・・蝶の舌・・・』(ストップモーション)
中学生、高校生なら、この状況に社会の理不尽さを感じ遣り切れない思いも生まれるでしょうが、なにせモンチョは小学生。よく分からずに周りと同じ行動をとっただけなのでしょう。それでも、先生に向かって何か叫ばなければという思いの中から出てきた言葉が『ティロノリンコ』と『蝶の舌』というのがネェ。胸が痛い。
当然、未見の方には“ネタバレ注意”です。
「カルミーニャ」。
これはモンチョとロケが、村外れで母親と暮らす娘カルミーニャの情事を覗き見するエピソードです。些か小学生には早すぎる体験だと思われますが、台詞にはいかにも子供らしい所もあって微笑ましくなったりもします。
友達になったロケの家は酒屋をしていて、そこは日本の下町のように角打ちができる所謂パブのようなお店なんです。その常連に牛追いの男がいて、いかにも粗暴な感じのその男がカルミーニャとの睦事を自慢げにロケの父親に話すんですね。で、ロケとモンチョは店の裏手でそんな大人の話を聞いた後、ほろ酔い気分の彼の後を二人で追うんです。ロケがリードしている感じですね。途中の道端で出会ったカルミーニャと牛追いは、二人して庭を抜けて納屋へ行き・・・という展開。
カルミーニャはターザンという名の犬を飼っていて、牛追いがやってくるとこのターザンがやたらと吠えるので男は憎々しく思っています。カルミーニャの最初の登場は昼間でしたが、2度目の夜這いはまさに夜。一段と酔いが回っている感じの男はカルミーニャに逢う前についに吠えるターザンを杖で刺し殺してしまいます。映画の流れが暗いムードになりかけた所だったので、この牛追いの行動は更に暴力的な雰囲気を増して行ったように感じましたね。
もう一つの「霧の中のサックス」は、アンドレスが薬局の店員からバンドマンに転身した後の話になるんだろうと思います。
父親ラモンがオーケストラのユニフォームを直した関係で、アンドレスもスカウトされてサックス奏者として働くことになりますが、その巡業先でアンドレスが口のきけない中国人の少女に出逢い恋をするも、それが叶わなかったという悲しいエピソードです。
少女は巡業中の借りの宿となる家に住んでいて、アンドレスはてっきりその家の娘だと思っていたのですが、なんと親子ほども年の離れた男の奥さんでした。男は嫉妬深そうなスケベ親爺。赤ん坊の頃にオオカミに誘拐されて以来この子は声を出さなくなったんだと親爺は言ってました。
巡業からの帰路、娘は木陰に佇んでひっそりとアンドレスを見送り、アンドレスもただ呆然と彼女を見つめるだけというシーンでした。巡業にはモンチョも同行していて木陰の少女に先に気付いたのはモンチョでした。
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備忘録としては一気に緊迫感が増す終盤の展開にも触れないわけにはいきませんね。
内戦勃発は、アフリカのスペイン領から始まったようです。
ローサは予てより今の共和党政権でこの国をちゃんと治めることができるのか疑問視していたのですが(ラモンにそれらしいことを話すシーン有り)、その後の現実的な対応が実に早かったですね。
アフリカでのクーデターが発生してすぐに、ローサは家の中にある共和党関連のポスターや新聞、ラモンの共和党の党員証もストーブで焼いてしまいます。共和派の仲間が銃を手に今後の対応を協議するべく召集をかけてきましたが、ローサはラモンの留守を装い、ラモンも部屋にこもって隠れるのでした。
カルミーニャの後日談によって彼女がラモンの娘であること、つまり浮気相手との間に出来た子であることが示され、これは余計なエピソードではないかと感じる人がおられるようですが、僕はこの事がラストシークエンスでラモンが妻に対して反論出来ない要因になっていたのではないかと思っています。ローサに対する後ろめたさが有り、更に内戦で不利な戦いをしてこれ以上家族に悲しい思いをさせられないという気持ちがラモンにあったのではないかと・・・。
同じ村の中で次々と共和派への迫害が強まり、モンチョもアンドレスもベッド脇の窓から夜の闇の中で暴力沙汰が繰り広げられていくのを目撃するのです。
日曜日。何事もないかのように続々と村人が教会へ集まる中、一台のトラックが教会前の広場に停まり、建物の一角から兵士に急き立てられるように共和派の民兵と思しき男たちが連行されて出てきました。教会への拝礼にやって来た人々、その中にはモンチョの家族もいますが、かれらも他の人々と同じように連行される男たちに罵声を浴びせるのでした。
『アテオ(不信心者)、泥棒、アカ、人殺し・・・』
そしてなんとも辛くて哀しいラストシーン。
連行される男たちの中に次々と発見するかつての友人たち。
ロケの父。ロケやロケの母親の悲痛な叫びが辛い。
ハッとするアンドレスの視線の先には巡業に一緒に行ったバンドの仲間が。巡業前に彼が唄った美しい歌が忘れられない。
そして、最後に出てきたのは、ドン・グレゴリオでした。
苦しさに顔を歪めながら先生に罵声を浴びせるラモン。
ローサに促されて同じように叫ぶモンチョ。他の子供たちに交じって、石を投げながら『アテオ!』と叫ぶ。
『アテオ、アテオ・・・ティロノリンコ・・・蝶の舌・・・』(ストップモーション)
中学生、高校生なら、この状況に社会の理不尽さを感じ遣り切れない思いも生まれるでしょうが、なにせモンチョは小学生。よく分からずに周りと同じ行動をとっただけなのでしょう。それでも、先生に向かって何か叫ばなければという思いの中から出てきた言葉が『ティロノリンコ』と『蝶の舌』というのがネェ。胸が痛い。
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