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同人サークルA-COLORが北海道をうろうろしながら書いているブログです

父親たちの星条旗

2006-12-09 11:27:00 | 映画-2006年

「戦争の意味を考える」

 第2次世界大戦ものの映画としては『プライベート・ライアン』がオレ的には傑作で、この映画を超えるのは難しいだろうし、そもそも「日本が負けた」映画を観るってのもなんだかなぁ、と思って、最初は観る気はあんまり無かったんだけど。

 でも、『映画秘宝』の12月号と1月号で大久保義信が「実録!硫黄島攻防戦」という記事を書いていて、そこに書かれていた苛烈極まる惨状に思わず惹かれて観に行ってしまった。
(っていうか、彼の記事を読むと、どんな映画でも観てみたくなる)

 んなわけで、硫黄島の戦闘については、この程度の知識しかない人が観た感想文ってことで。

 この映画はドンパチアクションとかを期待したら肩すかしを食うと思う。昨今の映画にある人体崩壊もさほど無いし。
 でも、見終わった後には戦闘の描写そのものには、さほど意味がないって思った。

 ――といいつつも硫黄島での戦闘が、どんなものだったのかってのは大久保義信の記事程度のことは、頭に叩き込んでおいた方がいいかもしれない。
 なにせ、この戦闘で米兵は6821人が死んでいるのだ……その戦闘があったという事実を知っていれば、この映画で語られる主人公たちの「英雄を演じさせられる苦悩」が、より真に迫ってくるような気がする。

 余談ながら、日本側は2万人以上が死亡し、ほぼ全滅という有り様である……それを知った上で『硫黄島からの手紙』を観た方がいいかもしれんね。
 まあ、硫黄島のことについて詳しくは、それなりのサイトがあると思うんで、そのへんを参考にしてみてください。

 主人公3人は擂鉢山頂上に「旗を立て直した」ところを写真に撮られたがために、厭戦気分が蔓延していたアメリカ本土で、あたかも勝利の象徴であるかのように英雄視されてしまった――それもアメリカ政府によるプロパガンダの演出たっぷりに。
 主人公たちが英雄を演じることで国威が発揚し、国債が買われ、補給が進めば、結果的に戦争の勝利に貢献したことになる……それが演出過多であったり、勘違いによるものだったとしても。
 道理では、確かに理解できる。
 だが、実際に戦場にいた兵士の気持ちを考えたら? 6000人以上、部隊の1割が命を落とした戦場で、たまたま旗を立て直していて、たまたまそこを撮影されただけの兵士が、“英雄”と祭り上げられてしまったら?
 神経が図太い人なら物怪の幸いと思うかも知れない。
 でも、ともに命を懸けて戦ったのに偶然が重なっただけで他の兵士と特別扱いされてしまう、その苦悩がカットバックでインサートされる戦場での激闘と悲惨な死、それとは裏腹の華やかなアメリカ本土でのショーのようなステージとのコントラストによって重くのしかかってくる。
 戦場で勇敢に戦った兵士たちだって、戦略的・戦術的意味においては主人公たちと等価……勲章によってランク付けするなら、より“英雄的な”兵士たちだっていたはずである。
 それなのになぜ、よりにもよって自分たちが英雄になってしまうのか? それはたまらなく苦痛であったろう。
 インディアン出身の兵士が、このような演出を「茶番だ!」と吐き捨てる。これまでインディアンとして嫌われ者だった自分たちが、今度は戦争のために英雄を演じさせられるんだから、それももっともだ。

 この映画を観て、改めて戦争の意味って何だろうと考えさせられる。
 政治的な大義名分は何となく分かるし、戦略的・戦術的な勝利のために戦うってのも分かるんだけど。
 でも、実際に銃を持って戦う兵士たちは、立派な指揮を執っていようが、敵を何人殺そうが、敵に殺されようが、味方に殺されようが結局、それは一個人の人生として完結してしまう。
 その一方で、“たまたま旗を立てた”だけで英雄視されてしまう兵士もいる。
 そして、その英雄でさえ戦争が終われば用無しとなって、クズのように捨てられてしまう……大義名分の前には、兵士個人のパーソナリティなんてのは消し飛んでしまうのだ。
 だとしたら、いったい何のための戦争……戦っている兵士にとって、何のための戦争だったんだろうか考えさせられた。
 それは生き残ったオレたち(硫黄島で戦ったのは、紛れもなくオレたち日本人の先輩たちなわけである)にとっても、何のための戦争だったんだろうかという問題を投げかけているかも知れないし、、そうじゃないかも知れない。まあ、それは受け取り手の判断ってことで。

 で、その“何のための戦争だったのか”の一つの考え方を示してくれるのが、これに続いて上映される『硫黄島からの手紙』なんじゃないかな、とオレ的には期待していたりする。
 というわけで、『硫黄島からの手紙』も観に行かなきゃならんな~。

『父親たちの星条旗』(映画館)
http://wwws.warnerbros.co.jp/iwojima-movies/
監督:クリント・イーストウッド
出演:ライアン・フィリップ、ジェシー・ブラッドフォード、アダム・ビーチ、他
点数:7点


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